2015/08/11

岩波書店編集部編『私の戦後70年談話』

 岩波の依頼に応じた47人のメッセージが載っている。依頼の対象は1940(昭和15)年以前生まれの人たちで、当然、戦争体験を持っている人々だが、依頼内容は、自身の戦中・戦後体験や戦後日本社会の歩みをどう見ているか、現在の日本への意見、将来への提言等々、「次の世代に、いま、これだけは語っておきたい」、「もし、自分が戦後七〇年談話を出すとしたらこういうことを書く」といったこと。
 47人には、文化・芸能や学者、政治家、実業家などの名が連なっている。この中には、順不同だが山田太一、梅原猛、香川京子、奈良岡朋子、山田洋次、古在由秀、益川敏英、丹羽宇一郎、不破哲三、野中広務、五木寛之、半藤一利、野坂昭如、澤地久枝などとあり、「村山談話」の村山富市も含まれている。
 いくつか拾ってみよう。
 映画監督の山田洋次(1931年生)は、旧満州で幼少期を過ごした体験を持つが、「戦後生まれのドイツのメルケル首相はアウシュビッツ収容所の解放七〇周年に合わせてベルリンで開かれた式典に出席し、「アウシュビッツを私たちドイツ人は深く恥じます。人道に対する犯罪に時効はありません。過去を記憶し続けることは私たちの責務なのです」と述べている。ヒトラー時代に同盟国だった日本は、日本人と日本の政府はこの態度を謙虚に学ぶべきである。中国や韓国との関係改善はそこから始めなければならないだろう。……」と率直に述べている。
 実業家で中国大使の経験を持つ丹羽宇一郎(1939年生)は、「いま憲法を変えようとする人々は、明らかに戦争に近づく条項を挿入しようとしています。戦争から遠ざかりながら、いかに国を守っていくかが重要なのであって、集団的自衛権でわざわざ他国の戦争に近づき参加していくのは危ない。」と述べている。
 官房長官や自民党幹事長を歴任した野中広務(1925年生)は「八月十五日に出すという安倍総理の談話もいろいろ言われていますけれども、事実は一つしかないんです。過去の事実は現実と受け止めて、過去に対して謙虚でなければ、現実に目をつぶって、近隣諸国や世界の信頼を得ようとしたって、それは無理ですよ。安倍さんはこの頃は、過去についてある程度認めて、未来志向の方に重点を持って行こうとしていると聞きますが、将来を語る前に、やはりこの民族の前の時代の先輩たちがどのような施策の誤りによって、軍国主義を徹底し侵略に出てしまったのかを、もっと冷静に謙虚に受け止めて反省をしてくれなかったら、この国の将来は危ういと思います。」と語っている。
 在日二世作家の梁石日(1936年生まれ)は、「私の若い頃には、在日と日本人がふれあうことは日常的に少なく、……お互い別の世界に住んでいたのです。今も両者の交流は多くはないと思う。」、「日本社会に一言言うならば、これ以上右傾化しないことだと思います。安倍のような政権が長く続くと、周辺も市民も、知らぬ間にその考えが浸透するわけですから。」と述べ、危機的突発事でもあれば暴発するのではないかと懸念を示している。
 拾ったのはここまでだが、全般的な印象としては、戦争の悲惨さ、語り継ぐ重要さ、平和の尊さ、不戦の誓い、などというものが多かった。当然のことで、それはそれでよいのだが、新鮮さには欠けていた。それと、今、日本が出す戦後70年の談話はかくあるべきだという熱く正面から論じたものがなかったことは残念だった。
 もとより本書は、内外から注目されている「安倍談話」に向けて企画されたものであろう。とくに、安保法制論議が進む中、保守的言動の強い安倍首相が、いわゆる「村山談話」を踏襲するのかどうかに関心が集まっているが、日本の識者の戦後70年に向けたメッセージが本書程度だとすれば、そのことももっと心配になってきたのだった。つまり、これでは安倍首相には太刀打ちできないのではないかと。パラドックスだが、そのことがわかったという一点だけでにおいて本書の価値はあったというべきか。これではいかにも寂しすぎるが。
(岩波書店刊)


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