2015/06/12

篠田桃紅『一〇三歳になってわかったこと』

 103歳になってなお現役の美術家ということに非常なる興味があって手に取った。
 実は、数年前、ある美術展で、そこには墨で描いた多様な作品が展示されていたのだが、そこで篠田桃紅の作品を見る機会があって、その折りには、墨で描いた鋭い線が斬新に思えていた。
 そして、その時にはそれ以上のことはなかったのだったが、このたび本書を読んで桃紅が世界的にも著名な美術家であることを知った。
 さらにもっと驚いたことは、桃紅がたぐいまれなエッセイストであることで、ここでは桃紅の人生観が語られているのだが、率直で飾らぬ内容に感心した。
 何よりも楽観的で自然体であることに惹きつけられるが、本書から桃紅語録を幾つか拾ってみよう。
・私は生涯、一人身で家庭を持ちませんでした。……歳をとるにつれ、自由の範囲は無限に広がったように思います。……
 この歳なると、誰とも対立することはありませんし、誰も私と対立はしたくない。百歳はこの世の治外法権です。
 ・今の人は、自分の感覚よりも、知識を頼りにしています。……
 たとえば、美術館で絵画を鑑賞するときも、こういう時代背景で、こういうことが描かれていると、解説を頭に入れます。そして、解説のとおりであるかを確認しながら鑑賞しています。しかし、それは鑑賞ではなく、頭の学習です。
 鑑賞を心から楽しむためには、感覚も必要です。……
 感覚は自分で磨かないと得られません。絵画を鑑賞するときは、解説は忘れて、絵画が発しているオーラそのものを、自分の感覚の一切で包み込み、受け止めるようにします。このようにして、感覚は、自分で磨けば磨くほど、そのものの真価を深く理解できるようになります。
 もっと拾ってみたい文章がいくつもあるのだが、本書で紹介されている興味深いエピソードを一つ。
 ロックフェラー一族といえば、巨万の富を背景に積極的に慈善事業を行い、それはリンカーンセンターを建設したり、メトロポリタン美術館などに貢献したことはよく知られるが、ジョン・D・ロックフェラー三世のブランシェット夫人もニューヨーク近代美術館の運営に理事として関わっていたりしているのだが、「彼女には私設のキュレーターが数名おり、収集するアート作品の候補を選んでいました。私の作品展のときもそうでしたが、最初は一人が観に来て、その人がいいと思ったら二人目が観に来ます。二人以上のキュレーターが推薦すれば、収集の対象となりました」というのだ。私設のキュレーターまでいたりアメリカの大富豪というのもすごいと感じ入った次第。
(幻冬舎刊)
 


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