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溶接用ガス編

溶接用ガス編
 はじめに
 大洋をめぐる巨大タンカーや海峡にかかる長大橋、街にそびえる超高層ビルや大型タンク、原子炉や宇宙ロケットから電子集積回路のリードワイヤに至るまで、あらゆる製造分野で用いられる資材の中で、その製造を支える重要な技術として、「溶接加工」がある。
 この溶接加工に必要不可欠な要素であり、溶接のアーク現象を左右する役割をもつ1つが「溶接用ガス」である。
 溶接ガスの種類
 まず、代表的な「溶接用ガス」には、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガス、酸素、水素、窒素、などがある。「アルゴン」は高温・高圧でも他の元素と化合しない、化学的に極めて不活性で、無色・無味・無臭のガスで、空気中に約0・93%しか含まれておらず、比重は1・38(空気=1)で沸点は−186度。反応性の高い物質の雰囲気ガスとして広く利用されている。
 「ヘリウム」は無色・無臭、不燃性のガスで、大気中に約5・2ppmしかなく、比重は0・14(空気=1)、沸点は−269度。化学的にはまったく不活性で、通常の状態では他の元素や化合物と結合しない。
 理論的には空気から分離抽出できるが、含有量があまりに希薄なため、工業的には天然ガス中に約0・5%前後含まれるものを分離・精製している。気球・風船などに利用される他、超伝導などの超低温冷却用途にも利用されている。
 「炭酸ガス」は無色・無臭、不燃性のガスで、大気中に約0・03%程度存在しており、空気の約1・5倍の重量があり、水によく溶けて炭酸水になり他の物質とよく反応するが、乾燥した状態では殆ど反応しない不活性なガス。
 石油系炭化水素の分解・改質による副生ガスや製鉄所の転炉ガスの副生ガスを原料として製造される。飲料用に広く利用される他、固化したドライアイスは保冷材でもよく知られている。
 「酸素」は無色・無味・無臭のガスで、空気の約21%を占めており、比重は1・11(空気=1)で沸点は−183度。化学的にはきわめて活性が高く、他のものを酸化する力が強く、多くの元素と化合する。
 また、呼吸により生物の生命維持に不可欠な役割を果たしている。燃焼利用や医療用とでも重要なガスである。
 「水素」は無色・無味・無臭、可燃性のガスで、比重は0・07(空気=1)と地球上の元素の中で最も軽いガス。沸点は−253度。また、熱伝導が非常に大きく、粘性が小さいため、金属などの物質中でも急速に拡散する。燃焼性も極めてよく、排気ガスが水分であることから、未来のクリーンエネルギーとして注目を集めている。還元性の強い雰囲気ガスである。
 「窒素」は無色・無味・無臭のガスで、空気の約78%を占めており、比重は0・97(空気=1)で沸点は−196度。たんぱく質やアンモニアなどの窒素化合物として、自然界にたくさん存在しており、常温では化学的に不活性で、他の物と化合することはない。
 工業的には、空気を冷却することにより酸素、アルゴンなどとともに分離・精製して製造されている。半導体や金属化合物などの製造雰囲気ガスとしての利用は幅広い。
 この「溶接用ガス」が、その目的と用途に応じて、溶融金属の酸化を防ぐ遮断ガス(シールドガス)として、また反応ガスとしてシールドガスに添加され混合ガスとして、様々な業種の溶接ユーザーで多用されている。
 溶接方法とガス
  ◎ガスシールドアーク溶接
 溶接は構造物の組立生産にとって必要不可欠なものである。溶接はその接合の機構によって、「融接」「圧接」「ろう接」に分けられる。
 「融接」は被溶接材(母材)を溶接しようとする部分を加熱し、母材そのもの、もしくは母材と溶加材とを融合させて溶融金属を作り、これを凝固させて接合する方法である。
 「圧接」は接合部へ機械的圧力を加えて行なう溶接法で、加圧と同時に熱を加える場合が多い。
 「ろう接」は母材を溶融することなく、母材よりも低い融点の溶加材(ろう材)を溶融させ、毛細管現象を利用して、接合面の隙間にいきわたらせて接合する方法である。
 この中で、現在はアークを熱源とする「融接」、すなわち、「アーク溶接法」が広く用いられており、特に「ガスシールドアーク溶接」(TIG、MIG、MAG溶接)が広範囲に用いられることから、ガスとのかかわり(用途)も多岐にわたる。
 ガスシールドアーク溶接法(アーク溶接法は、母材と電極の間にアークを発生させて、それに伴うアークエネルギーで母材と溶加材を溶融させ溶接金属を形成させる接合法)とは、アルゴンや炭酸ガスなどのシールドガスにより、アークと溶接金属を大気から遮断(シールド)しながら行なう溶接で、シールドガスとして、不活性ガス(アルゴン、ヘリウムなど)あるいは活性ガス(炭酸ガス、アルゴンと炭酸ガスの混合ガスなど)を用いる。
 これらのガスは、いずれもアークや溶接金属が大気中の酸素と反応するのを防ぐ役割をする。
 一般的なシールドガスとして、以下(表1)のようなものが使用されている。
 ガスシールドアーク溶接法以外に、高速かつ高品質の溶接作業を目的とした溶接法として、プラズマ溶接、レーザー溶接などがあるが、これらも、産業ガスが重要な役割を担っている。


表1

 ◎プラズマ溶接
 プラズマ切断は、専用のノズルによりアークを拘束して高温化するとともに,エネルギーを溶接局部に集中することにより材料を溶融・融接する方法である。
 プラズマ溶接を行なう際には、アルゴンやアルゴンに水素を添加した混合ガスを用いる。
 ◎レーザ溶接
 レーザ光をレンズまたは鏡によって局部に集光すると、その光エネルギーが母材に吸収されて、溶接部の温度が局所的に上昇し溶融・融接合する方法である。
 レーザ溶接に使用されているガスは、レーザ光を発信させるガス(励起ガス)とアシストガスがある。レーザ発信用のガスは、レーザ光の発信方法によって様々な種類があり、炭酸ガスレーザの場合には、アルゴン、窒素、炭酸、一酸化炭素の混合ガスが一般的である(3種混合/4種混合)。
 また、アシストガスは、溶接部の酸化を防ぐ(窒素、アルゴン)目的で使用され、切断性能を決定付ける重要な要素である。
 近年、溶接ユーザーのニーズはますます多様化・高度化している。個々の製品それぞれに最適な溶接施工法、溶接機器、溶接材料、溶接用ガスなどを追求・選択し、溶接品質のレベルアップに貢献することが、これからの溶接営業マンに求められている。

岩谷産業 ウエルディング部/土田和久
出典:【溶接ニュース06年4月18日号】

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