2015/09/10

梯久美子『廃線紀行』

 もう一つの鉄道旅-との副題が付いていて、全国50の廃線を踏破した紀行文に写真と図面がカラーで添えられていて楽しい。
 それにしても、女子鉄なる言葉もあるくらいでこの頃では女性の鉄道ファンも珍しくなくなってきているが、それが廃線派にまで及んできているというのはちょっとした驚き。
廃線歩きとは、廃線になった鉄道の施設跡を訪ねるものだが、著者によると、廃線歩きの基本は、かつての線路の跡を徒歩でたどることで、そうすると走っている列車から見るのとは違った景色が見えてきて、歩く速さでしか発見できないものもあるといい、「雑草の陰に隠れたキロポスト、錆びかけた信号機や警報機、蔓性の植物がからみついた架線柱……。靴底に硬いものが触れて地面を見ると、とっくにレールが撤去された道床から、白っぽく風化した枕木がなかば土に埋もれながら顔を出していたりする。」という。
 また、廃線といっても人家もないような寂しい場所ばかりを通っているわけではなく、市街地で廃線歩きを楽しめるところもたくさんあるといい、著者自身、女性の一人旅ということもあって、危険をともなう探索はしないことにしているという。
 一つ拾ってみよう。下夕張森林鉄道夕張岳線。「インターネットでこの橋を見て一目惚れし、北海道までやってきた。夕張市のシューパロ湖にかかる三弦橋」とある。夕張岳線の遺構で1963年に廃線になったが、「緑の山々に抱かれた湖を低く横切る優美な姿。全長は三八一・八メートルある。森林鉄道の橋梁では全国でも例のないこの長さが、橋全体をほっそりと軽やかに見せている。現役の鉄道橋を含めても、これほど絵になる橋にはなかなかお目にかかれない。」とあり、本文には著者自身が撮影した写真が添付されているが、なるほどなかなか見事なトラス橋だ。
 いやはや大変な惚れ込みようで、それにしても森林鉄道まで訪ね歩くなどいうのはよほどの鉄道好き、廃線好きで、読んでいてほほえましくなってくる。また、廃線歩きは基本的には一人旅だというし、当然のことながら写真も自身によるもので頼もしくもある。
 ただ、一つの廃線に割いたページスは新書で4ページだけ。写真や図版も載っているから文章の量としては2ページ分と少しで、ちょっと物足りなかったというのが正直は感想で、文章はもちろん、写真や図版もいいし、もう少し長めにして欲しかった。
 それにしても、私も鉄道好きで全国の鉄道は全て踏破しているが、廃線旅も悪くないなと感じ入りもしたものの、しかし、これ以上鉄道にのめり込んでは収拾がつかなくなるとの自戒もなくはない。
(中公新書)


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