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溶接材料編 第2回

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溶接材料編 第2回
炭酸ガスアーク溶接ソリッドワイヤ

 
前回は,被覆アーク溶接についての使用目的に合わせた溶接材料選定と施工上の注意点について説明しました。
今回は,炭酸ガスアーク溶接ソリッドワイヤを取り上げます。前回と同様JIS規格のみでは表現できないものが多いので,当社銘柄名(『』書き)での説明となる点ご了解ください。炭酸ガスアーク溶接ソリッドワイヤは自動車,建築鉄骨および建設機械の溶接ロボットに多用されており,2003年工業会データでの品種構成比は47%に達しています。今後もロボット化,自動化の進展に伴い構成比はさらに増加するものと予想されます。
それでは,炭酸ガスアーク溶接ソリッドワイヤの選定に関して解説します。
Q1 機械のモータケースを『MG−2』を使い製作していますが,溶接した部分のビードが硬くグラインダ掛けに苦労しています。何か良いワイヤはないでしょうか。
 

A1 比較的薄板の分野でも効率性,作業性を考えて炭酸ガスアーク溶接ソリッドワイヤによる施工が多く行われています。このような板金,金物など薄板の溶接には,低電流用の『MG−2』,『MG−50T』が良く使われておりますが,これらの溶接用ワイヤは,JIS Z 3312「軟鋼および高張力鋼マグ溶接用ソリッドワイヤ」のYGW−12に規格分類されており,一般的に軟鋼から490N/mm2級高張力鋼に使えるよう設計されています。したがって,JIS Z 3111「溶着金属の引張及び衝撃試験方法」による引張強さは540N/mm2程度あり,従来薄板の溶接に使用されてきた『B−14』(JIS Z 3211 D4301)や『ZERODE044』(JIS Z 3211 D4303)の被覆アーク溶接棒の引張強さ460N/mm2程度に比較するとやや高くなっています。そのため,グラインダで仕上げる際削りにくくなります。このようなニーズに対応して作れられたのが『MG−SOFT』です。

『MG−SOFT』は,名前のとおりワイヤのMn,Siを調整して溶着金属の硬さをできるだけ抑え,ビードを削りやすくすると同時に耐ブローホール性や薄板での溶接作業性も良好にした炭酸ガスアーク溶接用ソリッドワイヤです。表1に『MG−SOFT』と『MG−2』の重ねすみ肉と水平すみ肉の溶接金属の高度測定結果を示します。『MG−2』に比べビッカース硬さで10〜15低くなっています。この他アークもソフトでビード形状も平滑に着きやすく,グラインダ等によるビード整形作業を軽減させることができます。ただし,このワイヤはJIS Z 3312YGW14に分類され,SM490等の高張力鋼に使用すると引張強さが不足する危険があります。適用に際しては溶接金属への要求性能を充分確認してください。

 
Q2 建築鉄骨において新しい制度での認定工場となるには,評価条件の中に入熱,パス間温度などの溶接条件管理が定められているとのことですが,実際に入熱,パス間温度は,溶接性能にどのような影響があるのですか。また,どんなワイヤが有利ですか?
 

A2 入熱およびパス間温度は,JIS Z 3001「溶接用語」で次のように定義されています。入熱は「溶接の際,外部から溶接部に与えられる熱量。アーク溶接においては,アークが溶接ビードの単位長さ(1cm)当たりに発生する電気エネルギーH(J/cm)で表され,アーク電圧E(V),アーク電流I(A),溶接速度V(cm/min)とすると,H=60E/Vで与えられる」とあります。したがって,溶接電流・電圧が高いほど,また溶接速度が遅いほど入熱は大きくなります。同じ突合せ継手を溶接する場合,入熱が大きいほどパス数は少なく,反対に入熱が小さいほどパス数は多くなります。一方,パス間温度は,「多パス溶接において,次のパスの始められる前のパスの最低温度。1パス1層時のパス間温度を層間温度という」とあります。建築鉄骨のように比較的溶接長の短い場合の多パス溶接では,パスごとに熱が蓄積されるため次第に溶接部の温度が上がり,パス間温度は仕上げパス前で最も高くなります。もちろんその温度は入熱,溶接部の板厚,開先形状などにより異なります。

鉄骨の柱梁仕口を想定したガスシールド溶接での溶接金属の機械的性能に及ぼす入熱,パス間温度の影響を図1および表2に示します。


図1 機械的性能に及ぼす入熱およびパス間温度の影響

表2 入熱・パス間溶接条件

入熱あるいはパス間温度が高くなると,溶接金属の冷却速度が小さくなるため,ミクロ組織が粗大化して強度および靭性が低下します。このような現象は各種溶接法に限らず被覆アーク溶接からサブマージアーク溶接まで,軟鋼のみならず高張力鋼および低合金鋼溶接材料全般に起こります。とくにガスシールドアーク溶接では,大入熱(高電流・低速度)の場合は溶融池が大きくなるためシールド性が劣化して大気中の窒素が溶接金属に混入し,靭性がさらに低下する場合もあります。したがって,所定の機械的性能を確保するには入熱とパス間の管理をしなければなりません。

引張強さ540N/mm2級高張力鋼用ソリッドワイヤYGW18,YGW19が追加されたJIS Z 3312「軟鋼および高張力鋼用マグ溶接ソリッドワイヤ」の解説には,鉄骨の柱梁仕口溶接に使用されるワイヤは,柱―梁の適用鋼種に応じた溶接部の機械的性質を確保するため,入熱およびパス間温度を表3に示すように管理する必要があると記されています。YGW18,YGW19のワイヤを使用することにより入熱40kJcm,パス間温度350℃の上限でも優れた機械的性能が得られ,入熱量,パス間温度の管理が軽減できます。

表3 鉄骨造建築物におけるワイヤの使用区分

 
Q3 普段は板厚4t〜12t程度の中板を1.2mmφのワイヤで炭酸ガスアーク溶接しています。今回25t〜40t程度の厚板の仕事が入る予定であり,能率向上のためワイヤ径の太径化を考えています。溶接は半自動で下向突合せや水平すみ肉などの継手があり,溶接機は通常の500A容量のものを使用する予定です。ワイヤ径の選定と溶接施工上の注意点を教えてください。
 

A3 溶接施工における最適ワイヤ径の選択は,その使用電流域をはじめ電源容量,送給装置,ワイヤの種類,施工法などにより変ります。

ワイヤ径の選択の基本は,使用電流による使い分けです。高電流用ソリッドワイヤ『MG−50』(YGW11)のワイヤ径ごとの使用電流範囲を表4に示します。

表4 ワイヤ径と使用電流範囲


図2 ソリッドワイヤのワイヤ径と溶接電流の違いによる溶着量の一例

ワイヤ径の選定には,使用電流域の他に板厚,溶接姿勢,入熱制限などの施工条件を考慮することが必要です。

今回,厚板を半自動溶接するとのことですが,現状お使いの1.2mmφのワイヤ径では溶接機の送給速度に限界があるため,特別な仕様の溶接機でない限り最大溶接電流350A,最大溶着速度130g/分までしか上がらずそれ以上能率を上げることができません。

このような場合,ワイヤ径を太くして溶着速度を大きくする方法があります。各ワイヤサイズの溶接電流と溶着速度の関係を図2に示しますが,ワイヤ径1.4mmφでは溶着速度を180g/分まで上げることが可能であり,1.2mmφに比べて約38%溶着速度を上げることが可能です。1.6mmφでは電流さえ上がれば溶着速度230g/分まで上げることが可能ですが,溶接電流が500Aを超えてしまうため,電源容量500Aでは限界があります。

また,溶接者が溶接トーチを手で持って溶接作業をする場合,溶接電流の上限は多少の個人差はありますが,400A前後であり,この付近の電流範囲ではワイヤ径1.6mmφよりも1.4mmφの方が溶着速度が大きくなります。したがって今回のようなケースではワイヤ径1.4mmφのご使用をお勧めします。

厚板溶接の施工上の注意点として
1)裏当金なし突合せ溶接の開先内ルートパスでの溶接電流を250A以下とし,梨型ビード割れを防止する。
2)水平すみ肉溶接時,ビード形状の不整やアンダーカット防止のため溶接電流を350A〜380A程度に抑える。
3)ブローホールを防止のため,ガス流量を20〜25L/分,ノズル高さを20〜25mm程度の適正範囲に調整するとともに防風対策を施す。
4)ブローホールやピット,割れ防止のため溶接部の汚れや水分,油,錆などを溶接前に十分に清浄する。
以上の項目を注意して頂き溶接欠陥のない溶接を行ってください。欠陥を防止し,溶接後の手直しを無くすことが能率向上の第一歩です。

 
Q4 炭酸ガスアーク溶接ワイヤYGW12タイプ1.2mmで脚長3mmの水平すみ肉溶接をロボットで行っていますが,スパッタが多くて困っています。発生量を少なくするにはどのようなワイヤを使用すればよいか教えてください。
 

A4 スパッタを少なくする対策として,溶接材料,シールドガス,溶接電源,溶接施工条件など色々な要因が関係します。スパッタを減少させるにはまず,溶接施工条件が最適であるかをチェックします。とくに溶接電圧が高すぎるとアーク長が伸びワイヤ先端に懸垂した溶滴がアーク力で飛ばされ大粒のスパッタとなります。

さらに,減少させるには,ワイヤとシールドガスの組合せを検討します。ワイヤとしては,よりスムーズな送給性,アークの安定性が要求されます。このような要求に対して最適なワイヤが銅メッキのない新表面処理ソリッドワイヤである『SE』ワイヤです。炭酸ガスアーク溶接用の『SE−50T』は従来のYGW12タイプに比べて溶滴移行が安定しているため,図3スパッタ発生量の比較(YGW12)に示すように1mm以下の大粒のスパッタが低減されています。よりスパッタを少なくするのには,『SEA50』(YGW16)とAr+CO2混合ガスの組合せでの使用をお勧めします。『SEA50』はAr+CO2混合ガス低電流域で安定した短絡移行のアークを実現します。さらに短絡とスプレーが混在する中電流域でもアークの安定が優れており,図4に示すように従来のYGW16タイプに比べてスパッタの発生量が少なくなります。

また,図5(次ページ)に示すようにシールドガス中の炭酸ガス濃度を減少することによりパルス電源を使用しなくても一般のサイリスタやインバータ電源でも低電流でのスプレー化が計られ,より大幅にスパッタが低減できます。その他『SE』ワイヤを使用することにより,厳しい送給系においても安定した溶接が可能でめっきレスのため,めっき屑が発生せず,ライナーの清掃や交換頻度が減少し,銅めっき屑の詰まりにともなうトラブルがなくなります。またチップでの融着が減少し,とくにロボットや自動機での溶接においてアークスタートミスによるチップの交換頻度が減少し稼働率が向上することが期待できます。

 
Q5 CO2溶接鉄骨ロボットにてダイヤフラムと角コラム(コア)の溶接を行っています。通常のJIS Z 3312 YGW11,YG18のワイヤを使用していますが,厚板ではスラグを取らないと欠陥が発生してしまい困っています。何かよいワイヤはありませんか?
 

A5 ソリッドワイヤを使用した炭酸ガスアーク溶接においてスラグは不要なものですが,溶接という短時間の冶金反応の結果として,Mn,Si,Tiなどの合金成分の酸化物,MnO2,SiO2,TiO2などの形で生成されます。

溶接金属の強度やじん性は,溶接金属の化学成分の及ぼす影響が大きく,ソリッドワイヤにおいては溶接金属の機械的性能を確保するため,ワイヤの合金成分量を調整します。とくにJIS Z 3312 YGW18のワイヤは一般に大電流,大入熱溶接での高レベルの機械的性能を要求されるため,合金成分がより多く添加することが必要となります。その結果,スラグ量も多くなります。

一方,鉄骨の溶接で重要な継手であるダイヤフラムと角コラム(コア),コアと柱の継手をロボットにて行う場合,ポジショナ(回転冶具)との組合せにより,連続多層溶接となります。ここで問題となるのが質問にあるような厚板でのスラグによるトラブルです。スラグ巻込み,ビード不整,アーク切れ等の危険を防止するためには,一般に板厚19〜22mm以上は一度,溶接を停止してスラグを除去することが必要となります。連続運転可能な板厚の上限を上げ,スラグによるアークスタートミスを減少させるためにはスラグのより少ないワイヤが有効となります。

このような要望に対応したワイヤが本年7月大阪のウエルディグショーにも出展しました『MG−55R』です。YGW−18として必要な性能を確保しながら,スラグ量を大幅に減らしました。表5,図6にその溶接金属の性能の一例とスラグ量の測定例を示します。

同じ要望に対応したYGW−11のワイヤが『MG−1R』,『MG−50R』です。一般のワイヤより,スラグ量を減らし,連続多層溶接がより厚板まで可能となります。

 

信田 誠一
(株)神戸製鋼所営業部カスタマーサポートセンター
出典:【溶接技術2004年10月号】

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