2015/08/04

尾上菊之助歌舞伎舞踊公演

 先週末日経ホールで行われた。
 歌舞伎ですら年に1度劇場に足を運ぶかどうかというところ。いわんやその舞踊となると初めてのこと。チケットをもらったから出かけたものの、どういうものか見当もつかなかった。
 ところがこれが面白かった。これは新鮮な驚きだった。歌舞伎俳優が踊る舞踊、あるいは歌舞伎の場面に出てくる舞踊だけを取り出したもの、という先入観だったのだが、何より踊りが美しいし、物語性もあって楽しめた。
 演目は「北州」と「鷺娘」の二つ。踊りはすべて菊之助一人。
 初めに「北州」。菊之助が黒紋付き袴姿で登場する。清元の素踊りだ。詳しいことはわからないが、どうやら数人の登場人物を一人で踊り分けているようだ。
 凛としたたたずまいとなまめかしい美しさが感じられた。とくに私には指先にまで行き届いた手の動きがことのほか色っぽく思われた。清元があるとはいえセリフがあるわけでもなく、踊りだけで表現するその格調ぶりに感心した。
 次が「鷺娘」。幕が上がると鷺の精であろう白装束が登場する。鷺が地上に降りてきたところか。少しして、引抜。一瞬で衣装が明るい振り袖に変わった。そのまま舞台上で、持っている傘でわずかに身を隠しながら行うもので、いかにも歌舞伎らしい面白さ。
 しかし、鷺はいずれ空に戻るはず、どうやって白装束になれるのか、もう1枚下に衣装があるものなのか、いぶかしく思っていたところ、しばらくして鷺が舞台袖に引っ込み、少し待つほどにさらにあでやかな衣装で再び登場。この引抜が二度三度と行われ、最後には白装束に戻る。引っ込んでいたた最中に衣装を整えていたわけだ。
 それはともかく、この最後の場面が極めつけで、鷺に戻らなければならない精の狂おしさが伝わってくる。身もだえ、時には激しくもある。そういう踊りだった。
 実質約1時間の舞台。これがまったくあきさせない。会場は95%が女性。男はちらほらする程度。私もそうだったが、舞踊に対する先入観が男の足を遠ざけているのかもしれない。この歌舞伎舞踊に限っては一見の価値があると思った。
 初めて見たほどだからまったくの門外漢。何でも見てやろうがモットーだから足を運んだようなもの。もとより的外れは覚悟の上だがどうせずぶの素人のこと、恥を忍んであえて一言。
 演じた尾上菊之助がよかった。とにかく美しい。演し物としては「鷺娘」が物語性もあってわかりやすく、引抜などという歌舞伎伝統の技もあって楽しめたが、私には「北州」の方が素晴らしかった。素踊りであれだけ惹きつけるというのは歌舞伎の伝統であろうか。大変魅力的なもので、知ったかぶりをすれば、祖父梅幸を彷彿とさせた。


写真1 公演のパンフレット


写真2 会場の日経ホール。幕が上がる直前。

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