2016/05/10

安田靫彦展

 東京国立近代美術館で開催されている。
 安田靫彦(1884‐1978)は、大正から昭和期に活躍した日本画家。歴史画で知られ、その作品は引用されてあちこちで見かけることはあるのだが目の当たりにすることは少なく、100点もの代表作が集まったこのたびの展覧会は安田の画業の全体像を知る上でも貴重な機会だった。
 作品は制作年代順に展示されているのだが、冒頭にあった15歳16歳の折の作品などすでに完成度も高く、おそらく天才だったのであろう。
 順に見ていくと、かねて見た作品が少なくない。これはあちこちの美術館で見た経験があることのほか、教科書や切手などに引用されていた印象が強いからであろう。
 歴史画に代表作が多いようだが、実際、その端正な作風には感動する。豊かな色彩なのだが、それが見るものには控えめに映る。縁をかたどった線の美しさに特徴があるようだった。
 また、作風が丁寧でとても緻密。どこにも誇張などなく、おそらく時代考証を厳密に行ったのであろうとお思われたし、このことが歴史画なのに作品に信頼感を与えている。
 日本人なら誰でも知っている歴史上の事柄に題材を採ったものが少なくない。だから、見ていくうちに、そうか頼朝はこんな顔だったのか、義経はさすがに若武者らしくりりしいな、などと感じ入ったものだった。
 この兄頼朝と弟義経が対面する場面を描いた「黄瀬川陣」は圧巻だった。六曲一双の屏風絵だが、左隻に義経、右隻に頼朝が配されていて、この絵を見ていると物語が浮かんでくるようだった。
 秀吉を描いた「伏見の茶亭」が面白かった。派手な着物を着て、手には梅の枝を持ち、まるで粋人のようだ。秀吉はこんな人物だったのかと思わせられた。
 この展覧会にも連休中に出かけたのだが、10時のオープンに対し9時半頃会場に着いていたのだが、並んでいたのはこれが前から二人目という状況で、前日の若冲展の大行列に比べれば肩すかしを食ったようなもので、安田靫彦の人気とはこのようなものかと嘆息した次第でもあった。

 


写真1 「飛鳥の春の額田王」(会場で販売されていた絵はがきから引用)


写真2 「伏見の茶亭」(同)

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