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炭酸ガス・マグ溶接編

炭酸ガス・マグ溶接編
 はじめに
 溶接法には各種あるが、自動化のしやすさと溶接品質の安定性の両立を図る上で優れているのが、炭酸ガス溶接およびマグ溶接であり、今日、溶接ロボットシステムとして、薄板溶接から厚板溶接まで幅広く使われている。ひとくちに炭酸ガス溶接/マグ溶接と言っても、これを適正に行なうためには、機器や材料の選定から始まって溶接施工に至るまで、多数の技術要素が必要となる。溶接に係わって日の浅い人は、知らないことの洪水に見舞われると想像する。本稿は、そのような方にとって、今後知識を深めていくためのきっかけとなる情報を提供することを目指している。紙面の都合上、溶接ロボット、溶接機を始めとした機材は所与のこととして、溶接を行なう上で考慮すべきその他の要素を解説する。
 シールドガス
 シールドガスは、溶融金属や溶接アークを大気から遮蔽し、アークの安定及び酸化防止の役目をする重要な要素である。炭酸ガス溶接/マグ溶接は、使用するシールドガスが元になっている名称である。炭酸ガス100%を使用するのが炭酸ガス溶接、アルゴンと炭酸ガスの混合ガス(マグ)を使用するのがマグ溶接である。炭酸ガスとマグの選定ポイントを表1に示す。なお、マグとしては、20%炭酸ガス+80%アルゴンガスの混合比を用いることが多い。


表1

 溶接ワイヤ
 溶接結果を直接的に左右する要素として溶接ワイヤがある。
 
溶接ワイヤには、大別してソリッドワイヤとフラックスワイヤがある。フラックスワイヤは、環境、用途等に応じたフラックス材を中心に封入したワイヤであり、目的に応じて優れたものがある。しかし、大半の溶接構造部の溶接作業には、安価なソリッドワイヤが使われているのが現状である。
 ◎ワイヤ種類
 溶接ワイヤの規格としては、JISZ3312がある。高電流域で使われるものとしては、YGW11(炭酸ガス溶接用)とYGW15(マグ溶接用)が規定されている。
 従来のワイヤは、防錆、潤滑、通電を高めるため表面に銅メッキ処理を施されていたが、溶接時に人体や環境に有害なヒュームを発生させる原因にもなっていたため、最近では、メッキを廃止したノーメッキワイヤの利用も増えてきている。ワイヤ選定時にこの点を考慮することも、今後重要である。
 ◎ワイヤ径
 YGW11/YGW15の規格には、ワイヤ径には、1.2、1.4.1.6がある。
 ワイヤ径は、使用電流域での使い分けが基本であり、1.2は160〜320A、1.4は220〜420A、1.6は280〜450Aが目安である。あわせて、次の点を考慮して選定する。
 ▽同一電流では、細径ワイヤの方が単位時間あたりのワイヤ溶融量が多い。同じ容量の溶接機を使うなら、細径のワイヤのほうが能率面では有利。ただし、ワイヤ溶融量は、溶接機の送給可能最大速度で制限される。
 ▽同一電流、同一電圧なら、ワイヤ径が細いほどビードの溶け込みは深くなる。
 ▽細径に無理に高電流を流すと、溶融池が乱れビード外観が悪化し、溶け込みが極端に深くなり抜け落ちや溶接割れの原因になる。
 溶接電流、溶接電圧、溶接速度
 この3パラメータは相互に関係して溶接結果を決定する重要な要素であり(図1)、一般に溶接条件という場合この組合せを指す。適正な溶接条件は、使用するシールドガスやワイヤ、対象としている溶接部位の状態など多数の因子に左右される。
 


図1

溶接電圧には溶接電流に適した範囲があり、溶接電流と溶接速度の組合せでどの程度の盛りになるかが決まるので、大雑把に言って、溶接条件は、「まず、所望の脚長を最も効率よく溶接できるように、溶接電流と溶接速度を決め、それに合わせて溶接電圧を決め、最後に、ビード形状や溶け込みを見ながら微調整する」、という手順で決めていくことになる。
 ワイヤ突き出し長
 ・ 同一電流の場合、ワイヤ突き出し長が長いほどワイヤの溶融量が多くなる。つまり、一定の送給速度の場合ワイヤ突き出し長が長くなると、必要な電流は少なくて済む。
 
・ 適正なワイヤ突き出し長はワイヤ径の約10倍で、溶接電流が高い場合はそれより長くする。表2に目安を示す。
 ・ ロボット溶接の場合、溶接ねらい位置の精度に関係することから、溶接ワイヤ自体の曲がりグセの傾向や、その安定性も確認が必要である。


表2

 トーチ角度とねらい位置
 ・ 前進法(溶接進行方向に対し逆向きにトーチを傾ける)は、アーク発生点よりも前方に溶融金属を押し出す。溶け込みはやや浅く、ビードは低くかつ広くなる。スパッタは比較的大きいものがトーチ前方に飛ぶ。
 
・ 後退法(溶接進行方向と同じ向きにトーチを傾ける)は、溶融金属をアーク発生点より後方に押し上げる。溶け込みはやや深く、ビードは狭くかつ高くなる。大きいスパッタは生じにくい。
 ・ 水平隅肉の場合、前進角10〜15度が普通。
 ・ 水平隅肉の場合、300A以上では、水平板側に2mmくらいをねらう。垂直板側によると“アンダカット”や“垂れ”、水平側を狙いすぎると、“不等脚長”になる。
 ・ 上り、くだりの溶接では、溶融池が重力の影響を受けるので、後退法、前進法に対応する。のぼりでは溶け込み深く幅の狭い盛り上がったビードになり、くだりではその逆となる。

松下溶接システム 技術グループロボット技術チーム 主幹技師/吉間一雅
出典:【溶接ニュース06年4月18日】

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