2013/11/27

丸谷才一『別れの挨拶』

 昨年亡くなった著者の「最後の新刊」。単行本未収録の批評や書評など59編が収録されている。
 書くまでもないことだがあえて書く。文章が大変味わい深い。よく練り込まれているし、転がし方が秀逸。とくにユーモアのはさみ方がいい。うんちくがいっぱい詰まっている。よくぞここまでと思われるほどに広範囲だ。批評は鋭い。それもさりげないところにすっと置いている。大なたを振るうというよりは小刀を一閃するような感覚。しかし褒め方はもっとうまい。
 批評と追悼、王朝和歌を読む、など5章に分類されているが、面白いのはやはり書評の章。
 大沢在昌『絆回廊 新宿鮫10』では「ヒーローとその恋人」と題し、第一に作者の文体がいい。小説の文体として小粋である。第二に小説の作りがうまい。第三に構えが大きい、と持ち上げ、「絶賛のあとで抗議を記す。終わり近くで晶は、警察官としての職責を全うさせるため彼と別れるといふ声明を発表した。コナン・ドイルが、シャーロック・ホームズをモリアーティ教授と格闘させ、探偵を滝壺で死なせた事件以来の愚挙である。小説家にこんな勝手なことをする権利があってよいものか。新宿鮫と晶の共寝するしあわせな場面を、次の本ではかならず読ませてくれ。」訴えている。
 丸谷が新宿鮫を読んでいることも新鮮な驚きだが、それにしてもこのほめ上手、そしてその上でのユーモアあるオチの付け方にはただうなるばかりだ。
 こういう具合である。長年にわたって丸谷を好んで読んできた。芥川賞を受賞した『年の残り』あたりからだからもう45年ほどにもなるか。
 とりわけこの人の書評が好きだった。褒め上手だが、外れが少ないから実際にも手に取ることが多かった。いわば私にとってはひいきの書評家だった。
 もうこの人の新しい文章を読むことができないと思うと寂しい。
(集英社刊)


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