2015/07/10

大湊線と尻屋崎

 入道崎、龍飛崎と巡って次は青森から青い森鉄道で野辺地を経て大湊線で下北半島の尻屋崎を訪れた。
 7月4日、野辺地8時02分発大湊線大湊行き。2両のディーゼル列車ワンマン運転。土曜の下りだし車内は空いていて、乗客は4人のボックスシートに一人ずつの割合。
 なお、野辺地は南部藩の北海道交易の港だったところ。駅前にその歴史を物語る石造の大きな常夜灯が立っている。また、野辺地駅周辺には日本最初のものとして知られる見事な鉄道防雪林が今に美しい姿を見せている。この林に近いところには、かつて、南部縦貫鉄道レールバスのホームがあった。
 野辺地を出ると少しして左窓に陸奥湾が見えてくる。下北半島を北上しているわけだが、列車はどこまでも陸奥湾に沿って左に大きく回り込むように進む。右手は太平洋で、列車から海が見えることはないが、地図で当たりをつけると最も狭いところでは6キロ程度の幅しかない。原野のような様相で、車窓からはうかがい知れないが、六ヶ所村の原子燃料サイクル施設や石油備蓄基地などがあるはずだ。
 列車は左に大きくカーブしているのがはっきりわかり、やがて左前方に恐山が見えてきた。左は湾の向こうに手前が夏泊半島そして遠く津軽半島である。
 列車のスピードが速い。くたびれたディーゼル列車とは思われないほどだ。直線距離も長くて、有戸を出ると線路は一直線となる。これほどの直線区間は北海道以外では見られない。
 しかも、駅間距離も長い。有戸-吹越間などは何と13.4キロもあるし、前後して北野辺地-有戸間6.8キロ、吹越-陸奥横浜間7.1キロなどと続く。
 また、どこまでも平坦だし、このため大湊線の表定速度は実に68.7キロ(快速列車の場合)にも達する。乗っていて気持ちがいいくらいのスピードである。全線58.4キロ、乗っているこの普通列車の大湊到着は9時04分だから、各駅停車でさえ表定速度は60キロに近い。
 大畑8時59分着。終着大湊の一つ手前だが、むつ市の中心田名部に行くならここがバス便の最寄り駅。尻屋崎へはここからむつバスターミナルで乗り継ぎ。
 そのむつバスターミナル発9時30分尻屋崎行き。途中、むつの市街を抜けて東通村に入ったあたりであろうか、旧斗南藩の地を示す木碑が建っていた。官軍との戦いに敗れ会津から飛ばされてきた藩士たちの塗炭の苦しみが伝わる。
 乗客は自分を含めて二人。今一人は50代の奥様然とした女性である。最後までこの二人だけで、途中下車もなくまるで直行便。岬が近づいて日鐵鉱業所や三菱マテリアルといった停留所が続く。尻屋の集落では灯台そっくりのドームを持った小学校が現れた。
 下北半島は、全体がまさかりのような形をしており、刃の部分が陸奥湾に面し、柄の頂点に当たるところが尻屋崎である。地図で見ると鋭く太平洋に突き出ていることがわかる。
 バスは岬の突端、灯台近くまで行ってくれた。これは大変便利で、岬への入口ゲートで降ろされると20分ほど歩かされることとなる。夏の観光シーズンだからであろう。もっとも昔はゲートなどなかった。ただ、数年前に訪れた2度目の折にはやはり冬期のためゲートが閉まっていて雪道を歩かされたものだった。
 灯台周辺は草原の台上になっている。海面からの高さはわずか数メートルしかない。ここには寒立馬(かんだちめ)と呼ばれる土着の馬が放牧されており、この日も数頭のんびりと草を食んでいた。足が太くお腹の大きい馬が多かった。また、ここより少し離れた場所では子馬も見られた。ちょうど出産の季節なのであろう。
 この日は曇り空ながらはなはだ見通しがいい。左には下北半島の最北端大間崎が見えたし、遠く正面には北海道の恵山岬までも眺望できた。この岬に立つのは3度目だが、これほどの眺望も珍しく、恵山岬が見えたのは初めての経験だった。
 尻屋埼灯台はすらりと背が高く美しい白亜の灯台。断崖絶壁ではないが、独特の叙情がある。岬の北側は津軽海峡で、東側が太平洋となる。潮の変わり目で、このため尻屋崎沖は海上交通の難所として知られ、たびたび難破があったらしい。
 初めてこの岬を訪れたのはもう数十年前にもなるが、初冬のこととて薄く雪に覆われていて、あたりは深閑としていたものだった。なぜか寂寥感を強く感じさせる岬である。
 そう言えば、あの頃、バス便は非常に悪くてむつと結ぶバスは日に数本しかなかった。帰りのバスまで数時間以上もあるようなことで呆然としていたところ、ちょうど1台のダンプカーが岬にやってきた。そこで、都合のいいところまででいいからと言って便乗させてもらったことがあった。
 なかなか気のいい運転手で、寒立馬を見せてあげると言って放牧場所まで遠回りをしてくれた。それで雪原に立つ、まさしく寒立馬を見ることができたのだった。
 このたびはそういうこともなく、折り返すバスでむつに戻った。下北からは一駅だが終着大湊まで足を伸ばした。鉄道は終着駅まで乗りたいものである。行き止まりの終着駅だが、大湊駅が近づいてくると恐山が正面に立ちはだかるようでなかなか独特の旅情が感じられる。


写真1 岬の突端に立つ尻屋埼灯台。寒立馬が草を食んでいる。


写真2 むつ市街と岬を結ぶ下北交通バス。


写真3 大湊線終着駅大湊駅に到着。恐山が迫る。

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