2016/03/30

土方正志『震災編集者』

 副題に「東北のちいさな出版社<荒蝦夷>の5年間」とある。
 東日本大震災で被災した出版人の記録である。著者も指摘するように、震災を受けて新聞社やテレビ局などからおびただしいほどの本が刊行されたが、出版社自身の動向というのは実は少ない。
 荒蝦夷(あらえみし)は仙台に拠点を置く。著者はその代表で、働いているのは著者夫婦のほか社員は二人というから確かに小出版社。仙台の事務所はマンションが倒壊こそしなかったものの、室内は全滅の様相。
 そこで山形に一時避難したが、ここからの起ち上がりが早い。それは、「震災に見舞われた都市の出版社として、どうしても早く雑誌を、本を出したい。地元の出版社の雑誌や本が地元の本屋さんに並ぶ光景は、私たちの読者へのなんらかなのメッセージとなるはずだ。」との思いが強かったからだろう。
 荒蝦夷は小出版社だが雑誌『仙台学』の刊行のほか、東北で発行されている様々な出版の編集を行っており、仙台を中心に東北に生活をしている作家などとの結びつきも強いようだ。
 こうした活動が、震災にあたって荒蝦夷に対する大きな支援の輪となった模様で、書店の中には「平台空けて待っている。既刊をすべて送ってくれ」といった心強いところも出てきたようだ。
 また、土方の行動力も素晴らしいもので、書店との連絡などに走り回っている。販売店がなければ新聞が届かないのと同様で、出版社としても書店が店を開いてくれなければ本は読者に届かない。やはり日頃から地域に根ざしていたせいか、荒蝦夷の起ち上がりは早かった。
 巻末に、荒蝦夷-2011年3月11日以降の刊行物のリストが掲載されているが、小出版社、被災出版社とは思われない充実ぶりだ。
 雑誌『仙台学』vol.11が2011年4月26日にはもう刊行されている。B5判72ページのものだが、驚異的な復活ぶりだろう。この雑誌はその後15巻まで発行されている。
 ほかに、『12の贈り物 東日本大震災支援岩手県在住作家自選短編集』(道又力編、2011年8月25日)、『仙台ぐらし』(伊坂幸太郎、2012年2月18日)といった単行本や、東北学院大学『震災学』7巻などがあって、雑誌、単行本、編集担当書籍を含めた総点数は実に49点にも達している。私も出版社のものだからわかるが、これはもうそれこそ寝る暇もなかったであろうほどの活躍ぶりである。
 その背景には、「これだけの大災害である。…、もちろん地元の出版界とて同様だ。著者や書店、そして読者。それぞれが今回の大震災で痛手を受けた。だからこそ、出さなければならない。伝えなければならない、発信しなければならない。著者も、読者も、編集者も、書店も、声を上げなければならない。原稿を書き、本を編み、本を売り、本を読んでもらわなければならない。五年後、一0年後のために、再生のために。これはおそらく東北で本に関わる職業人みなの思いだ。」という意識があったのだろう。出版人として素晴らしい情熱だ。
 なお、あえてあげつらうようなことでもないのだが、気になったことを一つ。2015年の3月11日について「四度目の三月一一日」とあったが、これは五度目の誤記ではないか。私もよくやる間違いなので念のため。
(河出書房新社刊)


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