2015/07/27

中村文則『あなたが消えた夜に』

 市高署の管内で殺人事件が発生する。通り魔の犯行とみられ、1件目と手口が同じで現場も近いところから同一犯と思われ、連続通り魔事件となった。犯人は目撃証人から「コートの男」と目された。
 所轄である市高署の若い刑事中島も捜査に投入され、警視庁捜査一課の女性刑事小橋と組むこととなった。小橋は中島よりもっと若い。
 中島と小橋の担当は地取り捜査。地取りとは、目撃情報など現場周辺の聞き込みが中心の捜査。土地勘も必要ということで所轄がコンビになることが多いようだ。
 3件目の事件も発生しながら捜査本部は犯人にたどり着かない。模倣犯の存在も疑われる。
 さらに事件は4件目5件目と拡大していく。膨大な捜査員が投入され、あらゆる角度から捜査が進められていく。
 中島は、殺害現場に立たせてもらうことすらままならないほどの軽輩のあくまでも所轄の刑事。しかし、小橋と組んで事件をじっくりと読んでいくと、そこには思いもかけない展開が現れてくるのだった。
 本書は単行本で400ページを超す長編。ミステリーだし、主人公が警察官となれば最近流行りの警察小説ということになるが、そのつもりで読むと期待は裏切られかねない。何しろ徹底したディテールの積み重ねが特徴で、極めて子細。
 そう言えば、著者の傑作『掏摸』も細かなディテールの積み重ねが持ち味で、それがリアリティを高めていたのだった。
 本作もその色彩が濃いが、それならば、地道でそれこそ地を這うようなと一般によく形容される警察小説そのものということになってしまうが、本作はそれがよほど徹底している。
 本作をいわゆる流行りの警察小説として読むと本書は読み通せない。おそらく挫折する。つまり、ここで描かれているのは謎解きよりも、あぶり出されてくる人間の業なのである。とにかく人物描写が面白いし、その緻密な描写の中から謎解きのヒントが出てくるという仕掛けである。
 これが芥川賞作家の警察小説かとも思わせられるが、リアリティはあるものの、テンポある緊迫感には弱かったというのが率直なところ。
(毎日新聞出版刊)


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