2016/01/08

ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』

 『その女アレックス』が大ヒットしたフランスのミステリー作家ルメートル。続いて読んだ『悲しみのイレーヌ』も大きな評判を呼んだ。原作の刊行順序や日本での紹介順序とも異なるがそして3作目が本作。原作の刊行順序では『悲しみのイレーヌ』の次が本作だったらしい。ただし、『悲しみのイレーヌ』『その女アレックス』と続いた主人公ヴェルーヴェン警部は登場していなく、本作だけはシリーズから外れ独立している。
 実は読み始めてしばらくはいらだちが募った。主人公が精神に異常を来しているようなのだ。精神異常者のミステリーというのは、私にとっては往々にして想像の枠外にあるので読みにくいのである。つまり、動機のない殺人事件を読むようなものだ。
 そういう状態が50ページほども続いた。私の読書の習慣では、初めの30ページ、我慢してもせいぜい50ページ程度まで読んで面白くなければ読み続けない。しかし、本書はルメートル作品、前2作が面白かっただけに、何か仕掛けがあるのだろうと我慢をして読み進めた。
 ソフィー。20代、若く魅力的。大学院の修士を出て一流の会社に勤めていた。夫とも仲むつまじい。
 ところが、ある日から物忘れがひどくなり、アポイントを間違えて仕事に穴を開けたり、夫の誕生日プレゼントをどこにしまったのか忘れたりするようになった。
 このような日々が続きついには仕事を失い、夫までも自動車事故で失ってしまう。
 頭がおかしくなってしまったソフィーはベビーシッターの職を得る。ところが、ここでも預かっていた男の子レオを靴紐で首を絞めて殺してしまう。
 死んでいるレオを見つけたソフィーは咄嗟に逃亡を企てる。何がどうなっているのかわからず混乱するソフィーだが、あらゆる知恵を振り絞って逃亡を続ける。出生証明証を偽造し、結婚相談所で自分の痕跡を消し他人になりすますべく相手を探す。なかなかの策略で、ここで出会った男がフランツ。
 読み進むうちに、ほんの小さな変化で読み落としそうになったがソフィーの精神錯乱が収まってきたようなのだ。これはどうしたことか。
 本書は4章で構成されている。1章はソフィーの視点で、2章がフランツの視点という具合に。1章から2章に進んだところで、読者は驚愕の事実を突きつけられる。全体の3割を超えたあたりで大きな山を迎えたことになるわけだが、この先はどのように結末へ向かうのか。もはや本は手放せなくなる。
(文春文庫)


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