2016/02/26

高橋明也『美術館の舞台裏』

 著者は、国立西洋美術館学芸課長を経て三菱一号館美術館初代館長に就任現在に至っている。また、文部省の在外研究員としてオルセー美術館に在籍していたこともある。
 こうした著者だから事例が具体的でエピソードも豊富。それも美術館の仕事から展覧会づくりのこと、さらに贋作事件にまで及んでいてとても面白いし、単なるのぞき趣味ではなく未来の美術館のあり方にまで展開していて大変好ましい内容となっている。
 エピソードを取り上げようとすると面白いもの参考になるもの多くて枚挙にいとまがないが、その中から一つ二つ。
 日本の美術館で海外のコレクションを利用して企画展を開催する場合、新聞社などのマスメディアと美術館との共催となっている場合が多いが、これは日本独自の形態で、欧米では見受けられない。しかも、その発展過程からして企画力、マネージメント力はメディア側に負うところが大きかった。また、日本の美術館には相手側に貸し出すコレクションがなく、一方的に借り受けることとなった。
 この結果、日本の美術館に大きな弊害が二つ発生した。一つは、美術館側に企画力、マネージメント力が蓄積されなかった。また、欧米の美術館からの借り出し料が年々高騰していった。欧米の美術館にとってはおいしい状況となったが、世界の美術館事情を狂わせてしまった。
 こうした状況を見て、ルーブル美術館の名誉館長は「作品をお金で集める習慣をつけてしまったのは日本人なんだよ」と嘆息していたということである。
 ただ、今日では美術館側としてもマネージメント力の重要性を認識し、欧米の美術館のように展覧会マネージメントを業務として扱う専門職を確立する美術館が出てきているということである。
 また、その展覧会の肝心の収支については「展覧会の収支は赤字になることがほとんど」だということだ。「黒字になるのは超有名作品が含まれていた場合などせいぜい10本に1本程度」だということである。まあ、日本の美術館にはギブ&テイクするほどの相手側にとって魅力的なコレクションがないわけだから勢い高額なレンタル料を払うということになるのだろう。
 ところで、日本にも、ルノアールも、ゴッホも、ピカソもある。ただ、一つの美術館に集まっているわけではなくて、全国に散らばっているだけだ。ないのはフェルメールくらいなものではないか。
 そこで、ここで蛇足を一つ。
 つまり、まったくの素人の勝手な提案というか願望だが、全国の美術館から作品を夏の一ヶ月とか一箇所に集めて「全国美術館共同企画日本にある〇〇コレクション展」なるものを開催してはどうだろうか。○○には印象派でも西洋絵画でもいい。何しろ日本には優品が多いのである。
 似たような企画はこれまでもあったように思うが、規模が小さかった。これを徹底してやったらどうだろうか。宣伝次第だろうが、世界中からファンがそれなりに集まるのではないか。それにこれのいいところは、レンタル料も、日本の美術館同士のこと、話がまとまりやすいのではないかと思われる。
 この頃、日本の美術館で開催されている企画展で、海外からの来場者の姿が増えていることに気づく。我々がボストン美術館で、あるいはギメ美術館で浮世絵を見るようなもので、欧米人にとっても一流の美術作品が見られるというのはいい機会で、きっと関心があるのに違いない。
(ちくま新書)


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