2015/08/18

ハラルト・ギルバース『ゲルマニア』

 ドイツのミステリー。ドイツ推理作家協会賞新人賞受賞作とある。
 ナチ体制下のベルリンが舞台。連合国軍の空爆が激しさを増し、ノルマンディー上陸を許したとあるから大戦末期か。
 ナチの恐怖政治下、ユダヤ人であることで公職を追放されている元は刑事警察で殺人捜査の警部であるオッペンハイマーに対し、SS(親衛隊)大尉のフォーグラーから殺人事件捜査への協力を命じられる。
 妻リザが幸いアーリア人のため収容所行きを免れているが、何時連行されるかもわからない不安な日々、SSとの関わりなど恐怖以外の何物でもない。SSにしてもユダヤ人を使うなどもってのほかで、同僚には露骨に嫌悪感を示すものもいたが、フォーグラーは事件解決を優先させたのだった。
 もとより拒否などできるはずもなく現場に出向くと、そこには凄惨な死体が。若い女で、首に絞殺の痕があった。現場は前の大戦の慰霊碑の台座前で、若い女の下半身が慰霊碑に向けられており、犯人の意図が感じられた。しかも、若い女は下着を着けておらず局部が摘出されていた。殺害現場はほかにあり、周到な計画のもと実行されたものと思われた。
 フォーグラーはオッペンハイマーに対し背景説明もなしに捜査は極秘だといい、運転手が毎朝車で迎えにきてフォーグラーが設置した捜査本部に連れてきた。しかも、ユダヤ人は識別のためにワッペンを上着に縫い付けること義務づけられているのだが、あろうことか、ワッペンを外してもよいとし、それはオッペンハイマーの行動をスムーズにさせるためだというのだった。
 緻密な捜査が進む。同じように行動するうちにフォーグラーには捜査の基礎の必要性が痛感させられた。犯行現場が特定された。しかし、犯人にはたどり着かない。捜査はSS中将にまで及んだ。オッペンハイマーは一歩も退かず、フォーグラーも身分を賭けて臨む。
 緊迫感のあるストーリーが続く。長編なのだが緩むことがない。
 本書の魅力は二つ。一つはミステリーとしての面白さ。ある種警察小説のカテゴリーに含めてよいのだろうが、とにかく試行錯誤をしながら少ない情報を頼りに地道な捜査が続く。これはもうSSですらできない刑事警察の手法だ。
 もう一つはナチ体制下のベルリンが丁寧に描かれていること。ユダヤ人への迫害。大戦末期の生活。これらがリアルに表現されている。
 ゲルマニアとはもとよりヒトラーが理想としたベルリンの都市計画のことだが、その世界に冠たるベルリンが空爆にさらされ灰燼と帰している。本書は結局、ミステリーの形を借りてベルリンの崩壊とそこに住む人々を描きたかったのだろうと思われた。
 オッペンハイマーはベルリンからの脱出を企図としていたのだが果たしてどうなったのか。捜査が終了すれば秘密を知る者として闇に葬られるのか。フォーグラーがオッペンハイマーに対しとった最後の行動とは何だったのか。救いはあったのか。意味深い印象的なラストシーンが待っている。
(集英社文庫)


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