2013/10/02

岡崎武志『蔵書の苦しみ』

 蔵書が多すぎてその処置にほとほと手を焼いているという人たちの話とその対処法について述べられている。
 井上ひさしは13万冊という膨大な蔵書のために家の床が抜けたし、増え続ける蔵書のために部屋を増築したり、広い家に引っ越ししたりしてもいずれも焼け石に水。
 自室の書棚に収納しきれず、本は寝室や脱衣室などあらゆるスペースに増殖していき、挙げ句の果ては床に積み上げたりして足の踏み場もなくなるほど。
 本書ではこうした事例がたくさん紹介されている。しかし、蔵書家は本の多いことに自嘲しながらもうぬぼれているところもあり、本に埋もれた生活に恍惚としているむきもあり、1冊1冊の本には馴染みもあるのだからなかなか処分も仕切れないと嘆息することに。
 こうしたエピソードには私も同意するところが多くてにやにやしながら読んでいた。いわんや蔵書家ではないが、本が好きでしょっちゅう購入しているから本はたまる一方で、収納する棚がなくて苦労していることは事実。かといって本は捨てきれないのである。
 しかし、事情が一変したのは3.11以降。もちろんこれまでにも歴史上、関東大震災や戦災があって多くの蔵書家が痛恨事を経験しているわけだが、阪神淡路大震災そしてこのたびの東日本大震災においては、飛び出した本は凶器ともなり、倒れた書棚は大きな惨事を招くことが現実となり、蔵書対策が喫緊の課題となってきたのである。
 対策としては蔵書数を減らすことが手っ取り早いわけだが、しかし、蔵書をおいそれとは処分できないのは愛書家の宿痾。古書店も雑書など引き取ってくれないし、図書館にも寄贈を断られるのが現実。かといって捨てることは忍びない。
 本書ではデジタル化など様々な対応例を紹介しているが、最も現実的で愛書家でも納得できると思われたのは、自宅で行う「一人古本市」というもの。これで2、3千冊くらいなら一気にさばけるだろうというものだが、なるほどこれなら自分でもできそうだし参考になる。
 一方、本書では、蔵書は量ではなく質だという例も紹介していて、吉田健一は500冊もあれば十分だと言うのが口癖だったらしい。
 500冊はともかく、蔵書の増加を抑制する方法として本書で紹介している次の訓戒は参考にしていい。
 つまり、床に本を積まないこと、段ボール箱に詰め込んだままにしないこと、背表紙の可視化の3項目。
 どこにどんな本をしまっておいたのかわからないようでは死蔵というわけだが、なるほど、この3項目を厳守すれば、蔵書の整理の目安になるし、増加を食い止めることにもつながりそうだ。
(光文社新書)


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