技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 最終回

質問にお答えします/技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第4回

 
前回に引き続き,現場に役立つ溶接ロボットの基礎知識を中心に説明していきます。
Q1 溶接ロボットを使用中に溶接位置がズレていることが時々あります。狙いズレやビードズレはどんなことが原因と考えられるでしょうか?
 
A1 溶接位置がズレる原因としては,
➀ ワークのバラツキ。
➁ 固定ジグのバラツキ
➂ ロボット本体(トーチ含む)のガタ
➃ 制御装置の誤動作
などが考えられますので次の手順で調査を行いますが,事前にロボットを自動運転で使用する前に,次のことを実施して下さい。

1.ロボット自動運転前の準備作業

➀ 固定された作業台上の1点(基準点・ポイントマーク)に“原位置確認用のプログラム”を作成しておく(図1)。
その際,トーチ先端は溶接用のワイヤではなく,基準となるチップゲージなどを使用してください。また基準位置を教示した時,ロボット本体に図1のような各軸の照合のために固定側と可動側に「位置合せのマーキング」をしておくと“ズレ”時のチェックがやりやすくなります。


図1 "原点位置確認用プログラム"作成例

➁ 精度が確認されていて溶接されていないワークを“マスターワーク”としてティーチング作業に使用し,そのまま溶接をせずに別保管しておく。

2.溶接ズレが発生したと思われる場合の調べ方。

*図2のフローを参考にして調査➃までは制御電源を切らずに調べて下さい。
      で囲まれた内容がズレの要因と考えられます。


図2 ロボットねらいズレ調査フロー

➀ “マスターワーク”をセットし,教示モードで動かしてズレの有無を確認する。
・ズレが無い場合→→→ワーク精度の不良
・ズレが有る場合→→→次のステップへ

➁ 前項で作成した基準点の“原位置確認用のプログラム”を呼び出しズレの有無を確認する。
・ズレが無い場合→→→固定ジグの不良
・ズレが有る場合→→→次のステップへ

➂ 基準点確認の姿勢で,ロボット各軸の位置合せマークをチェックする。
・一致していない軸があればその軸がズレている→→→➄へ進む
・すべての軸で一致している場合。→→→➃へ進む

➃ 溶接トーチやブラケットのガタの有無を調べる。
・ガタが有る場合→→→増し締めを行う
・ガタが無い場合→→→次のステップへ
または溶接トーチが変形した可能性があります

➄ ロボット制御装置の制御電源を一度切ってから,再び立ち上げを行い,➁項の“原位置確認用のプログラム”を呼び出しズレの有無を確認する。
・ズレが無い場合→→→制御装置内部の電気部品の不良
*専門家へ依頼
・ズレが有る場合→→→ロボット本体の機械的なズレや歪み
その他に次のことにも注意してください。

➀溶接ワイヤはチップ先端から真っ直ぐ出ていますか?20kgのスプール巻きの場合にはワイヤの曲がり癖のためにチップから出るときに少し斜めに出て,そのために溶接ビードが偏る場合があります(半自動溶接の場合には作業者が目で見てその都度,正確な位置に溶接を行うことができるのですが…)。溶接ワイヤを150kgや200kg入りのパックワイヤで使用したら,ワイヤの曲率が大きく直線性が優れているためロボットには向いています。さらに,ロボットでの溶接はアーク時間が長く,ワイヤの消費量が多くなるので,スプール巻きよりパックワイヤの方が使い勝手がよく経済的 でもあります。また,ティーチング時のチップ−母材間距離が長すぎるとワイヤ先端ではワイヤの曲がり癖のため狙い位置が変化しますので必要以上には突き出し長さは伸ばさないでください。ワイヤの曲がりの分だけアークの出る位置がズレてきます。

➁ チップ先端の穴が大きくなっていませんか?チップが消耗して穴径が大きくなると,ワイヤが斜めに出てくるばかりでなくワイヤへの給電が不安定になりアークの安定性にも悪影響を与えます。チップはこまめに交換してください。

 
Q2 ロボットを使用する場合に準備しておかなければならない保守部品はどのようなものがありますか?
 
A2 溶接ロボットに故障などのトラブルが発生したら,生産に大きな支障をきたす場合が多いので,保守用部品はある程度準備しておくことが必要です。しかし,ロボットを1〜2台しか使用していないのにロボット用のモータやプリント板などのいわゆる「ロボット用部品」を多く準備することは経済的ではなく,そうした部品を交換する時には専門的な知識が必要な場合が多いので,いわゆる「ロボット用部品」は主要部品を除き一般的には準備しておく必要はないと思います。
また,ロボット本体および制御装置に関する故障頻度は少なく,メーカーのサービス体制も充実していますので,ほとんどのトラブルはメーカーのサービス会社へのオンコールサービスで対応可能と思います。ただ,ロボット使用台数が数十台以上になるような場合や一時のライン停止もできないような場合には,ある程度の「ロボット用部品」を保守部品として準備し,また保守用のメンテナンス教育をメーカーで受講し,緊急の場合に備えてください。具体的に望ましい在庫保守部品は,メーカーのサービスマンに相談してください。
このほかに一般的な保守部品として,溶接関連の消耗部品は必ず必要です。溶接チップやコンジットケーブルなど,ほとんどの消耗品は半自動溶接と同じものが使用できますが,溶接トーチなどロボット専用の部品も多いので確認が必要です。
 
Q3 ロボットを長期間・安定的に使用していくためには,ほかにどのような注意が必要ですか?
 
A3 ロボットを安心して使用していただくためには日常点検・定期点検とティーチングデータのバックアップが必要です。これらについて順に説明いたします。まず,日常点検を確実に行うことです。日常点検は仕事にかかる前に行う始業点検と,仕事終了後に行う整理整頓の点検を行います。ロボットに関する点検内容は,ロボットメーカの取扱説明書に明記されているのでその内容と,ほかにワークセットジグやロボット周辺の整理整頓を含めた自社にあった項目を追加して行って下さい。消耗品のチェックやロボットの基準点の確認なども確実に行って下さい。とくに一日の仕事が終わってからの整理整頓と清掃は確実に行う必要があります。スパッタの付着や溶接ヒュームでの汚れをそのままにしておくと後では修復できない汚れやガタとなります。
日常点検のほかにメーカーが推奨する1年次点検や3年次点検の定期点検も必要です。ロボット稼動部のガタ・本体内ケーブルの消耗や制御装置内電気部品の劣化などを定期的に専門家の力を借りてチェックを行うことが必要です。消耗やガタの発生は使用状況によって異なるために定期的なチェックを行って下さい。メーカーの点検担当者は点検の結果,必要に応じて予防保全のために部品の交換や増し締め・グリスアップなどを行い,ロボットのリフレッシュを行います。
次に,ティーチングデータのバックアップを取ってください。これは,ほとんど発生しないことですが,せっかく苦労して作成したティーチングデータが何らかのトラブルで消えてしまう恐れがあるからです。もしティーチングデータが消えたら,それを作成した時間が無駄になるだけではなく,溶接条件やトーチ姿勢などの溶接のノウハウまでが消えてしまうことになります。ティーチングデータは電子データとしてコンピュータに記憶されているだけなので,「万が一」ということがあり得ます。念のためにティーチングデータのバックアップを取ることをお勧めします。バックアップの取り方は,メーカーのサービスマンに相談してください。一般的には外部記憶装置を用いたり,CFカードなどのメモリ媒体にティーチングデータをコピーしたりして行います。
 
Q4 ロボットの操作,とくにティーチング作業には習熟が必要で,人によって個人差がありますが,操作教育を効率的に行う方法はないのでしょうか?
 
A4 現在使われているアーク・スポット溶接用ロボットの大半は「ティーチングプレイバック方式」を採用しています。ロボットを使って溶接を行わせるためには,予め動作する位置や速度,溶接条件を教示(ティーチング)する必要があります。つまり,溶接ロボットは作業者に教えられたとおりに動いて溶接を実行(プレイバック)する機械ゆえ,ティーチングの技量の修得がロボットを稼動させる上で非常に重要になってきます。
実際の産業用ロボットの溶接ティーチングは,本誌9月号にも記していますが以下のような手順をとります。

スタート位置を設定
   ↓
溶接作業姿勢を設定
   ↓
溶接作業開始位置まで移動
   ↓
溶接終了位置を設定
   ↓
溶接物に当たらない位置まで移動
   ↓
スタート位置近くまで戻す

これらの操作および技量は,メーカーのロボットスクールである程度修得し,その後実際のライン上の施工経験を通じて各自が習熟していく流れがほとんどだと思います。
ただ,実際はライン上のロボットは常時稼動しており,ティーチングする機会もワークの種類が変った場合などに限られるためどうしても短期間にティーチングの技量が習熟することは困難に思われます。結果,限られた人にティーチングの負担が集中しているのが現状ではないでしょうか?
そこでなるべく効果的にまた多くの人にティーチングの技能を修得してもらう一つの手段として,操作マニュアルの標準化を行って下さい。標準化を行うことによって溶接開始点へのアプローチ(エアカット)動作やポイント間の教示点数など誰が行っても同じような動きとなり,プログラムの保守も容易となります。また,オペレータの育成も早く確実になると思われます。
ところで,最近はロボットのアプリケーションソフトが増加し,パソコン上で操作練習を体感できるような手法も使用されています。これは,航空機や鉄道の運転教育にも導入されているようなパソコンの上で,なるべく実際に近い操作を体感できる図3のような操作シミュレータやティーチペンダントライクな操作でプログラムを作成できるオフラインティーチングソフトウェアです。
操作シミュレータや,オフラインティーチングソフトウェア上には,仮想のティーチペンダント,マニピュレータが表示され,マウスとキーボードを使って実際のロボットとまったく同じティーチング操作を体験することができます。さらにパソコン上で作成した作業プログラムをパソコン上でプレイバック運転(自動運転)も行え,仮想のワーク形状を定義することで,ティーチングした位置やトーチの姿勢のチェックも画面上で確認することも可能です。実際のロボットを使わなくてもロボットの操作教育が行えるので,ロボット導入前,ロボット導入後のオペレータ操作教育のツールとして活用すれば,ティーチング技能のレベルアップ,しいては操作に不慣れなことによるトラブルの削減にも効果を発揮できるようになります。


図3 ロボット操作シミュレータ AXオンデスク

 
Q5 今後のロボットのメーカーサービスはどのようになるのでしょうか?
 
A5 溶接ロボットは,生産工程の自動化ニーズ・高品質化とともに今後BRICsに代表される国々にも導入が進み,ますます世界の至るところの工場で稼動するようになると思います。そのことは,24時間365日,正常に機能し続けなければならないことを意味し,きわめて高い信頼性が必要とされるミッション・クリティカルなシステムといえます。そのため,ロボット自体はメンテナンスフリー化が進むとともに,故障を未然に防ぐ予防保全機能がより重要視されてきます。
具体的には,問題発生時の要因解析のためのロボットのさまざまな異常履歴を残す機能などの装備があげられます。さらに,図4のようなメーカーのサービスセンターから,インターネットを経由し,かつ,情報セキュリティも確保された専用回線を経由して24時間工場内で稼動しているロボットの状況を遠隔で監視するリモート診断サービスが今後,海外の生産拠点を中心に普及すると思われます。リモート診断を進めば,異常が発生したロボットの異常履歴を遠隔でアップロードし,その情報を元に復旧する方法を決定してからサービスマンが出向くことで,ロボットのダウンタイムをより短くすることが可能となると思われます。
一方,溶接に関する異常は,溶接ビードのズレ,ビード外観などの判断を作業者の目に依存しているものも多く,今後リモート診断サービスの普及には,それら目に依存している異常判断を可視化していく検査ツールの開発も必要になってくると言えます。このような手段を加え,溶接ロボットに関する技術サービスはロボットのメンテナンスと溶接の品質確保の二面から取り組んでいかなければなりません。
これらを合わせて,今後のロボットメンテナンスサービスは進化していく必要があると思われます。


図4 リモート診断サービスイメージ

 

脇 聡
(株)ダイヘン溶接メカトロカンパニー

出典:【溶接技術2006年12月号】

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