2015/01/22

メヒティルト・ボルマン『沈黙を破る者』

 ロベルト・ルビシュは、父の遺品を整理していて書斎の机の引き出しから、ナチ親衛隊員の身分証明書、通行許可証、捕虜の解放証明書とともに一番下からはセピア色に変色した若い女のポートレート写真を見つける。
 身分証明書の顔は判別ができないが、ヴィルヘルム・ペータースという自筆の署名がある。父親の名が記載されていたのは解放証明書だけだった。
 「ロベルトは書類をじっと眺めた。身分証明書の黒いしみは血液だろう。父はシュレージェンの出身だった。一兵卒として参戦し、終戦直前に捕虜になったと聞いている。その父がなぜ他人の証明書を持っているのか?」
 若い女の写真の裏には「クラーネンブルグ、ホイアー写真館」というスタンプが押されていた。
 ロベルトはホイアー写真館を訪ねてみる。戦後50数年を経て写真館はなかったが、幸いにホイヤーその人は存命だった。ホイヤーは写真を見てテレーゼ・ポールだと指摘する。その後テレーゼは結婚してテレーゼ・ペータースとなったといい、しかも夫のヴィルヘルム・ペータースは失踪しあれからずっと行方不明だとも。また、テレーゼもあれからすぐにいなくなったとも付け加えた。
 ヴィルヘルムとポールのペータース夫妻は町外れのヘーファー農場の小屋に住んでいたことも知り、早速、その小屋を訪ねてみる。
 ロタ・アルバースという女性が現在は住んでいて、ロベルトが訪ねたことに対し非常な関心を示す。アルバースはジャーナリストだったのである。しかも、ロベルトはテレーゼの写真まで渡してしまう。
 ここまでがイントロ。そしてアルバースは調査を進めついにテレーゼにたどり着く。
 本書はドイツのミステリ小説。著者は女性で、小説家としてのキャリアはまだ短いらしいが、本書でドイツミステリ大賞第1位に輝いている。なお、この大賞受賞作が日本で翻訳されることは少なく、また、ボルマンの作品も本書が最初の翻訳である。
 その数少ないドイツミステリだが、本書は非常にくどい。1980年代と1940年代が行ったり来たりしながら物語は進む。ドイツ名だから登場人物の名前も覚えにくく、読む方もページを行きつ戻りつしながら読むこととなる。だから読むになめらかさに欠ける。これがドイツの小説の特徴なのかどうか。
 先だって、現代フランスのミステリ(『ピエール・ルメートル『その女アレックス』)を読んだばかりだが、その凝った内容とは違って本書はドイツの過去と現代を色濃く反映させながら物語は展開していて、そういう意味では本書はいかにもドイツ的かもしれない。
 とくに、戦時中、ナチの台頭があって国民が巻き込まれていく様子、親友が引き裂かれていく現実、その影が現代にも色濃く投影されている社会などがきまじめに書き込まれている。
 そう、本書は読み終わってみればすべての構図が1枚に広がっているようでわかりやすく、ミステリとしての意外性にはやや欠けるが、ドイツが戦時下の体験を今も引きずっているのだということがわかって、そういう意味で本書は面白かった。
(赤坂桃子訳、河出書房新社刊)


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