2016/02/05

ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』

 スウェーデンのミステリー、ミレニアムシリーズの第4部という設定。
 スティーグ・ラーソン作になる世界的大ベストセラーミレニアムシリーズは、著者急逝により第3部で途切れていた。もっとも、その3部までですら面白くて、文庫にして各部上下計6冊約3000ページを一気読みしたものだった。
 あれから4年。続編はかなわぬものとあきらめていたら、このたび新しい著者を得てミレニアムがよみがえった。
 第3部までの常連、ミレニアムの共同経営者にして記者のミカエル・ブルムクヴェストや編集長のエリカ・ベルジェ、天才ハッカーにして主人公のリスベット・サランデルが帰ってきた。
 第3部のあと、ジャーナリズムの本質を貫き上質の出版を続けてきたミレニアムが経営難に陥り、親会社からは売れる雑誌への転換を促されていて、ミレニアムとしては起死回生のスクープを欲していた。一方、リスベットのその後の消息は杳として知れなかった。
 人工頭脳研究の世界的権威フランス・バルデルがアメリカからスウェーデンに帰ってきたことで物語は動き始める。バルデルの研究は国防を揺るがすほどのもので、アメリカやスウェーデンばかりかロシアなど世界の情報機関が狙っていた。
 この情報をミカエルは、バルデルのかつての部下だったという青年からもたらされたのだが、バルデルがミカエルに会いたがっていると聞かされても当初その気にならなかったのだが、その話の中にリスベットと思われる女が含まれていて、数年ぶりにもたらされたリスベットに関する消息である。
 情報戦とまるで慣用句のようにひと言でいうが、本書の物語はもはやそれはまさしく戦争であり危険な暴力である。それはすさまじいもので、例えば、本書に登場するNSA(アメリカ国家安全保障局)は世界で1日あたり200億以上の通話や通信を盗聴・傍受していると指摘している。
 我々は最近ハッカー行為が政府を脅かしかねないと気づき始めているが、それが最高レベルで描かれているのが本書であり、同時に、町中至る所に張り巡らされた監視カメラが執拗にターゲットを追い詰めていく姿がリアルに描かれている。この監視カメラは日本では防犯カメラと言って犯罪の抑止に効果を上げているとしているが、警察機関の意図を知ったときには震撼とさせられた。
 とにかく物語は息も切らせず気持ちいいテンポですいすいと進む。第3部までと変わらぬタッチであり、第4部からは著者が変わったのだと気づかされないほどの滑らかさだった。何しろ、登場人物の造形も変わらないし、次々と切り替わる情景や連続するスリルも第3部までと同じスピードで展開するのである。
 なお、第3部までと第4部との大きな違いは、ラストシーンで本作は極めてセンチメンタルだったことだろう。こんなことはラーソンにはなかったことで、もっとも、そのおかげでリスベットの素直な心情が浮かび上がってとてもよかったのだが。
 なお、本作は、前3部を読んでいなくともまったく不都合はなく、純粋に面白さを堪能できるだろう。
(翻訳=ヘレンハルメ美穂・羽根由、早川書房刊、上下)


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