秋葉原日記 (ライブラリ)

山川和『知られざる魯山人』

 陶芸家なのか、食通だったか、北大路魯山人について時々において耳にするし目にもするのだが、正直言ってこれまであまりよくは知らなかった。
 しかし、この印象は、必ずしも当たらずとも遠からずというところだったようで、本書を読むと、実際、魯山人は書家、篆刻家、料理人、陶芸家など様々な顔をもっていたようだ。
 しかも、いずれにおいても一流だったようだし、それも徹底していたし、極めて自由独創だったようだ。
 自分の知人に、お酒の好きな人がいて、その日本酒好きが高じて、田植えから稲刈りまで自ら米を作り、その米を使って杜氏を雇って酒を仕込み、自分だけの酒を造る。一方で、陶芸もよくし、ぐい呑みから徳利や、酒の肴を盛る皿に至るまで自分で焼いて、自分の酒を楽しむ、という何ともうらやましい数寄者がいる。
 この知人と魯山人を同類に扱っては魯山人が怒るかも知れないが、どうもそういうことらしい。
 つまり、新鮮な材料を求め、その材料にあった料理方法を工夫し、最高の状態で提供する。また、その料理にあった器を用意するというもので、そのことを最高のレベルで徹底したということらしい。
 その頂点が、今や伝説ともなった高級会員制料理店「星岡茶寮」となって結実したわけだが、同時に、この星岡によって失意のどん底に落ちるという破格の人生だったようだ。
 魯山人の真骨頂は、やはり陶芸ではないか。実に奔放で魅力的な作風だが、本書を読むとそれも細かな計算の上に成り立っていたようだ。つまり、「いかに不器用に、いかに無造作に仕上げるか」ということであり、「よく検討された無造作」ということだったらしい。
 しかも、その陶芸は、人間国宝に推戴されるほどであったにもかかわらず(結果的には辞退したが)、美術品として観賞されるだけの作品ではなくて、実用品として実際に料理に合った使われ方をすることを前提にしていたという。
 それにしても、本書はなんと膨大な文献と取材から成り立っているものか。4年をかけて現存する資料ほとんどすべてと関係者約80人に取材したという。魯山人に関する貴重な評伝であろう。
(文芸春秋刊)

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