2015/09/29

川崎秋子『颶風の王』

 颶風(ぐふう)とは、辞書によれば強烈な風、大きなつむじ風のこと。この表題だけで厳しい自然の営みが想像される。
 明治から現代にかけ馬とともに歩んできた6世代にわたる家族の物語である。北海道の大地が舞台らしく壮大なスケールで描かれており、荒々しくも心温まるエピソードが連なっている。
 明治の世、東北の農村に育った捨造。貧農だった。18歳になるや1頭の馬を連れ開拓民募集に応じて北海道に渡る。その時にはわからなくて後日になって知ったことだったが、この馬は捨造の母親が命拾いしたときの馬の血筋だったのだった。
 北海道に渡った捨造は根室に流れ着き、馬の生産と昆布漁で生計を立てていた。捨造の馬は強靱で頼もしく評判がよかった。捨造は馬の世話を上手にする孫の和子たちと暮らしていた。
 馬たちは他の漁師たちにも貸し出され、夏の間、花島の昆布漁にも連れて行かれた。花島は沖合にある無人島で、昆布漁の拠点となっていた。取れた昆布を干すために島の高台まで切り立った崖を馬は昆布を引いた。
 しかし、ある日突然、台風で花島の崖道は崩壊してしまい、孤立した馬たちは無情にも島に取り残されることとなってしまった。捨造と馬たちの関わりはここで途切れてしまうこととなり、馬を失った捨造は和子らとともに帯広へと移住する。
 この物語は、一つの血統で連綿と受けつながれてきた馬たちとと、捨造の母から捨造の孫へ、そして、さらにその孫へと受け継がれてきた交流で成り立っているのだが、時はうつろい、和子の孫が花島を訪れ、先祖が残してきた馬と邂逅する場面が印象的なラストシーンである。
 実はこの本は先日の札幌出張の折、市内の書店で見つけた。帯に三浦綾子文学賞受賞とあり、地元北海道在住ということで、うずたかく平積みにされていた。
 それで、奥付の著者紹介を見て驚いた。職業に羊飼いとある。1979年別海町生まれで、大学卒業後ニュージーランドで綿羊飼育技術を学び、現在は自宅で酪農従業員をしつつ綿羊を飼育・出荷しているとのこと。
 別海町は、オホーツク海に面し、中標津町や根室市などに接している。私はかつてここを二度ほど通ったことがあるが、見渡す限りの放牧地帯だったと記憶している。
 文章は骨太く土着性が感じられる。近頃の若い女性作家が描くようなしゃれたものではない。しかし、歴史物語でも紡ぐようなこのごつごつした文章が、いかにも颶風らしくて印象深いのだった。
(角川書店刊)


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