2013/05/20

ジェフリー・アーチャー『時のみぞ知る』

 アーチャーの最新作。アーチャーは健在だった。本作も手練れのストーリーテラーによる傑作エンターテイメント小説となっている。
 主人公はイギリスの港町ブリストルに住む少年ハリー・クリフトン。物語は1919年から始まる。
 ハリーは貧しい家に育つ。父親は戦死し、軽食堂のウエイトレスとして働く母親と祖父母と港湾労働者の伯父が家族。
 ハリーは初等学校に入学していたが、相変わらず読み書きはできず学校はサボってばかりいたし早く大きくなって伯父のように働くのが念願。
 しかし、ハリーには思いがけない才能があった。すばらしいボーイソプラノだったのである。それで母親の勧めで聖歌隊に入ることとなったのだが、そのためには読み書きのできることが必須。
 若く美しく聡明で働き者の母親メイジー。聖歌隊の指揮者ミス・マンディ、学校の担任教師ホールコムなどと、母親の愛情と周囲の人々の善意を受けながらハリーは成長していく。
 とくに重要な役割を演じているのがオールト・ジャック・ターと呼ばれている老人。港に廃棄されたままになっている客車に住んでいる。世捨て人のような生活に変わり者と目されているのだが、その実、深い教養と洞察力を持っていてハリーはよくなついていた。
 オールド・ジャックはハリーの聡明さに気づき、学校で教わることの以上に教育を施し、ハリーの成長を支えていく。
 やがて大きくなったハリーは奨学金を得て上級学校へ進むこととなりセント・ビーズに入学する。そこは上流階級の子弟が入る全寮制の寄宿学校だったのだが、ハリーはそこで二人の親友を得る。
 一人はバリントン海運の御曹司ジャイルズ・バリントンで、もう一人が秀才ディーキンズ。
 物語はセント・ビーズでの生活からハリーのオックスフォード入学から、周辺諸国への侵略をとどまらないナチス・ドイツへのイギリスの宣戦布告へと進む。
 ハリーの成長によって物語はどんどん膨らんでいくのだが、小説の面白さがぜんぶ詰まっているようだし、その展開はまるでサスペンスだから気の緩ませてくれるところがなく、文庫上下2巻を一気に読み進むこととなる。
 本書には「クリフトン年代記」という断りがあって、本書はその第1部ということである。原作としてはすでに第2部から第3部まで進行しているということである。
 アーチャーにはかつて『ケインとアベル』があって、本作はその傑作を彷彿とさせるが、この長大な大河物語が今後どのような展開を見せるのか、今から楽しみである。
(新潮文庫上・下)


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