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溶接技術の基礎

溶接技術の基礎
 はじめに
 一般に、溶接は、従来的な造船など重厚長大産業の基盤技術としてとらえられ、3K作業の代表であるように見られがちである。しかし、最近の溶接技術は、こうした基幹産業での重要性を維持する一方、現在の花形産業である自動車の製造、携帯電話を中心とする情報機器、半導体やその製造装置などの製造に欠かせない技術となっている。
 このように溶接は、製品としての機能や構造を、リサイクル性に富む金属材料に与える重要技術であり、その多くの作業で人の能力を最大限に発揮できる技術でもある。したがって、世の中の技術の進展にともなって送り出されてくる各種新材料に対し、求められる機能を持つ製品に仕上げる技術として今後も効果的に利用され続けると考えられる。
 溶接のメカニズム
 溶接とは、簡単にいえば、2つの金属材料を溶かすことで混じり合わせ、くっつける(接合する)技術である。ただ、より溶接自体の理解を深めるため、もう少し詳しく説明しておこう。
 図1は、鉄やアルミニウムなどの金属材料の成り立ちを示したものである。図中の(a)が、いろいろの製品に使用され一般に目にしている、板やブロック状の金属材料である。この状態の材料を顕微鏡などで100倍や200倍に拡大して見てみると、(b)のような結晶粒と呼ばれる粒の集まりであることがわかる。さらに、これらの粒の構成を詳しく調べると、(c)のように白丸で示す1つひとつの原子が規則正しい並びで配置された状態でできている。なお、図で、白丸の原子を結んでいる線はそれぞれの原子が互いに引き合う結合力という力で、現実には線のようなものは存在しない。すなわち、金属の板や棒は、こうした原子どうしの結合力で成り立っており、この結合力を超えるような力を加えると伸びたり縮んだりして形を変えることができるのである。


図1

 こうした成り立ちの金属材料を加熱すると結合力は失われ、原子が自由に動き回る液体の状態になる。すなわち、溶接では、接合しようとする2つの材料(母材とよぶ)を溶かすことで互いの原子が混じり合う状態となる。この状態で溶けている部分を冷却していくと、2つの材料の原子が混じり合った状態で互いの原子が引き合う新たな結晶がつくられ接合が可能となる。このように、金属は「接合しようとするそれぞれの材料の原子を、互いに引き合える距離にまで近づけてやる」と接合できる。こうした状態を得るには、溶接のように溶かさなくても大きな力で2つの材料を押しつけてやる方法(圧接)や2つの材料の間に低い溶融温度の金属を液体状態にして流し込む方法(ろう付)でも可能となる。前者の方法の代表的なものが鉄筋のつなぎ(接合)であり、後者がはんだ付である。溶接を含めこうした金属の成り立ちを利用する接合方法は総称して冶金的接合法と呼ばれ、手軽で自由度が高く、しかも短時間で信頼性のある接合が可能な手法として広く利用されているのである。
 各種溶接方法
 すでに述べたように、金属は、溶かすことや加圧することでその接合が可能となる。溶接は、その接合のメカニズムから、材料を溶融させることが必要で、そのため接合部を溶融するまで加熱する必要がある。そこで、多くの溶接方法の名称は、その加熱手段である熱源で呼ぶことが多い。例えば、ガスを燃焼させた火炎を利用するのがガス溶接であり、電気的なアーク放電で発生する熱を利用するのがアーク溶接、レーザを熱源にするのがレーザ溶接などである。
 こうした各種溶接方法の中で、現在最も広く利用されているのが各種のアーク溶接法で、町の高層ビル建設での鉄骨組み立て現場で花火のような火花を散らしているのが被覆アーク溶接と呼ばれる方法である。この方法では、必要部分に溶接用の熱源を進める平面的な熱源操作に加え、熱源を上下方向に動かす操作が必要であり、瞬時・瞬時の溶接状態に応じた3次元的動きが求められる。したがって、適切な作業が行えるようになるには、作業の反復練習や多くの経験など相当期間の訓練が必要となる。これに対し、建設機械の生産ラインなどでロボットに搭載され高速で動き回り火花を散らしながら溶接しているのが炭酸ガスアーク溶接法である。この溶接の場合、基本的なレベルの溶接作業ができるようになるために必要な時間は比較的少なく、しかも高能率で溶接できることから従来形の被覆アーク溶接に代わって広く利用されるようになっている。図2が炭酸ガスアーク溶接による溶接の作業状態で、このような人の溶接に加え図3のロボットなどによる自動溶接にも広く利用されている。


図2


図3

 さらに、高品質で高精度の溶接が可能になるティグ溶接法は、近年特に注目され多く利用されるようになっている。この方法は、図4に示すように一方の手に熱源を保持し、他方に溶接する箇所を埋めるための金属棒(溶接棒)を持つ両手操作の作業となる。したがって、完成した技能の習得には、十分に時間をかけた練習と経験が必要となる。


図4

 溶接作業の魅力
 溶接作業では金属を溶ける状態まで加熱する必要があり、高温下での作業となる。さらに、溶接作業では金属蒸気などを含む溶接ヒュームを発生、周辺では溶接箇所を仕上げる作業による研磨粉塵や騒音の発生があり、作業場の環境や安全ための注意が必要となる。こうしたことから、溶接作業は、鋳造や製鋼などの作業と同様に3K職種とされてきた。ただ、最近では、工場のISOへの対応や製品の高品質化で製造現場の環境改善が大幅に進められている。例えば、高真空機器などの製造では、クリーンルームや白衣着用での溶接作業が事例として見られるようになっている。
 こうした作業環境の改善が進められる一方、溶接を含めた各種ものづくり作業ではNC機械やロボットが人に代わって作業し、3K職場からの開放が試みられている。このことは、反面、人がものづくりの仕事から排除されることであり、人がロボットの作業に使われる作業に甘んじなくてはならないことを意味する。幸い溶接では、基本的なロボット作業ではむつかしい少量多品種の高精度・高品質作業などにおいて、人の五感を活かした作業で可能にできる。また、作業自体が複雑で困難となり付加価値の高まる現場作業などでも、現場環境に速やかに対応でき自由度の高い人の作業が極めて有効となる。こうした溶接では、高いレベルの人の技能や経験、対応力が必要となる。これらの習得において、溶接では、達成目標を細かく段階分けし積み上げていく、いわばスポーツの上達に似た感覚で習得できる、溶接している部分の溶融金属の動きや変化に応じて適切に熱源を操作することで目標とする品質の溶接結果につなげ得る、まさに芸術品を仕上げるのと同様の感覚で作業ができる(図5が、同じ溶接における技能の差による溶接結果の差異を示すものである)、それぞれの段階で習得している技能や知識を活用することで、従来的な方法を大幅に改善できる、などの魅力的な要素を持っている。さらに、溶接技術者、技能者の資格は、他の職種に先んじて図6のように国際的に統一される動きがある。このように、溶接の技術・技能の研鑽では、比較的明確な目標をたてやすく、しかも目標設定・研鑽・目標達成を順次繰り返すことで努力の報われる魅力的な仕事と考えられる。したがって、これから溶接にたずさわろうと志したフレッシュマン諸君には、こうした溶接の持つ魅力を実感しつつ研鑽に励んでもらえることを期待したい。


図5


図6


職業能力開発総合大学校教授/安田克彦

出典:【溶接ニュース06年4月18日】

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