2013/10/31

金重明『物語朝鮮王朝の滅亡』

 著者は冒頭で本論に入る前に自分の立場を明らかにしたいとして在日二世であることをつまびらかにした上で、しかも、わたしには愛国心のかけらもない、愛国心やナショナリズムは百害あって一利のない障害物でしかないとわざわざ断っている。
 こういう著者による朝鮮近代史である。また、著者は小説家であって、わざわざ書名に物語と冠しているように、読み物として面白いようにと心掛けてもいる。
 大方の現代の日本人にとって朝鮮近現代史ということで興味深いのは、おそらく朝鮮王朝の歴史ドラマの実像であろうし、今一つは竹島問題の原点であろう。
 まずは朝鮮王朝史について。ドラマ『トンイ』に登場する主人公崔同伊は朝鮮第二十二代王英祖の母。この英祖が英明だったようだ。また、英祖の次に王となったドラマ『イサン』の主人公正祖も英明の王で、この英祖と正祖の時代が朝鮮王朝の文芸復興の時代といわれているとしている。
 このふたつのドラマは日本でも人気を呼んだが、朱子学を尊重して治世するあたりはドラマでも十分に反映されていたのではないか。1700年代中庸から1800年代初頭のことである。
 朝鮮王朝は、1392年李成桂が建て、以来500年以上も続いたのだが、中国と地続きという地政学的な決定的ハンディキャップを負いながら、かくもなぜ一つの王朝が継続できたのかは奇跡的でさえあるが、その疑問に対する答えは本書には明確には示されていない。
 ただ、勝手に本書の行間から読み取ると、一つには中国に対して常に自ら従属的立場を貫いたこと。また、王朝内部では、王と臣下の力関係が微妙なバランスの上に立っていて、朝鮮王朝ドラマによく見られるように、派閥争いが繰り返された結果、微妙な緊張感が持続したことなどを挙げることができるようだ。
 また、鎖国政策も王朝を長続きさせた要因のように思われる。ただ、同じように鎖国政策をとりながらオランダなどと一部門戸を閉ざさなかった日本と、すべての門を閉ざしてしまった朝鮮とでは、実学の発展に差異ができ、それが朝鮮近代化の進歩を阻害する要因になったとも解釈できそうだ。
 もう一つ竹島問題について。その前に、1894年の日清戦争は、農民の蜂起に手を焼いた朝鮮王朝が清国に借兵を申し出たところから日本の進出を許してしまい、日清戦争は当初日朝戦争として始まったと位置づけている。
 また、日清戦争で日本が勝利した後、いくつかのいきさつがあって王朝はロシアに手助けを頼む。これが1904年の日露戦争へとつながっていくのだが、そのロシアもあっけなく日本に敗れてしまい、ついに1910年日韓併合となり朝鮮王朝(王朝末期大韓帝国と改めている)は終焉する。
 そしてこの間、日本による竹島の領有宣言は日露戦争のさなかの1905年、著者の表現を借りれば「火事場泥棒のようになされた」ということである。
 つまり、竹島(韓国でいう独島)問題の背景には日本の歴史認識問題があり、近代日本の責任を明確にすることが問題を解決する必要条件となると断じている。
 実際、この竹島問題は尖閣問題と並んで神経質な問題ではあるが、その歴史的解釈に新しい事実や視点がもたらされ、問題解決の糸口が示唆されているかと本書を読む前から期待していたのだが、結果的には韓国政府あるいは韓国世論の論調と同じで新鮮さはまったく感じられなかった。
 そもそも、ナショナリズムを隠して歴史を論ずることなど意味のないことで、それよりも著者は、1894年に農民軍が蜂起した全州和約について、パリコミューン並の評価を与えているなど階級意識は強いようである。
(岩波新書)
  


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