2013/08/07

市口桂子『ボローニャ・ブックフェア物語』

 イタリア・ボローニャには、一度でもいいから行ってみたいものだとかねて念願している。5年前だったか、井上ひさしの『ボローニャ紀行』を読んでいたからで、この本を読んでボローニャに行ってみたいと思わない人はいないだろうと受け止められるほどに、ボローニャの魅力が熱っぽく語られていた。
 何しろ、井上によれば、ボローニャは人口39万人の古都。日本でいえば県庁所在地ほどのサイズのこの都市には、37の博物館と映画館50、劇場41、図書館が73もあるのだという。これでは興味が湧こうというもの。
 本書は、そのボローニャで毎年開かれているブックフェアについて生い立ちからの歩みを書いたもの。著者はボローニャ在住の漫画家・著述家。なお、ボローニャのブックフェアは、本書副題に「絵本の町ができるまで」とあるように児童書専門の国際見本市として知られる。
 ボローニャ・ブックフェアは毎年3月末に開かれていて、開催期間は4日間、来場者数は1万2千人ほど。2011年には66カ国から1200団体が参加、そのうち約9割が外国からの出展だったという。おそらく児童書に限定した見本市としては世界唯一最大であろうと思われる。
 本書では、このブックフェア誕生からのいきさつが詳述されているのだが、それは徹底した取材によるもののようだ。
 実はボローニャは見本市の町なのだそうで、年間30本ほどの見本市が開催されているということで、見本市会場には18個ものパビリオンがあるのだということである。
 そのボローニャで、見本市会場主であり見本市主催者でもあるボローニャ見本市独立法人の人物が、新しい見本市の開発に迫られ、それで生み出したのが今日のブックフェアだというわけである。1964年、50年前のことだったという。
 当時、玩具の見本市なども検討されたらしいが、ブックフェアはいかにもボローニャらしいのではないか、ボローニャをろくに知らない私でもそう思うのだから、彼らの狙いは当を得ていたのだろう。
 フェアは順調に成長していったもののようだ。その要因には、イタリアだということ、ニーズに合致するタイミングだったことなどと本書に登場する関係者たちはそう述懐しているが、私にはイタリアならどこでもよかったのではなく、やはりボローニャだからだったのではないか、そう思われた。
 ただ、このブックフェアににも難曲はいくつもあったようだ。その一つは、意外にも市民との関係。ブックフェアは当初こそは子どもも含め一般市民にも入場を開放していたのだが、途中から版権取引の場という機能を徹底させ、このためビジネス関係者のみが入場できる仕組みとなった。
 この措置に対し市民の間から大きな不満が生じ、「子どものためのブックフェアなのに子どもが入れないなんて馬鹿げている。文化都市ボローニャにあるまじき行為だ」と非難の声が上がったらしい。
 この軋轢を解決したのは実は市民たちだったようだ。つまり、「見本市会場から町にとび出したブックフェア」という触れ込みで数々のイベントが催されたという。そこではフェアに来た作家たちの講演もあるし、子どもたちのためのワークショップなども行われたのだという。もちろん、フェアの主催者としても、フェアに出品された図書約千冊の図書館への寄贈などと動いたもののようだ。
 一つの見本市が企画され、運営されていく。それが世界的にも著名な見本市へと成長していく。しかも、それが市民の間にも定着していく。ましてやそれが児童書という夢のある分野のことであってみればなおさらのこと、すばらしいものをボローニャ市民は作り出したとも言えるのではないか、本書を読んでそのように読み取ったのだった。
 そして、この本を読んで私としてはますますボローニャに行ってみたいという願望が強まってきた。
(白水社刊)
 


お勧めの書籍