2016/01/22

池澤夏樹『うつくしい列島』

 地理学的名所紀行との副題がついている。つまり、名所旧跡や有名な神社仏閣といった観光地を訪ねたものではなく、日本のかたちと自然の美しさを探究した旅となっている。だから、訪問先も慶良間諸島や奥只見、屋久島などと極めて特異。
 それも、24箇所訪ね歩いているのだが、紀行文の掲載誌がナショナルジオグラフィック日本版とあって、やや専門的で、自然科学系の用語が頻出する。理知的で、いかにも池澤らしいといえばまったくその通り。
 まず、視点が新鮮だ。例えば、「日本は大きな国だ」とある。もちろん国力とか経済力のことではなく、国土のことで、それも「日本が領域において広いということ」。
 つまり、ふつうに人が住んでいるところで測ると、「東西には納沙布岬から与那国島まで経度にしてほぼ二二度五〇分、南北には稚内から波照間島までおよそ二一度三〇分」とあり、「これを米国の本土に重ね合わせてみれば、日本の北端はいちばん北のメイン州とほぼ同じ緯度に位置するし、南はフロリダの南端よりも更に南になる。同じ緯度の幅を重ねればニューヨークから中部のカンザス州に至る」とある。
 つまり、「それだけの自然の多様性が日本にはある。表面積では米国の四パーセントにすぎないのに、南北に同等、東西も半分に近い。日本には亜寒帯から亜熱帯までが揃っていて、しかも島国だから島ごとにそれぞれの生態系があり、そこにはモンスーンが複雑な気候を提供する」となる。
 ここまでの引用をイントロとするだけで本書の豊かさがわかるのではないか。それも、出かけた先が実に魅力的。知床半島で流氷の海にカヤックで漕ぎだしたりと挑戦的でもある。
 ここまでが第一部。そして、これはかつてむさぼるように読んだ『南鳥島特別航路』を彷彿とさせるなと感じていたら、第二部はその「南鳥島特別航路」のそのまま再録だった。
 これもやはり紀行文で、それはJTBの月刊誌『旅』に連載されていて(連載時は「風景の彼方へ」というタイトルだった)、もう30年近くにもなるか、毎月、いいところに行くな、いいところに目をつけているな、羨ましいなと感じ入って読んでいたものだった。
 それにしてもあの頃の『旅』はよかった。宮脇俊三さんも元気だったし、紀行文が一つの大きな文学ジャンルになっていた。この頃の旅行雑誌は旅行案内ばかりになってしまっていて、香気も何もなくて嘆息するばかりだ。
 その後、「南鳥島特別航路」は12編が収められて単行本となり、やがて文庫になった。そしてこのたび再録されたわけで、私にしてみれば4度目の「南鳥島特別航路」ということになるが、改めて読み返してみてまったく新鮮さの失われていないことにまずは驚いた。
(河出書房新社刊)


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