技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第2回

質問にお答えします/技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第2回

 
前回に引き続き,現場に役立つ溶接ロボットの基礎知識を中心に説明していきます。
Q1 ロボットを使用するとき,安全に関して配慮しなければならないことはどのようなことですか?
 
A1 溶接ロボットは労働安全衛生規則で産業用ロボットに該当し,同規則で「特別教育」を必要とする業務に指定されています。それは,溶接ロボットが次のような点において一般の産業用機械に比べ危険な要因をもっているからです。

➀溶接ロボットの機構・制御が複雑・高度化しているので,これを取り扱う人は十分な知識と技量を持つ必要がある。取扱者の知識不足は誤操作の要因になる。

➁ロボットの動作が,機械外部の三次元空間を静かに非常に早く動き,また次の動作がどの方向かわからないため注意が必要である。

➂ロボット制御部は多くの電子部品から構成され,その制御は非常に複雑で,ハードおよびソフトの不具合や電磁ノイズでの誤動作の可能性が潜在している。

➃ティーチング作業はロボットの稼動範囲の内で行う事が多く,ロボットの誤動作,作業者の誤操作は人に危険を及ぼす可能性がある。

これらの危険要因のために,次のような内容を「ロボットを使用する作業」に対して義務付けています。
・ロボットの仕事に係わる人は「産業用ロボット安全衛生特別教育」の講習を修了した人でなければならない。
・ロボットを自動運転で使用するときには,安全柵などを設置し作業者とロボットを隔離し,接触しないようにしなければならない。
・各種作業規定を作って,それに基づいて作業を行わなければならない。その他にも「作業前点検」などいろいろな決まりが設けられていますので,使用する前には「労働安全衛生規則」を確認してください。「産業用ロボット安全衛生特別教育」の時間は表1のように規定されています。

 
Q2 ロボットを工場に据え付けする前に準備していなければならないことはどのようなことがありますか?
 
A2 少なくとも,次の準備をしておく必要があります。➀スペース(場所)の確保,➁動力源の確保,➂ジグの準備,➃オペレータの育成です。

➀設置スペースはロボットのカタログを見てその可動範囲を参考にして決めますが,旋回動作方向は作業に必要な動作範囲に制限することができます。ロボットが動くことのできる範囲はメカストッパに当たるまでですが,一般的に図1のようにオーバーラン検出用のリミットスイッチとその少し内側にソフトプログラムで制限されるソフトリミットの範囲が設けられます。使用時には安全のためにも必要最小限の動作範囲に設定して使用します。また,ロボットの後方(作業者と反対側)にもスペースを確保しておく必要があります。これはロボットの後方にコンジットケーブルや溶接ケーブルが垂れ下がり,それらがロボットと一緒に動き回りますのでロボットの後ろ側にも空間が必要です。

マニピュレータの動作範囲は,最大はメカストッパに当たるまで動かすことが可能であるが,途中にオーバラン検出用のリミットスイッチ(LS)が設けられていて,必要に応じて可変調整ができる。このLSの少し内側に制御上の動作範囲としてソフトリミットをティーチペンダントより入力し操作時の動作範囲を制限する。
(動作軸にメカストッパやLSが付いていない軸もある)

図1 動作範囲の制限

➁動力源は3相200Vの電源に接続します。ロボット制御装置も溶接機電源も3相200Vですが,同じスイッチボックスから取ることは避けなければなりません。これには三つの目的があり,一つは「タコ足配線をしない」こと,二つ目がそれぞれの電気容量が異なるので各容量にあったブレーカを使用しなければならないため,三つ目がロボット制御装置へ溶接機の電磁ノイズの侵入を防ぐためです。溶接機は電気的に大きなノイズ源になる恐れがありますので,ロボット制御装置へ悪影響を与えないように200Vの入力は別々にしてください。またアース(接地工事)の方法についての配慮も必要です。接地工事は図2−Aのように行い,図2−Bのような接地工事は避けなければなりません。共通にしたアース線を介して電磁ノイズがロボット制御装置へ侵入する可能性があり誤動作の要因になりかねないからです。


図2 設置工事の方法

➂のジグに関しては次項Q3で詳しく述べます。

➃のオペレータに関してはロボットを納入する前にメーカへ派遣して操作講習を受講させ,取扱い操作と「産業用ロボットの安全講習」を修了しておかなければなりません。オペレータとしての人材は,先月のQ8)に記したように産業用ロボットに関心のある人でかつ溶接の知識を持っている人が望ましいと思われます。溶接を行うことが目的のロボットなので溶接のノウハウが溶接結果に大きく影響します。溶接作業を自分の手で行った経験のある人がオペレータとして適任と思います。

 
Q3 ロボット溶接用のジグを作成するときの注意事項と考え方を教えてください?
 
A3 ワーク及びそれを固定するジグの精度が良くないと,良い溶接結果は得られません。溶接ワークを固定するジグはロボット溶接作業を行うときの重要なポイントとなりますので次の点を参考にしてジグを準備してください。溶接ロボットを上手に使いこなすには,ジグの出来不出来が大きく影響します。まず,半自動溶接で使用しているジグが使用できないか検討する。半自動溶接で使用しているジグが使用できると
・ジグ作成のための費用が安くなる。
・短時間でジグを準備出来る。
・熱ひずみの発生などジグの癖がわかっている
など有利と思われます。しかし,ロボット溶接の場合はジグのばらつきに対してロボット側では微調整は出来ない(いつも同じ動きしかできない)ため,無理に使用すると逆にロボットの稼働を悪くしかねないので見極めが大事です。ジグを新規に製作する場合は,
・作業者がワークの着脱をやりやすい(疲れない)構造
・最少のスランプで固定できる構造
・スパッタが付着しにくい構造などに配慮し,次の点を意識して作る必要があります。

➀クランプ方法は,作業性を配慮する。
・手動クランプは,作業者が絶えず使用するものなので作業性,操作性を意識して作ること。
・大きさ(片手で操作できる),位置(腰より少し上の高さ),操作の方向(上から下へはやり易いが下から上へはやり難い)に配慮が必要。

➁ワークを固定する基準面は,ワーク加工時の基準を位置決めの基準面になるような構造とする。
・反転など行なう場合も,同じ基準面を基にする。
・ジグ側基準面にスパッタが付着しないようにする。
・基準面の近くにクランプ位置を確保する。

➂スパッタへの配慮を十分に行う。
・可動部にスパッタが付着しないこと。
・可燃物は使用しない。ケーブルホース類は保護。
・スパッタが蓄積しても動作不良になるところはないか確認する。
・スパッタは定期的に掃除できる構造にしておくこと。
・ワークの支持方法は,「点」または「線」で受け,「面」では受けない。スパッタを挟み込んだら,溶接位置がずれるから。

➃溶接歪みに配慮する。
・歪みが発生してもワークの脱着に支障がない構造とする。
・溶接歪みの力は非常に大きな力である。
・クランプの位置は溶接部の近くにとる。

➄一度のセットで多くの溶接ができる構造とする。
・クランプ位置及び溶接姿勢を考慮する。
・ポジショナを利用してワークを回転させる方法を検討する。

➅多品種生産時の対応。
・ジグの段取り変え作業時間の短縮を考慮する。
・位置決め基準は出来るだけ共通にする。
・ワークに応じてジグ一式交換とする。

➆薄板のアーク溶接個所の裏側は,フリー(空間)が望ましい。バッキング材を用いると,バッキング材との接触の程度で溶接結果が大きく異なってくる。

➇作業の安全性を配慮した構造とする
・ロボットの可動範囲の外でワークを着脱できる構造とする

 
Q4 タクトタイムの計算方法は?また,タクトタイムを短縮する方法は?
 
A4 溶接工程をロボット化する目的のひとつに,タクトタイムの短縮(作業のスピードアップ)と正確さがありますが,タクトタイム(T)は次のようにして求められます。T=➀ロボットの遊走時間+➁溶接時間+➂その他の時間

➀ロボットの遊走時間とは,溶接位置から次の溶接位置への移動時間ですが使用する溶接システムによって大きく異なります。概略値は表2を参考にして下さい。ロボットの種類によっては,遊走時の動きが図3のように移動距離を短縮できる機能を持っているものもありますので,タクトタイム短縮には活用できると思われます。ただ,この場合にはトーチをワークやジグに当てないようなティーチングが必要です。


図3 ロボット移動距離の短縮機能

➁溶接時間は,総溶接長さ÷平均溶接速度です。タクトタイムで一番大きいのがこの溶接時間ですが,溶接時間を決める溶接速度は半自動溶接より大きく上げることができる場合があります。半自動溶接の場合は,作業者のトーチを動かすスピードに限界があるので溶接速度は一般的に30〜50cm/minで早くても80cm/min程度ですが,ロボットの場合は電流を上げて溶接ビードが確実に形成されれば150〜200cm/minでも十分な溶接が可能な場合があります。特に最近は溶接機の性能が向上し高速溶接時の溶接現象を的確に捉えてアークを安定化させることができる写真1の様なデジタル制御の溶接機が使用されて,一層の高速溶接が可能になってきています。このような溶接機を使用して溶接速度を上げることはタクトタイム短縮に大きく影響していきます。


写真1 デジタル制御の溶接電源

➂その他の時間とは,ロボットが溶接箇所に行きアークが発生するまでの時間(プリフロー時間・ワイヤスローダウン時間)や溶接終了点でロボットが動き出すまでの時間(クレータ処理時間・アフターフロー時間)などがあります。プリフローはロボット移動中にできるのでほぼその時間は無視できます。ワイヤスローダウン時間とアフターフロー時間は0.3〜0.5sec程度,クレータ時間は使用する溶接電流によって異なってきますが,150A程度までの電流域では約0.5sec,250A以上の電流域では1〜1.5sec程度で計算できると思います。溶接箇所が多ければこれらの時間は無視できない時間になります。

 
Q5 ロボットの稼働率を上げるための使い方で簡単な方法を教えて下さい。
 
A5 最も一般的に用いられる使用方法は,図4のような「マルチステーション方式」と呼ばれる作業テーブルを複数台用いる使い方です。作業台Aでロボットが溶接中に作業者は作業台Bでワークのセットを行い,セット終了後に始動ボタンを押して次の作業を予約する方法です。ロボットは作業台Aでの溶接を終了後,勝手に作業台Bに動いてきて作業台Bで溶接を行います。従ってロボットを休ませることなく使用できるので稼働率が向上します。ロボットの起動予約は始動ボタンを押した順番に行なわれますので作業テーブルを3台,4台と増やして使用する場合もあります。しかし作業者のワークセットのための時間とロボットが一つの作業台で溶接を行なっている時間がバランスしないと全体の稼働率を向上させることにはなりません。他に図5のような「シャトルテーブル方式」もよく使用される使い方です。Aテーブル面をロボットが溶接中にBテーブルでワークセットを行い,始動ボタンで予約を行なうとBのテーブルがロボット側に移動してA面の終了を待っています。そしてAテーブルでの作業終了後にBテーブルの溶接を行い,Aテーブルは作業者側に戻ってきます。このようなシャトルテーブル方式は,作業者がロボットの可動範囲内に入ることが無いので安全面からも推奨できる使い方といえます。


図4 マルチステーション方式(2ステーション)


図5 シャトルテーブル方式

 
Q6 一台のロボットで1層目をティグ溶接で行い,その後同じロボットで2層目をCO2溶接で行ないたいのですが可能ですか?
 
A6 ティグ溶接とCO2溶接は溶接トーチ・溶接電源・シールドガスなど溶接関連機器がすべて異なります。ロボット自体はどのような施工方法にも対応できますが,これら溶接関連機器の交換を行わなければなりません。また下記の理由により制御装置内のパラメータの変更も必要です。溶接関係のパラメータの変更は,

➀トーチ交換に伴うロボットの原点設定を変更。
(ロボットはトーチ先端を原点とした制御が行われていますのでトーチを交換した場合には原点の設定変更が必要です)

➁ロボット制御装置の溶接パラメータを,使用する溶接機に応じて変更する。
(ロボットから溶接機への溶接条件指令値などが溶接機の種類によって異なるため)
これらの交換や変更を作業者が行った場合は,30分から1時間位の作業時間で可能です。従ってその都度これだけの時間をかけたら複数の施工法で使用することは可能ですが,1層目と2層目で変更することは現実的ではありません。どうしても1層目と2層目で変更する必要がある場合は,トーチの交換を自動的に行うことができるオートツールチェンジャーと呼ばれる機器を用いてトーチを自動交換して使用します。オートツールチェンジャーでトーチ交換のティーチングプログラムを準備しておれば自動運転で容易に可能です。

 
Q7 ロボットで溶接中に「チョコ停」の発生を耳にしますが,どのようなことですが?またその防止対策を教えてください。
 
A7 「チョコ停」とは,自動運転中のロボットが「チョットしたことで停止するトラブル」のことでそう呼ばれています。その主な要因には次のようなことがあります。
➀アークスタートに失敗し溶接開始位置で停止する。
➁溶接中に何らかの原因でアークが消えロボットが溶接の途中で停止する。それぞれ次のような原因と対策が考えられます。

➀アークスタート失敗の要因は次のようなことです。
・母材に錆や仮付けのスラグが付着していませんか?錆やスラグは電気を通しません。錆を落とすか仮付けを避けた位置からスタートしてください。
・ワイヤ先端にスラグが付着していませんか?ワイヤ先端にスラグが付きにくい溶接条件を選択してください。例えばクレータ条件でクレータ電圧を下げるなど。アークスタートを確実に行うには,タクトタイムが少々長くなりますがワイヤ先端を毎回カッターで切断して行う方法もあります。
・溶接開始位置でワイヤが母材に当たっていませんか?スタート時にワイヤが飛び散りスタートを失敗することがあります。ワイヤのスローダウンが有効に機能する距離でスタートしてください。

➁溶接の途中でアークが不安定になったり,アーク切れが発生する場合は次の点をチェックしてください。
・ワイヤの送りはスムーズですか?コンジットケーブルは1週間に一度は乾燥したエアーを通して掃除してください。また,送給ロールの加圧は適正に調整してください。
・チップは大丈夫ですか?交換しましたか?チップの片減りやチップ内のアーキングの発生などはワイヤ送りの障害・アーク不安定の要因ですので,チップの交換は早めに定期的に行なって下さい。
ロボットは融通性が乏しいために,機器や設備に関して十分な環境を整えてやらないと,途中で止まってしまう場合があります。自動運転の前に十分な確認が必要です。

 

黒田 進
(株)ダイヘンテクノス
出典:【溶接技術2006年10月号】

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