2015/07/09

津軽線で龍飛崎へ

 入道崎からは再び秋田に戻り、翌日は、奥羽本線で青森を経て津軽線で龍飛崎を訪れた。
 7月3日、青森10時09分発リゾートあすなろ竜飛1号。臨時の観光列車で2両編成全車指定。なかなかしゃれた車両を使用していて、しかもディーゼルハイブリッドである。窓が大きく座席もゆったりしていてはなはだ快適。さらに津軽三味線の演奏サービスまでついている。
 こういう列車には日頃乗ることは少ないから珍しいが、ただ、60代とおぼしきおばさんのグループが厚かましくも騒がしくて不愉快だった。それも似たような二つのグループがまるで競い合うように叫んでいる。隣の初老の男性はどこに逃げたのかしばらく席に戻ってこなかった。
 やはり津軽線はローカル線らしくとことこ行くのがいい。停車駅も少ないし、最短で終点の三厩まで行けるが、この選択は失敗だった。帰途は、観光列車と普通列車と二つの選択肢があったのだが、もちろん躊躇なく普通列車にした。
 ともかく停車駅は蟹田と今別の二つだけ。蟹田で右窓に眺望が開けた。陸奥湾である。左手が今進んでいる津軽半島、右が夏泊半島とその先が下北半島である。快晴の澄み切った青空はなはだ見晴らしがいい。
 蟹田の次の中小国で津軽線から津軽海峡線が右に分岐していった。また、津軽海峡線ではここがJR東日本と北海道の境界である。
 さらに進んで津軽二股に至ってさっき分かれた津軽海峡線と工事中の新幹線の高架が接近してきた。津軽線の津軽二股駅と津軽海峡線の津軽今別駅とはホームや駅舎こそ違え指呼の間である。もっとも所属する鉄道会社もJRの東日本、北海道と異なる。やったことはないが、ここで乗り換えるのも面白いかもしれない。ただし、津軽今別に停車する列車は日に2本程度しかないはずだからよく調べておく必要がある。また、津軽二股と津軽今別とを連続する切符の取り扱いもないはずである。
 そうこうして終点三厩13時11分着。最果ての終着駅だが、たくさんの観光客が降りていてちょっと旅情に薄かった。駅前に龍飛崎行きのバスが待っていてくれたが、これも満席である。このバスは外ヶ浜町営で、料金はたったの100円。地元住民の足であり観光客誘致の施策でもあろう。
 かつては日に数本のバス便しかなく、それも半島下の漁港止まりだったのだが、乗ったバスは岬を登って灯台下まで一気に連れて行ってくれた。ただし、これは余計なお世話みたいなもので、龍飛崎の名物、階段国道を登るという楽しみがなくなってしまった。三厩駅から約50分で到着。
 龍飛崎は津軽半島の北端に位置する。岬は津軽海峡に鋭く突き出ている。眼前が津軽海峡である。高い断崖絶壁で、海面からの高さは100メートルを超す。足下を洗う激浪の潮騒がかすかにしか届かないほどだ。
 岬の突端には龍飛埼灯台がある。座標は灯台の位置で北緯41度15分30秒、東経140度20分33秒である。前日訪れた入道崎より1度と少し北に位置していることになる。太くずんぐりした灯台だ。塗色は白である。
 龍飛崎は岬好きの私としても大好きな岬で、数えてみたらこれが5回目。今日は快晴でとても見晴らしがいい。これほど眺望のきく日も珍しいほどだ。
 津軽海峡を挟んで北海道が横たわっている。対岸といいたくなるほどに近く見える。龍飛崎に対置しているのは白神岬で、その右方には遠く函館山が望めた。これは地元のお年寄りが教えてくれたことで、これほど見通しのきくこともめったにないことらしい。
 右に目を向けると、下北半島が望める。遠くは大間崎だろうが、白神岬よりはもっと遠く見える。一方、反対に目を向けると小さな島がくっきりと見えて、くだんのお年寄りが小島だという。さらにその左手は小泊岬である。
 とにかく眺望のよい岬で、両手を広げて余るから240度にもなろうか。しかも、高い断崖絶壁にあるから、まるで劈頭に立っている爽快感がある。これこそが岬の魅力の大事なところである。
 それにしてもこの日は風が弱い。龍飛崎は風の強いのが名物みたいなものだから、これはこれで張り合いがない。かつて真冬に訪れたときには、それこそ這って歩かなくては吹き飛ばされそうになったものだった。
 帰途は階段国道で麓の漁港まで降りた。岬へは国道339号線が来ているのだが、その終わり部分が階段になっているのである。大変珍しいもので名物と言ってよい。
 太宰治は『津軽』で、ここは地の果てで、この先には何もないと書いているが、まさしくその通りである。
 階段の入口には階段国道の標識があって、その階段も整備されてまるで観光道路のようになっていた。風情のないこと甚だしいが、しかしこうしたことを観光客が果たして喜ぶものなのかどうか。秘境は秘境でこそ価値があるのではないか、そのようにも感じたものだった。
 ところで、海岸まで降りたのはいいが、次のバスの時間まで1時間以上も間がある。時間をもてあましていたら、バス停のそばに1台の車がいて、もし帰り道なら三厩の駅まで便乗させて欲しいと頼んだら快諾してくれた。社会福祉関係の車のようで運転手は中年の女性だった。
 車中で伺ったその女性の話。近年子供が本当に少なくて、今年の小学校の新入生は4人だけだった。地元に働き口がなくて若い人が住めないのだという。また、一人暮らしの老人が亡くなると、その家は廃屋になってしまうとも。過疎の厳しい現実だった。


写真1 龍飛崎の突端から対岸に北海道を望む。白神岬あたりか。


写真2 龍飛埼灯台。灯台は津軽海峡と日本海を両にらみできる方角に向いている。奥は小泊岬。


写真3 海岸から灯台へと至る階段国道。れっきとした国道339号線である。

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