2016/03/11

青山文平『つまをめとらば』

 今期直木賞受賞作である。
 表題作をはじめ短編三編で構成されている。こういう短編集の受賞というのは直木賞では珍しいのではないか。
 三編とも時代小説で、主人公はいずれも武士。
 「つまをめとらば」は、山脇貞次郎が幼なじみの深堀省吾の家作に住まうところから物語は始まる。
 二人とも一人身で隠居の男だが、女にも勤めにも煩わされることない暮らしに二人とも満ち足りているようだった。とくに、貞次郎など世帯を持つ女も連れてくるような話しぶりだったがついぞ姿を見せなくて、貞次郎によれば「爺二人の暮らしが、居心地がよくて」ということに。
 そんな二人の暮らしに波立つように佐世という女が姿を見せる。佐世はかつて省吾の屋敷で下女奉公していたのだが、10年ぶりで味噌売りといって訪ねてきたのだった。
 老後は傍に親しい友があれば一人身もいい、しかし、死に水は誰にとってもらうのだ、自問した貞次郎だった。
 ほかに、居候の次男坊高林啓吾にやっとお役目が与えられた物語「ひと夏」。しかし、それは杉坂村支配所勤務というもの。しかも、そこは御領地内の飛び地で、その勤務は2年で気を患うというほど難儀なものらしい。
 「逢対」は出仕を求めて権力者に日参する男の話。いつ叶うということもないのに10年も続けている北島義人に誘われ幼なじみの竹内泰郎は若年寄長坂備後守を訪ねるが、後日呼び出されたのは泰郎だった。
 「つまをめとらば」は恬淡としている。しかし、女に思わずあわ立つのもいい。短篇としてきちんと完結している。
 「ひと夏」は、緊張感もあって物語として惹きつけられた。しかし、終盤は無理に終わらせたようで、もう少し読みたいように思われた。これが短篇の難しさだろか。逆に、続きを読者に想像させる短篇の真骨頂であろうか。
 また、「逢対」はエピソードが秀逸で、高いオリジナリティがあった。武士の矜持が現れたどんでん返しには感心した。
 いずれにしても、三編とも文章がうまくて味わいがあると感じた。それにしても、時代小説の作家はどうしてこうも文章がいいのだろうか。
(『オール読み物』3月号所収)


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