2013/10/09

内田康夫『北の街物語』

 久しぶりに内田康夫の小説を手に取った。いつもの浅見光彦シリーズその最新作である。
 たまには軽めの探偵小説もいいかと思ったのだが、読んでみると実際軽い。
 とくに、ここのところ、ジョン・ル・カレ『われらが背きし者』、アーナルデュル・インドリダソン『湿地』などと濃厚なミステリーを立て続けに読んでいたからなおさら軽く感じた。
 今回の舞台は浅見の住まいがある東京の北区界隈。近所に住む著名な彫刻家から、玄関先に置いておいたブロンズの少女像が盗まれたので、行方を捜してほしいと人づてに浅見に依頼が来る。
 他方、荒川でおきた殺人事件に関し、第一発見者からあらぬ疑いをかけられて迷惑しているので早く事件を解決してほしいと、これも人づてに浅見に話が持ち込まれる。
 このふたつの事件は関連があるのかないのか。いつもの浅見シリーズに似合わず少しばかりややこしい。そのせいか、浅見の推理も的をはずれてはいないか、そんな懸念も出てくる展開。これは珍しいこと。
 いずれにしても浅い話。深い謎は何もないし、たわいもない話。
 それなのになぜこのシリーズは人気が衰えないのか。軽い、浅いなどと揶揄しながらも自分自身なぜ手に取ってしまうのか。このことは不思議である。
 おそらくはその叙情性と旅情性であろう。それが魅力の大きな部分であろう。浅見光彦はフリーのルポライターで、雑誌『旅と歴史』の仕事が多い。そういうことで、このシリーズは旅と歴史そして殺人事件がモチーフとなっている。
 浅見は33歳の独身だが、事件の舞台では必ず若い女性が登場し、ほのかな情感が読者をくすぐる。
 もちろんミステリーであり、探偵小説であるのだからその謎解きも大事なのだが、しかしこのシーリーズには暴力もセックスもない独特の設定なのだが、逆のそのことが読者に情緒の安定性をもたらしているのではないかと思われる。
 そういうことで読者には若い女性が多いようだが、ともかくシリーズは実に本書で114冊目を数え、累計出版部数は1億冊を超しているといわれるからすごい。
(中央公論新社刊)

 


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