2013/09/02

R・D・ウィングフィールド『冬のフロスト』

 イギリスの警察小説。刊行されるたびに年末恒例のミステリーベストテン投票第1位にランクされる常連で人気のフロスト警部シリーズ本書が5冊目。
 相次ぐ少女失踪事件。8歳の少女が行方不明となり手がかりのつかめぬまま数週間過ぎるうちに続いて7歳の少女が行方不明となる。
 連続する娼婦殺人事件。街娼が殺害されむごたらしい遺体となって発見される。それも警察の捜査を嘲り笑うかのように二人目三人目と被害者が増えていく。
 加えて、ガソリンスタンド強盗事件などというものも発生する。空き巣事件も連続発生する。いずれも枕カバーがはぎ取られていて、どうやら犯人は盗品をその枕カバーに突っ込んで持ち去ったものらしい。
 これらの事件が同時多発していて舞台のデントン署はてんやわんや。どれをとっても解決の糸口さえ見えない事件ばかりなのだが、例によってフロスト警部の迷推理がさらにややこしく絡み合い事件を複雑にしている。
 文庫上下2冊合わせて約千ページの大長編。読み終わってみれば複雑に絡まった事件もどんでん返しがあったりしながらも糸がほぐれるように大団円に向けて収斂されていく。
 フロスト警部が迷路に足を突っ込まなければこの物語もこの半分の紙数で片付くのだろうが、そこはこのフロスト警部シリーズの面白さ、ユーモアたっぷりで千ページでも飽きが来ないから不思議。
 そこで、ここでは粗筋を紹介することは(フロスト警部シリーズに限ってはあまり意味がないので)脇に置いておいて、フロスト警部の人となりについて紹介しておこう。
 フロスト警部。デントン署の犯罪捜査部を指揮している。50歳前後か。妻を病気で亡くしている。よれよれのコートに黄ばんだマフラー。下品でだじゃれ連発。勘を頼りにする捜査ははずれて迷路にはまり込むこともしばしば。しかし、刑事らしい粘り強さがあり無駄を厭わない。出世欲は全くなく上司にへつらわないし、難事件を解決しても上からは評価されないが、それも意に介さない。
 ただ、責任は部下にはとらせず必ず自分でとるし、手柄は部下に与える。だから部下には信頼されている。日頃は支離滅裂なことが多いのだが、最後にはフロスト警部の勘が当たることを部下たちは信じている。仲間意識が強いし、だから辛いフロスト警部の指示にも部下たちは従う。
 フロスト警部はデントンの町を熟知していて、犯罪を憎み犯人を憎むが、被害者には寄り添う。警察の権力を笠には着ないから、娼婦たちにすら親しまれ信頼されている。
 デントンは、ロンドンから70マイルの地方都市。その治安を預かるデントン署。署長はマレット警視。出世欲が強くフロスト警部とは正反対。人員は慢性的な不足で、経費削減の指示が強く、捜査のための人員配置や超過勤務に支障が出ることもしばしば。
 だらしのないフロスト警部だが、ジョージ十字勲章の受勲者という一面も持つ。ジョージ十字勲章とは人命救助など勇敢な働きをした民間人に与えられるもので、英国において軍人に与えられるヴィクトリア十字勲章に次ぐ最上位の勲章で、受勲者は国民の尊敬を集める。
 ところで、本書の原作が英国で刊行されたのが1999年、今から14年も前のこと。人気シリーズでありながら本書の翻訳刊行がわが国でなぜかくも遅いのかはわからないが、それで困ることは時代背景が現代とは少しずれていること。あらかじめ原作刊行年がことわってあればいいが、そうでないと、いきなり皇太后などと出てきても、皇太后とは現在の英国でいうクィーンズマザーのことだろうが、逝去されて10数年にもなる人、一瞬ぴんとこなかったくらいで、このフロスト警部シリーズは英国の社会風俗として読んでも面白いものだけに残念だ。
(創元推理文庫上・下)
 


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