2015/06/03

エルヴェ・コメール『悪意の波紋』

 フランスのミステリー。モネの絵画を巡るハードボイルド風の物語である。よくできた緻密な構成で、凝ったプロットが軽快なテンポで展開する。
 とくに最初の24ページがいい。これで一気に引き込まれる。井上ひさしさんの読書指南にもあったように、私には小説の良し悪しは初めの30ページで見極めるという習慣があり、本書はまったくそのめがねにかなうものだった。
 フランスの五人組の若者が、アメリカ東海岸マイアミビーチの屋敷からマネの絵を盗み出し、その絵を人質に100万ドルの身代金を受け取る。
 事が成就した後、盗みを企てた男が仲間にとんでもないことを打ち明ける。盗んだのはこともあろうにマフィアのドン・コスターノの屋敷だったのだという。五人組はコスターノの追跡を考えると恐怖に駆られたのだった。
 以後、五人組は今後一切の関わりを持たないようにしようと取り決める。ただし、年に1度だけ、毎年6月21日に電話帳100ページ目にある最初の住所に正午の待ち合わせ。1年後は県番号1番の電話帳、2年後は2番の電話帳と続けていこうと約束する。
 ここから38年を経て事は思わぬ方に動き出す。五人組の一人ジャックにある日突然事件を知っているかのような手紙が舞い込んだのだ。
 この先、物語は二転三転して進んでいく。途中、まったく関係なさそうな若者が登場してくる。この伏線がとのように結ばれてくるのか。
 物語の展開が秀逸である。読みながら予想しても、予定調和的なところはどこにもない。かといって奇抜では決してない。張られた伏線が意外な場面でちゃんと表面に出てくる。
 しかも、ミステリーなのに、ハードボイルドなのに、何処か叙情性も感じられる。もちろん、決して甘っちょろいところはないが。
 フランスのミステリーというのもありそうで珍しい。近年ではピエール・ルメートルの『その女アレックス』あたりか。
 で、本書は、シャンパン・ミステリーなかなかやるな、というのが読後の率直な感想。
(山口羊子訳、集英社文庫)


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