2013/06/04

溶接の顔:中田一博教授

 中田一博氏は大阪大学接合科学研究所教授。
 この3月末で教授職はそのままに大阪大学接合科学研究所所長を退任したばかり。4年の任期を終了して少しは話しやすくなったであろう在任中の苦労話など。
 所長として腐心してきたことは、文科省から常にその存在意義を問われ続けてきたこと。つまり、平たく言えば、溶接なんてもう古い学問だしもう必要ないのではないかとの指摘。
 「いやいやそうではないのだ、ものづくりを支えるために重要な役割を担っているのだ」ということを繰り返して反論してきたのだという。
 そのために行ったこと。その一つが文科省の担当官を招いて研究所を実際に見てもらうこと。レーザやFSWから、ろう付けでも3次元積層などと最先端の研究を目の当たりにして、担当官は一様に自分の抱いていた溶接のイメージがいかに現実と乖離し、古い認識のままだったことに気づいてもらえたのだという。
 こういう行動は学内でも実行していて、総長や大学幹部にも見学してもらったところやはり似たような感想だったようで、各方面で認識を新たにしてもらえた効果は、その後の運営に大きな意味を持ったようだ。
 また、マスコミ向けにもたびたびプレゼンテーションを行っていて、例えば、東京スカイツリー建設に際しての溶接の重要性がわかってもらえたし、溶接全般に対する認識向上につながったとみていて、一時は不見識な業界から絶滅危惧種などと揶揄されて不愉快な思いだった溶接について再認識が行われたとみている。
 一方、大阪大学において、溶接工学科を継承した生産加工学科と溶接工学研究所を継承した接合科学研究所の二つがセットで引き続き存在することの意義は大きいとし、その上で、接合研が全国共同利用施設としてあることそのことが、全国の接合研究者にとって大きな意味があるはずだと強調している。
 この4年間で、接合研の中期計画を策定し、自ら先頭に立ってその実現に邁進してきた中田教授。
 「やはり研究所だからいかに世界トップの研究をしているかが肝要。そのことで、材料開発と接合、評価の3点について一つの研究所で完結していることは世界で阪大接合研の立場は揺るぎないし、世界の溶接研究の状況を見ても、接合研はイギリスのTWI、アメリカのEWIと並んで世界のトップスリーにある」と自負している。
 このように語る中田教授の言葉のはしはしには「溶接」へのほとばしる愛情が感じられるが、その背景には、大阪大学で溶接工学科の卒業以来一貫して溶接を学び携わってきたという信念があるからであろう。
 また、不思議といえば、接合研は1972年の創立以来40数年、中田教授が11代目の所長だが、溶接工学科の卒業生は実は5代目の荒田吉明氏以来わずかに二人だったという現実の中で、大いに発憤もし責任も感じたのであろうと思われた。


写真1 中田一博教授


写真2 インタビューの模様

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