2015/10/15

展覧会「時空を超えてつむぐ」

 展覧会を案内するテレビの美術番組で、アークがバチバチと飛んでまるで鉄工所かと見紛うアトリエの様子が写し出されていて、鉄を題材に溶接で造形する彫刻家多和英子が紹介されていた。
 それで非常なる関心があって、実際にその作品を見てみたいものだと念願していた。展覧会は、初め、愛知県碧南市の美術館で開催され、次いで、岩手県花巻市、栃木県日光市へ巡回するとあった。
 碧南市へは出かける余裕がなくて、どこでつかまえようかとやきもきしていたところ、このたびやっと岩手県花巻市の萬鉄五郎記念美術館で開催中のところを見学することができた。
 展覧会には、多和英子vs放庵・達吉・鉄五郎‐との副題が付されていて、碧南市藤井達吉現代美術館、萬鉄五郎記念美術館、小杉放庵記念日光美術館の三館共同企画とのこと。
 大正、昭和期に活躍し、わが国近代絵画を担ってきた小杉放庵、藤井達吉、萬鉄五郎の三人と、現代美術の多和英子を対置させることで、新しい視点から光を当てようという企図のようだ。
 会場に入ってびっくりした。入口に大きな写真パネルが掲示してあって、見慣れた状景が写し出されていたのである。
 見慣れた、という表現はいささか誤解を招くかもしれない。つまり、そこには溶接に取り組む様子が写っていたからで、私が溶接を専門とするからにほかならない。ついでに、専門的にいうと、その溶接は、被覆アーク溶接という種類のもので、強いアークが光り、ヒュームがモクモクと上がっている。溶接姿勢は下向溶接だった。遮光面をかぶっているので顔は見えないが、どうやら作者の制作風景のようだ。
 作品を前にして、不思議な感覚にとらわれた。鉄の造形物であることに違いはないのだが、固さ、冷たさというものが弱くて、かえってやわらかさ、しなやかさが感じられるのである。
 「素地形成」という作品は、どうやら、長い鉄線を並べ、鉄線どうしを横に溶接でつなげ、1枚の板状にしたもののようだ。板は途中で半分に折り曲げられている。横につなげた鉄線どうしに生じた間隙は、溶着金属で塗り埋め込まれている。
 この溶接によって単に鉄板を加工したものとは違った豊かな表情が作品に生まれている。作品の表面は金属ブラシで磨かれたようで、光沢が増すと同時に表面に微妙が陰影が生じていて、作品の質感が一層豊かなものになっている。
 仕事柄、日頃、鉄板を見る機会は多いのだが、鉄板の表面に光と影が生じ、独特の表情を感じ取るという経験は少ない。
 鉄の造形で、そこにやわらかさまで感じ取れるというのは、これはまさしく芸術というものなのであろう。
 なお、鉄線や細い帯状の板を横に並べるようにつなげていくというやり方は多和の得意な造形のようで、「welding698time」など多くの作品に見られた。
ところで、会場には、多和の作品と並んで、放庵らの作品も展示されていて、例えば、「素地形成」の横には藤井の「水・火」という大きな壁画風の作品が展示されていた。萬鉄五郎記念美術館の館長中村光紀さんによれば、「多和英子さんと放庵ら三人との対決」ということだが、私には残念ながら展示会主催者の企画意図がわからなかった。もっとも、私はあまりにも「溶接」を意識して多和の作品に接したためかもしれないが。

 


写真1 岩手県花巻市の萬鉄五郎記念美術館


写真2 多和英子の作品「素地形成」(特別に許可を得て撮影した)


写真3 展示室の模様。ここでは多和の作品と藤井の作品が同じ部屋に展示されている。(同)

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