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溶接材料編 最終回

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溶接材料編 第3回
炭酸ガスアーク溶接フラックス入りワイヤ

 

第3回目になる今回は,炭酸ガスアーク溶接フラックス入りワイヤを取り上げ使用目的に合わせた溶接材料選定と施工上の注意点について説明します。前回と同様JIS規格のみでは表現できないものが多いので,当社銘柄名(『』書き)での説明となる点ご了解ください。

フラックス入りワイヤは,ソリッドワイヤと比較すると次のような一般的な特徴があります。
➀高能率,特に立向上進溶接において大幅に能率が向上する
➁アークがソフトでスパッタが少ない
➂ビード形状,外観が平坦で美しい
➃ヒューム発生量がやや多い
➄スラグが発生し,スラグ除去が必要となる

これらの特徴によりフラックス入りワイヤは造船,橋梁を中心に大量に使用されており,2004年1〜6月工業会の出荷量における品種構成比は約30%でした。それでは炭酸ガスアーク溶接用フラックス入りワイヤの選定について解説します。

Q1 軟鋼や490N/mm2級高張力鋼の炭酸ガスアーク溶接においてソリッドワイヤを使用しています。フラックス入りワイヤにはいろいろな種類が市販されていると聞きました。フラックス入りワイヤの種類と特徴,使い分けについて教えてください。
 

A1 フラックス入りワイヤはスラグ生成剤,金属粉,アーク安定剤などの粉末状フラックスを鉄皮で包み込んでいます。このフラックスの成分を調整することにより被覆アーク溶接棒と同様にいろいろな種類のワイヤを作ることができます。

フラックス入りワイヤは,大別するとスラグ系(JISZ3313 YFW−XXXXR)とメタル系(JIS Z3313 YFWXXXXM)とに分かれています。スラグ系はチタニア系とも呼ばれ,スラグ生成剤としてTiO2を多量に含んでおり,主に溶接作業性に重点をおいて作られています。『DW−XX』はこの系統に入ります。代表的なワイヤが『DW−Z100』です。

メタル系は金属の粉末を主成分として多層溶接性,耐気孔性,能率性などの特徴をもたせ作られています。『MX−XX』はこの系統に入ります。この系統でもっとも多く使用されているワイヤが『MX−Z200』です。

『MX−Z200』は『MX−200』の低ヒューム化・低スパッタ化したワイヤです。プライマ塗布鋼板の溶接での耐プライマ性(耐気孔性)を向上させたワイヤで造船・橋梁分野などのラインウェルダー・小型すみ肉装置・天つりロボットなどとの組合せによる自動化ラインで多く適用されています。図1に無機ジンクプライマ塗布鋼板における耐気孔性の一例,図2に亜鉛メッキ鋼板における耐気孔性の一例を示します。

『DW−Z100』,『MX−Z200』の他にも溶接環境の改善を目的に開発されたワイヤとして低ヒューム,低スパッタの『Zシリーズ』があります。『Zシリーズ』を中心にした各種のワイヤの選び方を表1に示します。

構造物や工場内容に合わせて,これらの各種の特徴あるフラックス入りワイヤから最適なものを選定すれば,溶接部の品質向上や溶接工数の低減が可能となり,結果としてトータルのコストダウンにつながるものと考えます。

 
Q2 全姿勢用のフラックス入りワイヤ『DWZ100』ワイヤ径1.2φを使用して水タンクを使っています。実施工に際して品質安定化のため,できる限り下向溶接で施工するようにしています。しかし,反転などが不可能でやむを得ず立向溶接となる場合は溶込みが安定しやすい上進溶接で行っていますが,高電流(250A程度)ではビードが垂れてしまうので,溶接電流を下げざるをえず,能率が落ちてしまいます。能率が下がらずに施工できる方法はないのでしょうか。
 

A2 『DW−Z100』はワイヤ径1.2φで,120A〜300Aの溶接電流範囲を有しており,同一電流で全姿勢溶接ができるフラックス入りワイヤです。

立向上進溶接は技量に個人差が出やすく,また,低電流の方がビード形状のコントロールは容易に行えますが能率面では低溶着速度になるため高能率とは言えません。DW−Z100(1.2φ)による立向上進溶接での最大電流値は約260Aですが,板厚や継手形状によってはこの値以下とせざるを得ない場合が多くあります。今回のケースは250Aとのことで,電流範囲の上限に近くビードが垂れやすくなるのは仕方ないところです。

立向姿勢の能率向上と溶込みの安定性を考慮しますと,できるだけ高電流で上進溶接が可能な溶接ワイヤの選定が有利です。このような要求に対応したワイヤが『DW−100V』です。『DW−100V』は『DW−Z100』と同様のスラグ系フラックス入りワイヤですが,とくに立向上進溶接においてより高電流化,高速溶接化を可能にしました。また,従来のワイヤに比較して,立向上進溶接でのビード外観・形状の点も改善されています。

『DW−100V』と主な特徴は次のとおりです。
1)250〜300Aの高電流域でも立向上進溶接が可能です
2)ストレート運棒での立向上進すみ肉溶接において,脚長6mm程度の小脚長溶接ができます
3)ルートギャップが最大6mm前後でも立向上進すみ肉溶接が可能です
4)仮付ビード部でのビード垂れ落ちが少なくなります

立向上進溶接の多い造船で使用されていますが,その他の構造物でも能率向上の手段として役立つことと思います。

 
Q3 図面の指示が脚長10mmの溶接長の長い工事物件がきました。社内の標準条件は脚長10mmは2パス溶接で行うことになっています。1パスでできるワイヤはないでしょうか?
 

A3 「重力に逆らう溶接はむずかしい」と言われますが,溶けた金属を扱う溶接においては,下向→立向→上向と溶接は難しくなります。

水平すみ肉溶接は比較的やさしい溶接ではありますが,脚長が大きくなってくるとビード形状に及ぼす重力の影響が増大して不等脚ビードやオーバーラップビード,凸ビードになり,最大脚長には限界がありました。混合ガスアーク溶接はやや有利ではありますが,ほぼ8mm程度が限界です。

このようなニーズに対応して開発されたのが『DW−50BF』です。『DW−50BF』は大脚長を確保するために,スラグおよび溶接金属の特性,流動性を調整し,かつアークの広がりを大きくしています。図3に溶接速度と脚長の関係,写真1にビード形状を示します。なお,脚長はマクロ試験片より測定の数値ですので,脚長ゲージで測定すると約1mm程度小さくなります。

『DW−50BF』はスラグはく離性も自然はく離するほど良好で,橋梁の立リブ及びI桁のウェブとフランジなどに適用されています。

 
Q4 客先よりビード外観の要求が厳しくソリッドワイヤから『DW−Z100』に切替えたいと思います。切替えるにあたり使用上の注意点があれば教えてください。
 

A4 ご存知のようにフラックス入りワイヤはフラックスを鉄の皮で包んでいます。上手にお使いいただくためにはソリッドワイヤとは異なるいくつかの注意点があります。以下の項目をチェックの上,ご使用ください。

1)送給ローラーの加圧を緩めにフラックス入りワイヤなので送給ローラーの加圧を緩めにします。フラックス入りワイヤの場合,1.2mmφならばソリッドワイヤの0.9mmφを使うときと同じ程度の加圧が適当です。加圧を大きくしますとワイヤが変形して送給不良となります。

2)コンジットチューブの径は大きめがよいコンジットチューブの径は大きめが適しています。DW−100 1.2mmφを使う場合は1.2〜1.6mmφ用のコンジットチューブをお勧めします。また,コンジットチューブはいずれもゴミが溜まると送給がスムースでなくなるものです。溶接前にエアで清掃すると長持ちしますが,適当な頻度で交換してください。

3)ローラー溝とアウトレットガイドのセンターがずれていると,ワイヤが削れて送給困難になることがあります。

4)使いかけのワイヤを長期間使わずに保管する場合,製品の梱包状態時にワイヤ表面に巻かれてある防錆フィルムを再び巻いておくと,発錆防止に効果があります。

 
Q5 『MX−Z200』のパックワイヤと溶接ロボットの組合せで部品を製作していますが,時折ワイヤのねらいズレが発生し手直しをすることがあります。なにか対策はありませんか。
 

A5 溶接線のワイヤねらいズレで考えられる原因として,過度にコンジットケーブルが溶接トーチの動きに合わせて揺動している,必要以上にコンジットケーブルが長すぎてコンジットケーブルの処理が不適正,ワイヤ矯正が不適正,コンタクトチップの摩耗,ワイヤ自体のターゲット性が悪い,等が挙げられます。

ターニングローラーや送行台車等との組合せによる溶接専用機や溶接ロボットには,とくにワイヤのターゲット性が重要です。これまでもターゲット性を安定させるため送給装置に付いている矯正ローラーや『アローハット』(パック上部の帽子)に取り付ける『AMT−K』(専用矯正器)で調整していますが,とくにフラックス入りワイヤはソリッドワイヤに比べて硬度,剛性,引張強さなどが違うため,現状の矯正方法ではターゲット性が改善しない場合もありました。

この対策として効果のある矯正方法がフラックス入りワイヤ専用の矯正器『AMT−KF』の適用です。

従来までの矯正器とは異なり,無調整タイプでワイヤを通すだけなので,ベテラン溶接者の勘に頼ることもありません。タイプは送給装置に取り付けるFタイプと『アローハット』に取り付けるHタイプの2種類があります。基本的にワイヤ矯正はアーク点に近い方が望ましく,取り付け可能ならF タイプをお勧めします。この『AMT−KF』は各ワイヤ径専用となっておりますので異なるワイヤ径での使用はできませんのでご注意下さい。外観形状と形式を写真2,写真3および表2に示します。


写真2 AMT-KF Fタイプ


写真3 AMT-KF Hタイプ

 
Q6 JIS半自動溶接技術検定の厚板下向・立向(SA−3F・3V)をフラックス入りワイヤ(YFW−C50DR)で受験しようと考えております。溶接のポイントを教えてください。
 

A6 JIS半自動溶接技術検定において,使用するワイヤはソリッドワイヤだけでなく,JIS規格品であれば軟鋼および490N/mm2級高張力鋼用のフラックス入りワイヤも使用できます。フラックス入りワイヤはアークの安定性に優れ,スパッタの発生も少なく,またスラグもはく離しやすくさらにビード外観も良好なのでJIS技術検定試験には最適です。とくに立向ではソリッドワイヤより高い電流が使用でき,パスの数が減り,欠陥の発生の危険も減少します。

それではフラックス入りワイヤ『DW−Z100』を使用してJIS技術検定試験厚板を行う場合の溶接要領について説明します。

1)試験板の準備
試験板の開先及びその周囲の汚れ,錆,さらに黒皮はブローホールなどの気孔欠陥の原因になることがあります。このため,試験板の表裏の開先端部から10〜15mmの幅と裏当金の表面の黒皮を紙ヤスリ,ヤスリあるいはベビーサンダーなどで研削します。また,ルート面は溶込み不良を防ぐ点から0mmにします。

2)仮付溶接
仮付溶接は良好な溶接部を得るための重要なポイントの一つです。仮付溶接を確実に丁寧に行わないと目違いが大きくなりルートギャップが不適切になって,溶込み不良や融合不良の原因になります。目違のない適正なルートギャップ(4〜5mm)に保ち,母材と裏当て金がはずれないように充分な大きさのビードで仮付け溶接を行ってください。仮付溶接の条件は180〜200A×24〜28Vが適正です。

3)本溶接 a.厚板下向SA−3F
1層から3層までは1層1パス,4層から6層までは1層2パスで合計6層9パスとなります。なお,全パスともトーチ角度は後退法で行ってください。

1パスはルートギャップと同じ幅でウィービングし,ルート部を確実に溶かし溶接を行います。

2〜3パスは前のビード幅でウィビングを行います。

次の4層目から2パスに振り分けて溶接を行います。4パスは前のパスの2分の1程度までの幅でセミウィービング溶接を行い,5パスは開先底部の端を充分溶かし,4パスの2分の1程度までビードを重ね,セミウィービングで溶接します。6〜7パスも4〜5パスと同様に溶接を行い,鋼板表面から1〜2mm低いところまで盛り上げます。

最終層の8パスは開先端部の角を確実に溶かし,アンダーカットのないよう,前のパスの2分の1程度までの幅でウィービング溶接し,9パスは反対側の開先端部の角を確実に溶かし,アンダーカットのないよう8パスの2分の1程度までビードを重ねます。ここで会合部がへこまないように注意します。

b.厚板立向 SA−3V1〜2層目は1層1パス,3層目は1層2パスの3層4パスで立向上進溶接をします。

1パスはルートギャップと同じ幅でウィービングを行い両端で0.5秒程度停止し,ルート部を確実に溶かすとともに凸ビードにならないように溶接します。

2パスは前のビード幅でウィービングを行い,1パスと同じように両端で0.5秒程度停止し,凸ビードにならないように溶接します。鋼板表面から3〜5mm程度低いところまで盛り上げます。最終3層目の3パスは開先底部の端を充分溶かし,下層のビード幅になるよう,またビードが凸にならないよう注意して溶接します。

4パスは,3パスと同様に開先底部の溶込みに注意するとともに,ビードが凸にならないよう3パス目とラップ大を下層ビードの3分の1程度になるようにします。

溶接条件,積層法,開先形状などを表3,図4に示します。

以上,フラックス入りワイヤによるJIS溶接技術検定の溶接要領について説明しました。参考にしてみてください。

 

信田 誠一
(株)神戸製鋼所営業部カスタマーサポートセンター
出典:【溶接技術2004年11月号】

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