2013/07/23

マイクル・コナリー『スケアクロウ』

 ロサンゼルス・タイムズの記者ジャック・マカヴォイが解雇を通告される。ただし、即日ではなく、後任の新人記者アンジェラ・クックへの引き継ぎと教育のため2週間の猶予が与えられた。
 ロサンゼルス・タイムズといえば、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどと並ぶ全米屈指の一流紙だが、この頃の業績悪化でリストラが余儀なくされていた。
 また、マカヴォイはかつて大スクープをものにするなどサツ回りの有名記者だが、このところヒットもなく給料の高さから狙われ指名された。
 解雇通告を受けたその日、マカヴォイは1通の電話を受け取る。私の息子は女を殺してない、車のトランクなどに詰めていないと。
 その記事は先週載ったトランク詰め殺人事件のことで、16歳の少年がすでに逮捕されており、マカヴォイは警察の発表だけで記事にしたのだが、デスクの誰も関心を抱かなかったような幅15センチの短い記事だった。
 マカヴォイは事件のことが妙に気になり、取材を進めていくうちに少年は無罪であるとの確信を次第に深めていく。無実の人間が濡れ衣を着せられたとなればそれこそ大スクープとなるのだった。
 事件は、23歳になるストリップダンサーデニス・バビットの裸の遺体が車のトランクから発見されたというものだった。デニスはビニール袋の上から物干しひもで首を絞められ窒息死していた。
 一方、アンジェラは、マカヴォイが追っている事件を手伝わして欲しいという。初めは自分の事件だからといって渋っていたものの、会社の意向もあり認めることに。取材を進めるうちにアンジェラはトランク詰め殺人事件と似たような事件が過去にもあったことを突き止める。
 そして、二つの事件の関連を調べていたアンジェラが、こともあろうにマカヴォイの家で殺害されているのが発見された。
 実は、ロサンゼルス・タイムズの編集業務は、デスクと記者、記者同士のやりとりも、文字原稿も写真も送稿は電子メールによっていたし、データの検索もオンライン上で行われている。しかも、それは社内のみならず、すべてのことがそれこそネット(網)のごとくつながって絡み合っていく。このことが事件の背景に大きな影を落とすこととなり、事件は思わぬ方向に進んでいく。
 そのネットを通じて不気味な存在が浮かび上がってくる。それは誰が自分に関心を寄せているのか、常にスケアクロウ(案山子)のように自分の畑を監視している存在があったのだ。
 ひと言でいえばこれもインターネット上の犯罪ということになるが、それは仮想上のことにとどまらず、人知れず、しかもいち早くつかんだ情報を駆使して現実を先取りしていく、そこには情報化社会の新しい犯罪の様子が克明に描かれている。
 しかも、舞台が新聞社、それもアメリカの一流紙とあって、その息詰まるような展開が新鮮で興味深いものだった。また、記事の量を15センチと数えるなどというのもアメリカらしく、日本なら行数なのにと思うとこれも面白いものだった。
 なお、コナリーの作品を読むのはこれが初めて。本書は友人がくれてよこしたものだが、この友人のくれる本は当たり外れが少なくてよい。
(講談社文庫上・下)


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