技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第3回

質問にお答えします/技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第3回

 
今回は,サービスの立場からのアドバイスということで,サービス部門としてよくお問い合わせがある,故障診断やエラーの対処について説明します。
Q1 アーク溶接ロボットにおいては,どんな故障,エラーがあるのでしょうか。
 
A1 みなさんが日頃の生活で,体調の不良があったとしましょう。痛み,発熱,あるいは出欠するといったさまざまな症状が現れると思います。また,本人は気付かなくても周囲の方々から『少し痩せたんじゃない?』とか,『顔色が悪いよ』と言われることもあるでしょう。このような時は状態じ応じて,安静にする,睡眠をよくとるといった行動を取るでしょう。それでも改善しない場合には病院へ行き,医者(専門家)による検査,あるいはアドバイスをもらい,薬などの処置をすると思います。また,検査結果によっては入院,手術,通院治療といったことにもなります。
このことは人に限らず,ロボットの場合も同じようなことが言えると思います。それでは,具体的にはどんな故障,エラーがあるのでしょうか。
メーカーや機種などによって多少の違いはありますが,現行の溶接ロボットでは一般的に,ロボット自身で判断,検出するエラーと,ロボット自身では判断できないエラーがあります。また,判断可能なエラーでも内容により,重要なエラー,軽度なエラーなどもあります。軽度なエラーの場合にはメッセージをティーチペンダント(以下TPと記す)に表示するのみで,停止はしません。一方,重要なエラーの場合には,サーボ電源を切ったり,あるいは非常停止回路が働き,まったく動作しないようにすることがあり,故障箇所を直さなければ動作できないようになっています。図1に故障診断やエラーの対処の流れを示します。
次に,実際によくある代表的な故障・エラーごとに,その推定原因,対処方法について説明します。

1 故障・エラーの推定原因と対処方法

1.1 サーボエラー,サーボ異常

現在の産業用ロボットでは,モータを駆動して,アームを動作させる方法が一般的です。複数のモータ,アームを介して,溶接トーチを持たせることで,溶接ロボットが成り立っています。したがって,モータ(アーム)を駆動する過程における故障,エラーがあります。
*サーボとは,Servus:ラテン語で奴隷を意味する言葉が語源と言われています。つまり,制御装置からの指示に従い動作するとの意味として,産業用ロボットのモータ駆動にサーボ制御が用いられています。
モータ動作原理については図2に簡単なブロック図を示します。また,表1にはエラーの種類を,表2には考えられる故障原因を,表3には対処方法例と注意事項を,それぞれ示します。

1.2 通信関係のエラー

前回に溶接ロボット構成の図でもありましたように,溶接ロボットといっても,いろんな機器が接続された上で動作するようになっています。
したがって,各構成機器間は,ロボット制御装置(コントローラ,以下RCと記す)を中心に,ケーブル,配線等でつながれており,専用の信号の授受が行われています。
構成により,用途の異なる線で接続しています。単純な電圧信号線もあれば,通線もあります。溶接ロボットの構成を図3に,溶接ロボット装置での通信内容および特徴を表4に,エラーの種類および考えら得る故障原因,対処方法例と注意事項を表5に示します。

表3 対処方法例と注意事項*以下の内容は一部の例です。

エラーの種類 対処例と注意事項
サーボエラー サーボアンプ、サーボパックの故障。
近年のモータ制御装置としては、サーボアンプ、サーボパックと称される部品がある程度のASSYになっているケースが多くなりました。
また特別な設定も必要がない場合もあるので、このASSY部品交換のみで対応できることもあります。
モータ不良
最近のモータはACモータですが、古いタイプではDCモータを使用している場合もあります。この場合には、電機子のブラシ不良もありますので、ブラシ交換、エアブロー清掃も対処方法としてあります。
また、モータ交換時には、ブレーキを解除したり、モータを抜くことで、アームがフリーになり軸が落下する恐れがあるので、注意が必要です。
位置ずれ エンコーダ不良
モータの位置(回転角度)や速度などを検出するためのものが、エンコーダです。
インクリメンタル式とアブソリュート式があります。
モータと一体型になった物の場合には、モータごとに交換が必要です。
メカ的なずれが生じた不良
減速機器、タイミングベルト不良でのズレの場合があります。
交換に関しては、専門的な技術も必要ですし、交換後の位置あわせ、調整にもノウハウがあります。
原点の違い(原点忘れ)
下記の原点忘れとも関係がある場合があります。
原点忘れ サーボアンプ、サーボパックの故障。
エンコーダ用バックアップ電池の不良
最近のACモータでは、絶対位置エンコーダを持っているものがあります。
このエンコーダの位置をバックアップしている電池の電圧低下、不良で原点が消える場合があります。
暫定的に、原点の再設定をすることで対応ができる場合がありますが、電池交換をすることが必要です。


図3 溶接ロボットの構成

表4 溶接ロボット装置での通信内容、特長

エラーの種類 対処例と注意事項
RC⇔TP ティーチペンダントは、操作する人間とロボットのインターフェース機能を持っております。
ロボットの教示内容の表示、各種異常の表示、ロボットの状態表示をします。
情報量も多いので、高速の通信を行う必要があります。
ロボットの状態を知るための重要な表示装置なので、このTPに表示がされない場合には、故障の判断が難しくなります
RC⇔溶接電源 溶接電源に対しても、溶接の開始、停止命令、各種条件の設定、電源からの状態データ(WCR:溶接開始をしたリレー信号など)を通信により授受をしています。
通常は、溶接インターフェースを介して通信が行われますが、最近ではロボット専用の溶接機としてIFを内蔵するタイプもあります。
また、近年のデジタル溶接電源では、ロボット側からいろんな設定が可能になってきてために、通信データ量も多くなっています。
RC⇔
マニピュレータ
マニピュレータを動作させるための、モータパワー線、ブレーキを解除する線、位置情報をやり取りするエンコーダ線があります。また、モータの種類などを確認するために、通信線もあります。
RC⇔操作ボックス 教示や再生といった、モードを切り替えるための装置として、操作ボックスを使用する場合があります。
モードの切り替えや、起動の信号、非常停止の信号などをRC間で授受しております。
外部のジグからの信号で、直接ロボットの起動や、プログラムを選択する方式の場合には、接続されない場合があります。
マニピュレータ⇔
溶接電源
通常、溶接ロボットでは、マニピュレータ上に、ワイヤ送給装置、ガス電磁弁を持つために、この関係の信号線があります。
最近のワイヤ送給モータには、エンコーダを使用して応答性を高めたり、モータの状態を監視して、溶接を制御するものもあります。

表5 エラーの種類,考えられる故障原因,対処方法例と注意事項

エラーの種類 考えられる故障原因 対処方法例と注意事項
RC⇔TP
通信異常
無表示
RCとTP間の接続ケーブル故障
(地絡、断線、接触不良、外界からのノイズ混入など)
TP内部の部品故障
(制御のプリント基板、液晶表示の故障など)
定電圧電源の不良(TPへの電源供給用)
現場的には、故障判断をするために、別のTPを入れ替えることがあると思います。
ただし、同じように見えても機種により、違う場合がありますのでメーカサービスに事前確認することが必要です。
RC⇔溶接電源
通信異常
溶接異常
アークスタート不良
アーク切れ
溶着
溶接電源異常
マニピュレータ⇔
溶接電源 通信異常
RCと溶接機の接続ケーブル故障。
溶接電源とのインターフェース基板の故障。
溶接電源の異常、故障
(電源側に異常ランプが点灯していないか)
RC側インターフェース基板の故障。
*溶接に関わる諸条件の不良
この他にも、エラー表示をしないが溶接の状態がおかしいといったこともあります。
この場合には、左記の故障が関係する時もありますが、溶接に関わる諸条件の不備もあります。
一例としては、コンジット内部でのワイヤ送り不良、シールドガスの不良、チップの消耗など。
単純に機器の故障と考えず、総合的な判断が求められます。
RC⇔
マニピュレータ
通信異常
サーボエラー関係
前述のサーボエラーサーボ異常に関係します。 サーボエラーサーボ異常を参照ください。

1.3 制御関係のエラー,その他

その他には,RC内部での構成部品の各種故障があります。現在のロボットでは,ソフトウェアが重要な役割をしており,RC内部のいろんな基板に組み込まれているケースが多くなりました。
ソフトウェアの進化により,プリント基板内部の状態や,各基板や部品間の接続状態を監視できるようになり,かなりの故障箇所を推定することが可能になっています。一般的に自己診断機能とかモニタ機能と言われています。
ただし,故障の箇所が断定できても,部品交換にともなう調整,設定があるので,専門的な知識を必要とされ,保守部門の専門家,メーカーサービスマンに頼らなければならないのが実情です。また,ロボットの事故診断機能でも,判断できない故障もありますので,経験なども必要とされています。

2 予防保全保全(故障やエラーを予防する)について

ロボットが出始めた頃は,故障に対する対応はマニピュレータ,コントローラ,溶接機のハード,メカなどに関して専門知識を有したメンテナンス部門あるいは,メーカーサービスマンが必要でした。しかし近年は,自動車業界をはじめとする産業用ロボットの普及で,お客様のレベルもアップしてきたこともあり,トラブルの多くは日常的あるいは定期的なメンテナンスを施すことで事前防止が可能になってきています。異音,変な動作をする,特定のエラーが多発するようになる。このような兆候が見られたとき,あるいはその前に,定期健康診断つまりロボットの定期点検を行うことで,弱った箇所を見つけ,故障を未然に防ぐことができます。
表6には定期的なメンテナンスを周期で分けた一例を示しますが,移動時間,周囲環境など,お客様に合わせて実施することが大切です。常にベストな状態でロボットをご使用いただくために,心がけるようお願いします。また,教示しているデータも大切な情報です。それまでに蓄積されたノウハウが詰め込まれたものであるので,定期的にデータをバックアップすることも忘れずに実施してください。

表6 定期的メンテナンスの例

メンテナンス 点検箇所、部品 チェック内容、処置、注意点
日常的な
メンテナンス
RC
      全体
マニピュレータ
      全体
溶接関連
      全体
全体的な清掃
特にスパッタなどの付着による絶縁
不良などないか

TP、操作ボックスなどの非常停止SW
が正常に動作するか

周囲環境(温度、湿度など)の変化がないか
週単位、月単位でのメンテナンス。 RC
      全体
マニピュレータ
      全体
溶接関連
(消耗部品の定期的な交換)
      パワーケーブル
      コンジット
      チップ、トーチ関係
各種のコネクタ、接続ケーブルの損傷がないか

動作時における異音がないか

消耗品のチェック、交換
1年、3年周期でのメンテナンス RC
      基板のコネクタ
      冷却ファン
      冷却ユニット
      電磁接触機
      TP
      操作ボックス
マニピュレータ
      本体機内配線
      エンコーダの電池
      モータ減速機のグリス
溶接関連
      溶接電源
基板コネクタの再接続、増し締め
冷却ファンの交換
冷却ユニットの清掃
チェック、交換
電池交換
TPのキー、SWのチェック、交換
機内配線のチェック、交換
電池交換
グリス交換
タイミングベルトの調整、交換
全体の清掃
冷却ファンのチェック、交換

 

松浦 茂徳
(株)ダイヘンテクノス中国サービスセンター
出典:【溶接技術2006年11月号】

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