2016/05/13

湊かなえ『望郷』

 日本推理作家協会賞(短篇部門)を受賞した「海の星」など短篇6編が収録されている。
 舞台はいずれも因島とおぼしき白綱島。書名にある通り、この島を出て行った者、残った者たちの葛藤が描かれている。造船と柑橘類の生産で営まれてきたこの島は、対岸との間に巨大な橋が架けられ直接往来ができるようになったのに、過疎化が進み日本で唯一1島1市だったその市も、対岸の市に吸収され合併して市名は消失してしまっていた。
 巻頭の「みかんの花」は、その綱島市閉幕式の模様から物語は始まっている。上京して人気作家となった姉がその式典で挨拶している。島を捨て音信もなく20年ぶりに帰ってきた姉の声を聞いて随分勝手なものだと白々しく思うわたし。しかし、姉はなぜ島を出て行ったのか、驚愕のラストが待っている。
 一つひとつの物語は必ずしもドラマティックなものではなく淡々と進むが、結末にはどんでん返しが仕組まれている。このどんでん返しが秀逸で、これはまさしくミステリーの真骨頂である。
 それにしても文章がうまい。作家という者はつくづくうまいものだと思わせられる。短篇だし滑らかに読めた。しかも、この短篇の中に白綱島の風土がきっちり描き込まれているし、著者自身を投影したとおぼしき島への哀愁が漂っていてしみじみとさせられた。
(文春文庫)


お勧めの書籍