2013/07/11

映画『25年目の弦楽四重奏』

 ヤーロン・シルバーマン監督作品。アメリカ映画。
 ニューヨークを拠点に演奏活動を行っている世界的弦楽四重奏楽団フーガ。
 結成25年目を迎え、記念すべき年の最初の演目に選んだのがベートーヴェンの弦楽四重奏第14番。
 弦楽四重奏曲は、ベートーヴェンのみならず大作曲家たちがこぞって交響曲と並んで好んで創作した分野で、音楽ファンの中には弦楽四重奏こそ至高のジャンルと位置づけている人たちもいるほど。
 弦楽四重奏は、一般的には二つのヴァイオリンとヴィオラ、チェロで構成されるが、何よりも4人の演奏者たちの一糸乱れぬ協調が尊ばれる傾向にある。
 なお、ベートーヴェンの第14番は、通常の弦楽四重奏曲が4楽章で構成されているのに対し、この作品は第7楽章まであり、しかも、ベートーヴェンは40分近いこの作品を途中休むことなく一気に演奏することを要求していて、演奏家たちにとって難曲中の難曲として知られる。
 さて、この映画、冒頭の場面。フーガがいよいよ第14番の練習に入ろうとしたその矢先、チェロのピーターから、いきなり自身がパーキンソン病にかかったとの告白があり、演奏活動から降りたいとの引退宣言がなされる。そして今すぐ後任を選ぶべきだというのだ。ピーターはメンバーの中で最年長で父親的存在。ここまでフーガをまとめてきたのだった。
 ピーターの告白にメンバーたちは衝撃を受けるが、リハビリを行って再起を期すべきだと強く翻意を促す。
 一方で、ピーターはすでに後任に意中のものがいて白羽の矢を立ててもいたのだが、25年もカルテットを一緒にやって来て今さら新しいチェリストを受け入れられるのか、メンバーには不安もある。
 このあたりからストーリーは葛藤の大きな渦の中に入り込んでいき、あれほどまとまっていたカルテットがばらばらに崩壊していく。
 第二ヴァイオリンのロバートから、新しいメンバーでカルテットを再構築するなら、この機会に自分にも第一ヴァイオリンをやらせて欲しいとの訴えが出される。第二ヴァイオリンは弦楽四重奏でハーモニーを司る大事なパートなのだが、ロバートはあくまでもサブ的な存在と認識し日頃から持っていた不満を爆発させたのだった。
 これに対し、第一ヴァイオリンのダニエルは、徹底したテクニックを追求する求道的演奏家で、カルテットを支配してきたのだったが、ロバートには強いリーダーシップ性がないと突っぱねる。
 また、ロバートの妻でヴィオラのジュリエットからも、ダニエルを支持しロバートの第一ヴァイオリン要求をいさめる発言が出される。
 こうしたカルテットに対する考え方や演奏の手法といった音楽上のほつれが、次第に人間的な衝突へと向かっていく。
 このあたりの描写は息詰まるような緊張感で包まれているし、まるでドキュメンタリー映画を見ているような印象をもたらされたのだが、それは映画の中でスティール写真が多用されていたり、フーガを紹介するテレビ番組のビデオが挿入されていたりしたことでさらにそのように受け止めたのかも
しれない。
 ただ、後日パンフレットを読んで知ったことだが、監督のシルバーマンはそもそもドキュメンタリー映画の出身で、ドラマは本作が第1作目だったとのこと。私のインスピレーションはあながち的外れでもなかったのだろう。
 また、ドキュメンタリータッチというその延長線上ということにもなるのか、厳冬期のニューヨークを舞台にしたロケーション撮影がすばらしく、とくに雪に覆われたセントラルパークが映画の主題を引き締めていたように思われた。
 そして、この映画をドキュメンタリータッチと評しながら、その実、高いドラマ性をも見いだしていたのは、出演者たちの演技、とくにカルテットを構成した4人の存在感にあったのだと指摘しておかねばならないのだろう。彼らはいずれもアカデミー賞級の役者たちなそうで、そのぶ厚い演技も本作をすばらしいものにしていた。
 最後に、カルテットは自分たちの危機を乗り越えられたのか、とても印象的なラストシーンが待っていた。


写真1 劇中の一場面=映画館で販売されていた公式プログラムから引用

お勧めの書籍