2015/06/26

沢村浩輔『夜の床屋』

 短編6編+エピローグが収められている。このうち後半の3編+エピローグは連作である。暴力もセックスもないがいずれも摩訶不思議な独特の情緒をもった上質のミステリーである。大学生の佐倉を主人公にその友人たちが登場する。
 表題作でもある「夜の床屋」。山で道に迷った佐倉と高瀬。あげくに無人駅で夜明を待つことに。周囲にはコンビニはおろか自動販売機すらない。数軒ある駅前の店舗もまるで廃屋のよう。
 ところが、夜の11時頃トイレに出ると駅前の理髪店に明かりがついている。夕方確認したときには廃屋のように思えていたのに。
 おそるおそる近づくとやはり理髪店は開店している。店主によれば、いったん廃業したのだが、常連の要望が強くて予約が入ったときだけ出向いて店を開けるのだといい、普段は住んでもいないのだという。ともあれ、二人はシャンプーをしてもらうことに。奥からは娘も手伝いに出てくる。
 翌朝、街に下りて喫茶店で昨夜の出来事を話し合っていると、話しかけてくる者がいる。新聞記者だといい、今の話をもっと詳しく聞かせてくれという。
 話を聞いた記者は、確認したところやっぱり理髪店は廃業したままだし、理髪店に娘もいないと言い出す。
 まるでキツネにでもつままれたような話になってきた。それで、理髪店はなぜうそを言ったのか等々、3人は話を吟味してみる。
 そこから浮かび上がってきた、思いもよらない展開。この先はよほどのミステリー好きでも読めない話ではないか。奇想天外ではあるがこじつけっぽさはなく、聞けば腑に落ちる。
 このような佳品が並んでいて惹きつけられる。読み出したら本を手放せない面白さだ。
(創元推理文庫)
  


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