2015/09/18

柴田元幸翻訳『現代語訳でよむ日本の憲法』

 本書は、古くさい言葉遣いを読みやすく現代言葉に置き換えたというものでは実はない。
 日本国憲法に英文版のあることは知られていたが、本書はその現代日本語訳である。
 日本国憲法は1946年11月3日に公布されたが、占領下の当時、その同じ日、「英文官報号外」に"THE CONSTITUTION OF JAPAN"が掲載された。
 著者による本書はじめにによると、これは、GHQ草案の英文を踏まえつつも、あくまで出来上がった日本国憲法の英文版として、日本側が作成した文書。
 本書はその現代日本語訳だが、訳したのは現代アメリカ文学で当代人気の翻訳家。著者自身があらかじめ断っているが、著者は法律の専門家ではなく、ただし長年翻訳という作業に携わってきた人間が憲法英文版を素直に読めばこう訳せるという精神で作成したものだということ。なお、憲法学者木村草太が監修している。
 これはなかなか面白い試み。
 本書では、柴田訳を左ページに、英文版を右ページに見開きで配置している。
 全文に渡っているが、気になるし、面白いだろうと思われるところはやはり前文と第九条か。このあたりは法律文にしては情緒的でもあり、そもそも英文坂ではどうなっているのかも関心が持たれる。
 ここでは、少し長くなるが、前文の一部を引用してみよう。
<英文版>
The Constitution of Japan
 We,the Japanese people,acting through our duly elected representatives in the National Diet,determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land,and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government,do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this Constitution.Government is sacred trust of the people,the authority for which is derived from the people,the powers of which are exercised by the representatives of the people,and the benefits of which are enjoyed by the people.This is universal principle of mankind upon which this Constitution is founded.We reject and revoke all constitutions,laws,ordinances,and rescripts in conflict herewith. (以下略)
<柴田訳>
日本の憲法
 私たち日本の人びとは、正しい手続きを経て選ばれた、国会における代表者を通して自分たちの意思を実現する。自分たちのため、子孫のために、私たちはすべての国と平和に手を結ぶことからもたらされる果実を確保し、自由の与えてくれる恵みを、この国の隅々まで広めていく。政府の行動によって戦争の悲惨に引き込まれることが二度とないよう、主権は人びとにあることを、かくして私たちは宣言し、ここにこの憲法を定める。統治権は人びとからの不可侵の預かり物であり、その権威は人びとから発し、その権力は人びとを代表する者たちによって行使され、その恩恵は人びとによって享受される。人類にとって万国共通のこの原理を、私たちの憲法もまた土台にしている。これと対立するすべての憲法、法律、命令、詔令を私たちは退け、廃する。(以下略)
 英文版と柴田訳に巻末に添付されている正文を加えて3様に読んでみて感じたこと。決定的なところは、Japanese peopleが正文では「日本国民」とあったところ、「日本の人びと」となったことなどであろうか。
 そして、このたびそれぞれの全文を読み返してみて感じたことは、正文は日本語として格調もあり、憲法としてもわかりやすい文章だということ。もっとも、これは長年にわたって馴染んできたというせいでもあるのだろう。
 これに対し、柴田訳は、随分と読みやすくはなった。それと、正文にあった余計な言い回しがなくて、ストンとわかる文章となっている。つまり、正文は解釈の余地が生ずるような文章だったということが言えるかもしれない。
 ただし、英文版を翻訳したことによって、正文では得られなかったような読み方ができるようになったといったような積極的な違いは見いだせなかった。
 なお、面白かったのは、翻訳者柴田と監修者木村の「英語からみた日本の憲法」と題する対談。法律家の翻訳、文学者の翻訳などについて率直に語り合っている。これなど、憲法学者の解釈論争などより面白くて随分と参考となった。
(アルク刊)


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