2016/05/02

メヒティルト・ボルマン『希望のかたわれ』

 ボルマンは、ドイツの女性ミステリ作家。ナチスが登場する前作の『沈黙を破る者』もそうだったが、本作もチェルノブイリが出てきたりとテーマ自体もなかなか重くて骨太の作品で、しかも前作同様くどくて読みにくい。
 こう書いてしまうと興味を失って先がいらなくなってしまうが、ところが、我慢して読み進むと、二つのストーリーが重層的に展開していて、一見無関係そうなこの二つがクロスしたところあたりから本を手放せなくなってくる。ミステリというよりも、現代社会を深く掘り下げた文学作品として読み始めた方が中途で挫折する失敗を避けられるかもしれない。
 一つ目のストーリー。舞台はツフリッヒ(オランダ国境に近いドイツの町)。レスマンの農場に若い娘が迷い込んだところから物語は始まる。娘は追われているようで怯えていた。
 二つ目のストーリー。舞台はゾーン(チェルノブイリ立入禁止区域の略称)。ヴァレンティナが娘のカテリーナに残しておこうと日記を書いているところから物語は始まる。
 ヴァレンティナの日記は続く。ソ連時代の生活のこと、ちょうど30年前の事故のこと。ソ連は当初事故を住民に対し隠蔽していたこと。悲惨な状況が内側から明らかとなっていく。
 折から、ウクライナからドイツへ憧れて留学していった娘たちの行方不明になる事件が明らかになっていき、ウクライナからレオニードが捜査のためデュッセルドルフに出向く。
 次第に二つのストーリーは、いくつにも張られた伏流水を抱き込んで大きな流れとなっていく。やがてそれらの流れに関連が見られるようになり、物語の全容が見えてくる。
 著者はゾーンの人々に取材を重ねたが、その人たちの口は重かったということ、30年経っても悔しさが癒えなかったことが切々と綴られている。
 本書を読むと、当然のことながら福島の事故に思いが至る。
 著者も、日本語版へのあとがきによると、「この本は、福島の原発事故をきっかけに生まれました」とのこと。また、「そしてほんとうに悲しくてやりきれないのは、「福島」がなければ、わたしたちはチェルノブイリの大災害を忘れていたかもしれないことです」と結んでいる。
 結局、ボルマンは、チェルノブイリを忘れないためにこのいくつにも伏流水が張られた物語を編んだのであろうと思われた。
(河出書房新社刊)


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