2013/12/19

『夜明けのフロスト』(『ジャーロ』傑作短編アンソロジー3)

 R・D・ウィングフィールドのフロスト警部シリーズが好きで、刊行されるたびにすぐにも読んできているのだが、いかんせんウィングフィールドは寡作のようで、これほどの人気シリーズなのにこれまでに単行本として翻訳出版されたのはわずかに5冊(いずれも創元推理文庫)。ところが、今秋発売された5冊目の『冬のフロスト』を読んでいたら、その解説でフロスト警部シリーズに短編のあることがわかった。本書がそれで、これはミステリー短編のアンソロジーで、これに収録されていたのだった。早速手に取ったことは言うまでもない。
 まずは『夜明けのフロスト』。ロンドン郊外のデントンが舞台。クリスマスのその日。赤ん坊が捨てられていた。15歳になる娘が朝になっても帰ってこない。百貨店に金庫泥棒が入った。しかも血痕が残されていて、警備員が行方不明だ。赤ん坊がさらわれた。
 クリスマスの夜明けだというのにこうした訴えが次々とデントン署に持ち込まれ、例によってフロスト警部のぼやきときつい駄洒落が連発されドタバタ劇が展開される。
 もちろんフロスト警部のこと、捜査が横道にそれることもしばしばだが、今回はひと味違う。最終盤、フロスト警部のカンがぴたり的中し、物語はどんでん返しとなって幕を閉じる。
 本作は文庫ちょうど100ページ。短編というよりは中編に近いかもしれない。いずれにしても長編が多いフロスト警部シリーズにしては珍しい。
 他に本書にはクリスマスの当日を舞台にした6編の短編が収められているのだが、いずれもしみじみとしたり、意外な仕掛けがあったり、しゃれていたりなどといかにも短編らしい気の利いたストーリーが並んでいる。
 この中では、退官した警察官が警察の要請によって未解決事件に挑み、鮮やかな推理で解決に導くエドワード・D・ホックの『クリスマスツリー殺人事件』や、獣医のドクターカウチとトルーマン大統領という同じ街に住む二人のほのぼのした交流を描いたナンシー・ピカードの『Dr.カウチ、大統領を救う』などが印象深い。
 なお、本書の刊行は2005年で、必ずしも新刊ではないので念のため。私も数店探し回って、やっと八重洲ブックセンターで見つけたのだった。
(光文社文庫)


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