2015/07/13

磯崎憲一郎『電車道』

 物語はゆったりと流れていく。その流れはいつしか100年にも及ぶ。また、一見無関係そうに流れ出した二つの流れが、いつしか交わるときがくる。この間、いくつもの伏流水が顔を出しまた潜る。それはあたかも鉄道線路が分岐したり合流したりして進む様にも似ていて、物語は進むに従って様相を様々に変化させるから注意深く読み進む必要がある。
 男は、妻子を捨て出奔する。桑畑の広がる台地の斜面にあった洞窟に住み着く。7軒の農家があり、有毒植物の説明などをしているうちに子供たちが男になついていく。やがて私塾が開かれ、私立学校となっていく。男はいつしか校長となっていた。
 一人の男が、政治家を志し選挙に立候補するが落選。勤めていた銀行を辞めており居所がなくなった男は伊豆の温泉宿に逃げ込む。やがて電灯会社の役員の職を得、将来は電灯会社の顧客になるといって周囲を説得し鉄道会社を設立し社長となる。男はそもそも営業赤字を覚悟し、沿線宅地開発で上げる利益を生命線としていた。
 かつての洞窟の男は、台地の反対側に鉄道線路が伸びてくるや、初め住む者とていなかった沿線の土地を男は少しずつ買いためていた。やがて男は自ら縄張りをして駅前の宅地開発を断行していく。
 明治から始まった物語は、関東大震災、終戦、そして東京オリンピックへと進む。その道は決して電車道のような一本道ではなかったのだが、鉄道建設を軸にリアリティの高いエピソードを丹念に紡ぎながら進んでいる。そこには近代日本の歩みが誠実に活写されていて好ましかった。
(新潮社刊)
  


お勧めの書籍