技術サービスの最前線から

溶接材料編 第1回

質問にお答えします/技術サービスの最前線から

溶接材料編 第1回
被覆アーク溶接棒

 

溶接材料に関するユーザーから寄せられる質問には,
➀ 新しい鋼材を溶接するのでどのような溶接材料を使ったらよいか?
➁ 欠陥が発生しており,その対策はどうすればよいか?
➂ いろいろな使用目的に対して,どの溶接材料を選択して,どんなポイントに注意して施工すればよいか?

などがあります。
今回は,3の質問を中心にQ&A方式で説明します。質問の性格上,JIS規格のみでは表現できないものも多く,当社銘柄名(『』書き)での説明となる点,ご容赦願います。
溶接材料編その1は被覆アーク溶接棒を取り上げます。炭酸ガスアーク溶接に主役の座を譲ってから久しいのですが,ユーザーの数ではまだトップではないかと推察します。被覆アーク溶接棒の中では,JIS Z 3211D4303,ライムチタニア系がもっとも多く使用されています。今年の大阪でのウエルディング・ショーにおいても,新しいライムチタニア系溶接棒の出展が見られました。
それでは以下に被覆アーク溶接棒の選択に関し,解説します。

 
Q1 軟鋼・490N/mm2級高張力鋼用の被覆アーク溶接棒にはたくさんの種類があります。それぞれ特徴と用途を教えてください。
 

A1

 被覆アーク溶接棒は被覆剤と固着剤(水ガラス)を混合したものを心線のまわりに均一に塗布した後,乾燥して作られます。この被覆剤には次の主な役割があります。

➀ アークを集中させ,安定にする。

➁ 被覆剤を分解して発生したガスが空気中からの酸素や窒素の侵入を防ぐ。ガスがカーテンを作る。

➂ スラグを生成し,その粘さを変えることにより,いろいろな作業性の溶接棒が作れる。

➃ 溶着金属の侵入した悪い影響をおよぼす元素(酸素や窒素)を被覆剤に入れたMnやSiで除去する(これを脱酸および脱窒という)。

➄ 被覆剤に合金元素(NiやCrなど)を粉の状態で入れ,溶着金属にそれらの元素を添加する。また,鉄粉などを入れて能率を上げることもできる。

被覆アーク溶接棒の特徴は,この被覆剤により特徴づけられます。被覆剤には酸化物,炭酸物,けい酸物,有機物,鉄,合鉄などの原料が配合されます。
この配合比率によって,各被覆剤の系統が区分されます。表1(以下,次ページ)に配合比率の例,表2に代表的な被覆剤の系統別の一般的特徴を示します。また,各系統の主な用途は次のとおりです。

1)イルミナイト系(D4301)
軟鋼を用いる造船,車両,建築などの重要構造物に使用され,低水素以外ではX線性能,耐割れ性がもっとも優れています。亜鉛釜の溶接にはSi含有量の少ないこのイルミナイト系『B−17』が多く使用されています。

2)ライムチタニア系(D4303)
軟鋼を用いる造船,車両,建築などの一般構造物に使用されます。X線性能の点でイルミナイト系に劣りますが,溶接作業性が良好でビード外観が美しく,広く使用されています。さらに,鉄粉を多く添加したタイプは溶着速度が早く,再アーク性に優れ,実作業で多い断続溶接,すみ肉溶接,タック溶接(仮付)に最適で,軟鋼用被覆アーク溶接棒の主流となっています。

3)高酸化チタン系(D4313)軟鋼を用いる一般機械,車両,軽量鉄骨などの薄板,軽構造物の溶接および化粧盛りに使用されます。スパッタが少なく,光沢のある美しいビードが得られるタイプ『B−33』と,棒径1.6〜5.0φで立向下進の可能なタイプ『RB−26』があります。

4)低水素系(D4316,D5016,D5316)
造船,建築,橋梁,圧力容器などの溶接に使用されます。鋼材の強度レベルに合わせ,低水素系溶接棒の中から選択します。溶接金属の中の拡散性水素量が低く,耐割れ性に優れており,拘束の大きな重要構造物,高張力鋼,中・高炭素鋼の溶接に使用されます。

5)鉄粉酸化鉄系(D4327),特殊系(D4340,D5000)
造船,橋梁,建築その他の一般構造物の水平および下向すみ肉溶接に使用します。多量の鉄粉を添加した厚被2004年9月号覆の溶接棒で,ダラビィティーやオートコーン溶接(低角度溶接),手溶接でのコンタクト溶接に適しています。


表1 軟鋼被覆アーク溶接棒の各系統の被覆剤配合比率の一例


表2 代表的な被覆剤の系統とその一般的特徴

 
Q2 鉄骨工事の組立溶接を被覆アーク溶接棒で溶接する場合は低水素系の溶接棒を使用しなければならないと聞いています。低水素系の溶接棒は再アークが悪くタック溶接に使用すると使いにくいのですが,なにかよい低水素系の溶接棒はないでしょうか。
 

A2 一般に低水素系の溶接棒は再アークが悪く,作業性の面でタック溶接にはあまり適していません。一方,ライムタチニア系などの非低水素系の溶接棒は再アーク性に優れ,タック溶接を行いやすいのですが,構造物の板厚が厚い場合や高張力鋼のタック溶接には強度と耐割れ性に対する配慮から使用できません。

JASS6の鉄骨工事の組立て溶接の項でも,「SN400などの軟鋼で板厚25mm以上の鋼材,およびSN490以上の高張力鋼の組立て溶接を被覆アーク溶接で行う場合には低水素系の溶接棒を使用する」と規定されています。そこで,鉄骨工事のタック溶接には再アーク性の優れた490N/mm2級高張力鋼用低水素系被覆アーク溶接棒『LB52T』のご使用をお勧めします。

この溶接棒はタック溶接用として必要な優れた再アーク性と良好な耐割れ性を有し,立向下進溶接を含む全姿勢溶接が可能な作業性の優れた被覆アーク溶接棒です。再アーク性は表3に示すように,一般低水素系溶接棒に比べて大幅に優れており,一度アークを発生させ30秒放置の再アーク性においても100%のアーク発生率を示します。また電撃防止装置(高抵抗始動形)付き溶接機でも軽く触れるだけで80%の確立で安定した再アーク性を示します。また,被覆剤は,難吸湿でかつ極低水素の特性を有してます。図1に耐吸湿性の試験結果を示します。吸湿条件として温度30℃湿度80%の雰囲気中で50時間経過しても,再乾燥を必要とする吸湿量の0.5%に達しません。さらに拡散性水素量の試験結果を表4に示します。 3.0〜4.0ml/100gの極低水素レベルです。また高温割れ性の試験であるフィスコ割れ試験でも良好な結果が得られています。


表3 再アーク性の比較


表4 拡散性水素試験結果の一例


図1 LB-52T(4.0mmφ)の耐吸湿性

 
Q3 作業場の溶接棒の整理棚に溶接棒の特徴を明記し,誤使用を防止しようと思っています。初歩的な質問ではありますが,『LB52』と『LB52U』の相違点を教えてください。
 

A3 銘柄の名付け方に対する質問がよくあります。溶接材料を開発し名前を付けた当時は,充分に一般的で解りやすく付けたつもりであっても,長い時間の経過により,明確な意味が解らなくなってしまったものもあります。今回のご質問の『LB52』と『LB52U』ですが,まず,LB52から説明しますと,初めのLBとはスラグシールド型の低水素棒であることを意味します。次に52は490N/mm2(50kgf/mm2)級高張力鋼用であることを示しています。『LB52U』のUはUranamiの頭文字を採って裏波専用棒であることを表しています。JIS規格の分類では『LB52』はJIS Z 3212(高張力鋼用被覆アーク溶接棒)D5016に分類されますが,『LB52U』はJIS Z3211(軟鋼用被覆アーク溶接棒)D4316に属します。なぜ,52の表示で軟鋼なのかと言いますと,当初はJIS Z 3212 D5016に属していましたが,その後JIS技術検定の受検に使用する溶接棒がJIS Z 3211の認定品でなければならなくなった技術サービスの最前線からため,便宜上JIS Z 3212からJIS Z 3211へ規格変更したわけです。従って規格は軟鋼用であっても強度的には490N/mm2級高張力鋼の溶接にも使用できます。なお,現在ではJIS規格の溶接技術検定の基準が改定され,490N/mm2級高張力鋼用低水素系被覆アーク溶接棒も使用可能となっています。両者とも低水素系タイプであり,CaCO3(炭酸石灰)を主原料にしており,水素源になる有機物は含まれないので耐割れ性能に優れています。また,溶着金属の機械的性質も良好です。表5に溶着金属の機械的性質の一例を示します。

次に使用特性について説明します。『LB52』は多くの構造物に使用されている490N/mm2級高張力鋼の代表的な一般低水素系全姿勢溶接棒ですが,『LB52U』は裏波溶接専用の溶接棒です。裏波溶接においてきわめて良好な作業性を発揮し,表側からの溶接で裏側ビードに均一で十分なスラグが被りますので,綺麗で良好な裏ビードが得られます。全姿勢溶接の必要な場合の多いパイプの突合せ継手やJIS手溶接技術検定,溶接コンクールなど裏波溶接には最適な溶接棒です。表6にJIS手溶接実技試験の溶接条件例を示します。

神戸製鋼では,裏波専用棒は一般490N/mm2級低水素棒の末尾に「U」を付けていますが,他の溶接材料メーカー各社も一般低水素棒銘柄の末尾に「U」や「W」をつけ,裏波専用棒として銘柄表示されているようです。


表5 溶着金属の機械的性質の一例


表6 JIS手溶接中板(板厚9mm)裏当て金なし(N-2F)の溶接条件例

 
Q4 「ながし棒」が欲しいと現場の方から言われました。ながし棒とはどのような溶接棒のことですか?
 

A4 初めて聞かれた方は「なんのことか?」と首を傾げられるかもしれません。「ながし」あるいは「ダウン」と言うこともあり,溶接姿勢における立向下進のことを言います。立向で上から下へと溶接すると,当然,溶融金属は下に向かって流れていきます。このイメージから呼び慣わされたものと思われます。特徴としては,溶接速度が早い,溶込みが浅い,すみ肉溶接ではのど厚がつきにくいなどです。継手としての要求に照らして下進にするか上進にするかを充分検討することが大切です。

具体的にはJIS Z 3211 D4313高酸化チタニア系の『RB−26』は棒径1.6〜5.0mmで立向下進が可能です。アークは安定で,スパッタも少なく,光沢のあるビードが得られます。溶込みが浅く,薄板,軽構造物の溶接に適していますが,とくに立向下進溶接を主体とする構造物の溶接に適しています。溶接作業は図2の角度で行います。同じ高酸化チタニア系でも『B−33』は立向下進溶接には不向きです。


図2 立向下進溶接の溶接棒保持角度

低水素系では立向溶接の能率化を目的として,世界ではじめて開発された立向下進専用の低水素系溶接棒が『LB−26』です。スラグは自然はく離し,溶着金属の耐割れ性は非常に優れており,機械的性質も良好です。立向上進に比較して高電流が使用できますので,立向溶接の作業能率は飛躍的に向上します。棒径は3.2〜5.5mmです。その他末尾にVerticalの「V」がついた低水素系溶接棒は立向下進用です。他の溶接材料メーカー各社とも末尾に「V」あるいは「Down」のDをつけた名称を用いています。

 
Q5 被覆アーク溶接棒の品質管理で溶接棒の乾燥がよく言われます。乾燥の必要性と乾燥温度について教えてください。
 

A5 溶接棒を大気中に放置すれば吸湿し,本来の性能が発揮できません。さらに,場合によっては大きな事故につながるような欠陥が発生する危険もあります。このため吸湿させないよう気をつけるとともに,吸湿したものは正しい乾燥を行うことが必要です。溶接棒の被覆剤はガス発生剤,スラグ形成剤,合金元素が配合されています。これらの原料には水分を吸いやすいものもあり,また,被覆剤を心線に固着させるために使用される水ガラも吸湿性を持っています。原料を厳選した難吸湿タイプの溶接棒もありますが,程度の差はあるものの溶接棒の吸湿は避けることができません。それでは被覆剤の吸湿が溶接作業性にどのような影響を及ぼかを以下に説明します。

1)アークが不安定になり,スパッタが増加する。
2)溶込みが深くなり,アンダカットが発生しやすい。
3)スラグの被りが悪くなり,ビード外観が荒れる。
4)スラグのはく離性が悪くなる。

さらに,溶接金属の継手性能に及ぼす影響においても被覆系の種類を問わず,ピットやブローホールが発生しやすくなります。また低水素系溶接棒においては,溶接金属中の拡散性水素量の増加による低温割れの発生の危険が増加します。このように溶接部の健全性に及ぼす吸湿の影響は非常に大きいものがあります。

溶接棒は製造時にもっとも良い温度で乾燥して包装していますが,使用されるまでの間に,ある程度までは徐々に吸湿していきます。このため溶接施工の前に製造直後の状態で溶接ができるように乾燥することをお奨めします。

被覆のタイプ別に乾燥温度と時間を決めてカタログに記載してあります。この温度と時間は乾燥中に被覆中の成分を分解(焼失)させないで水分をできるだけぬいてやるように設定したものです。低水素系以外の一般溶接棒にはおよそ150℃くらいで分解を始める原料も使用しています。図3イルミナイト系被覆剤中の有機物の分解におよぼす再乾燥温度の影響例に示しますように乾燥温度が高すぎると短時間でも有機物が分解し,その結果衝撃値は劣化し,ブローホールも多くなります。低水素系の主成分である炭酸石灰も500℃前後で分解を始めます。このためイルミナイト系などの一般棒は70℃〜100℃,低水素系は300℃〜350℃に設定されています。図4の低水素系溶接棒の残留水分量と乾燥温度に示すように300℃〜350℃であれば成分が分解することなく,約30分で水分はほとんどぬけます。


図3イルミナイト系被覆剤中の有機物の分解におよぼす再乾燥温度の影響例


図4 低水素系溶接棒の残留水分量と乾燥温度

一方,「乾燥時間が24時間とか48時間ではどうか,繰り返しの再乾燥は何回までよいのか」といった質問をいただくときがあります。溶着金属の機械性能に影響しないことも多いようですが,いたずらに長時間乾燥するこ用する量を乾燥することが望ましく,その日に使いきれとは決して良いことではなく,決められた時間を管理すず残ったものも繰り返し再乾燥も3回程度で使い切る管べきです。繰り返し再乾燥回数についても,その日に使理をしたいものです。

 

信田 誠一
(株)神戸製鋼所営業部カスタマーサポートセンター
出典:【溶接技術2004年9月号】

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