技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第1回

質問にお答えします/技術サービスの最前線から

溶接ロボット編 第1回

 
はじめに
 1980年の「ロボット普及元年」に始まったわが国の溶接ロボットの使用は,自動車産業を中心に溶接作業の自動化を飛躍的に推し進め,➀溶接品質の向上と安定,➁生産コストの低減,➂納期管理の徹底,➃作業環境の向上などいろいろな効果をもたらしてきています。
この溶接ロボットの適用は自動車産業のみならず,あらゆる産業の溶接作業に広がり,また,日本から世界へとその普及も目覚しいものがあります。しかし一方,溶接ロボットに関する情報や知識が十分でないために,その特長が十分に生かされていなかったり,またロボットで溶接を行なったにもかかわらず,溶接の不良を発生しているようなケースも見受けられます。
それで今回この場で「溶接ロボットについて知っておれば役に立つ基本的な情報」をQ&A形式で数回にわたり紹介していきます。
Q1 まず,溶接ロボットの構成から教えてください。
 
A1 溶接ロボットは図1のような構成で使用されます。


図1 溶接ロボットの構成

➀は,ロボット本体でマニピュレータと呼ばれ,この先端に溶接トーチを持たせて作業が行われます。ロボットの動きはサーボモータで駆動され,一般的に6つの自由度を持つ多関節構造となっています。
溶接を行うのに必要な自由度は左右・上下・前後のほかにトーチの傾き・ひねり・回転を含めた6軸が一般的ですが,図2のような5軸プラスジャイロ軸機能を持った5.5軸の溶接ロボットも用いられています。


図2 5軸プラスジャイロ軸構造の溶接ロボット

➁は,制御装置でサーボモータの制御と自動運転に必要な教示データの記憶をしているものです。この制御装置はコンピュータを内蔵した精密電子機器ですから,溶接現場の粉塵から保護するために完全密閉構造となっています。必要な電気容量はモータの駆動を含め3〜5KVA程度です。

➂は,ティーチペンダントです。マニピュレータの遠隔操作を行うもので,ティーチング作業やその他の手動操作時に使用します。このティーチペンダントには表示画面がありロボットの各種情報を得ることができます。また,作業者の安全のために非常停止ボタンが必ず付いています。

➃は,操作ボックスでロボットの基本状態(自動運転モード・教示モード)を設定するもので,自動運転開始ボタン・一時停止ボタン・非常停止ボタンなどが付いています。

➄は,溶接機で,半自動用に使用している溶接機をインターフェースボックスを介して使用する場合もありますが,最近は溶接機もデジタル化されてきており,そのソフトウェアをロボット用に変更した溶接機が多く用いられています。また,ロボット専用に製造された溶接機も使用されます。

➅は,ワイヤ送給装置で多くは半自動溶接用をロボットの上腕軸に取り付けて使用されます。最近はロボット専用の送給装置として,サーボモータを用いてワイヤ送給の制御を行うサーボフィーダの送給装置も使用されています。

➆は,溶接トーチで溶接施工法別や使用電流域別に使い分けられます。トーチはロボットの運転中や教示作業中にワークやジグにぶつける可能性があるので,安全とトーチの保護のために,トーチが何かに当たればロボットの動きを止める「ショックセンサ」機能を内蔵したロボット専用のトーチが多く用いられています。

 
Q2 ロボットに動きを教える方法について教えて下さい。
 
A2 ロボットの自動運転時の動きは,作業者が自分自身で溶接を行う時のように,溶接の順序・姿勢・条件などをロボットに教え込むことで作られます。ロボットにこのような動きを教える作業を「ティーチング(教示)作業」と呼びます。そしてその教え込んだデータを呼び出して(プレイバック),ロボットの自動運転は行われます。ほとんどのロボットはこのようなティーチングプレイバック方式のロボットが使用されています。
具体的には,図1➂のティーチペンダントを用いてマニピュレータを遠隔操作で動かし,自動運転に必要な位置や姿勢などの位置データと溶接条件などの作業データを入力していきます。遠隔操作時のマニピュレータの動きは,ティーチペンダントのボタンを押している時のみ動く「ホールドツーラン」方式となっており安全性にも配慮されています。このティーチング作業は作業者の溶接技量・テクニックがそのままロボットの動きに反映されて溶接が行なわれますので,溶接作業を熟知したベテランの作業者の実際の溶接を模した溶接トーチの動きをティーチングすることが望まれます。
 
Q3 現在の溶接作業をロボットで行いたいのですが,ロボット化するためには何か条件はありますか?どのような溶接作業でもロボットでできますか?
 
A3 ロボット化を行い,溶接作業の効率を上げるには次の二つの条件を満たしておく必要があります。一つは,生産量・生産数です。
ロボットは前に述べたように必ずティーチング作業を必要としますので,一品一様その都度形状が異なるものヘロボット化の効果がありません。むしろ能率が悪くなります。溶接部位とその溶接条件や溶接環境にもよりますが,最低20〜30個以上の同じものを溶接する場合にロボット化の効果が発揮できます。二つめは,ワーク精度です。
ロボットの繰り返し運転時の軌跡精度は±0.1mm以内ですので,溶接される側(被溶接物)も同じ位置にセットしておく必要があります。
ロボットには目がありません。溶接条件などにもよりますが,その精度(バラツキ)は使用するワイヤ径の半分程度が目安です(φ1.2のワイヤを使用するときは0.6mm以内のバラツキです)。このように溶接ロボットは,精度のよい同じものを数たくさん溶接する場合のみに導入のメリットが期待できます。
※A3の回答の補足:最近のロボットにおいてはオフラインティーチングや視覚センサの活用などで,少量の生産数でも,また,ばらつきの大きいワークでもロボットの適用が可能となってきています。
 
Q4 導入前にロボットで実際に溶接を行ってみたいのですが,可能ですか?
 
A4 導入前に,ユーザーは,➀すべての箇所で溶接できるか動作範囲の確認,➁溶接部位で十分な溶接姿勢が取れるかの確認,➂タクトタイムはどの程度か?,➃ロボットでの最適な溶接条件(電流・電圧・速度)は?,➄実際のティーチング作業を見たい,➅ロボットで溶接を行った外観を見たい,など知りたい情報がいろいろとあると思われますので,ロボットメーカーに実ワークを持ち込み,テストサンプル作成を行うことがあります。
この検証実験は,ユーザ側の生産技術的な要素も多く,有料で実施される場合が多いようです。この購入前の事前検証は,購入予定の販売店やメーカーに問い合わせれば対応してくれます。またこの時は,メーカーだけに任せずにメーカーと一緒に確認・検証を行うと実際にロボットを導入した時にいろいろと役立つ情報が得られます。そこで見つかった新たな問題点や課題の対策を検討することで導入時の立ち上げをスムーズに行うことができます。
 
Q5 ロボットの機種を選択するときに考慮しなければならない事項はどのようなことですか?
 
A5 機種や型式を検討するときには,次のような内容を考慮する必要があります。
➀ロボットの大きさ(ロボットの可搬質量・動作範囲)
➁ティーチングのやりやすさ(使い勝手の良さ)
➂溶接機の特性を生かした使い方(よい溶接を実施するために)
➃溶接に必要な機能の装備・拡張性など。


図3 ティーチオエンダント

まず,➀「ロボットの大きさ」については,溶接ロボットはトーチを持って高速で自由な動きをすることが必要なので,一般的には4から6kgの可搬質量のものを選びます。20kgや50kgの可搬質量のロボットは,大は小を兼ねるところもありますが,ロボットの腕自体も大きくなるため,狭いところへのアプローチに支障をきたすことにもなり,4から6kg程度で十分と思われます。

➁の「ティーチングのやり易さ」はロボットを扱う作業性に大きく影響してきますので,ロボット機種選択の際に大きな検討項目になると思われます。ティーチペンダント(図3)の操作性は,わかりやすい表示パネルや使い勝手のいい押しボタンの表示と配置,軽量な持ち心地などがポイントです。最近では,液晶パネルの進歩で表示画面が大型化してまた表示もカラーの漢字表示となり,そこに表示される情報もわかりやすくなってきています。ティーチ作業に必要な各種溶接条件などの入力に際しては,ロボットの専門用語を用いるよりも溶接関連の言葉を用いた方がわかりやすく扱えるようです。また,ティーチペンダントの重量は約1.6kg程度で軽いものですが,長時間のティーチング作業を考えると単なる重量だけでなく手に持った時のバランスのある構造もポイントになります。

➂の「溶接機の特性を生かした使い方」については,溶接条件の入力の方法・各種溶接パラメータの設定方法など溶接機の持っている各種特性をフルに生かした使い方ができるようなロボットが望まれます。溶接条件の設定時には,溶接電流・電圧・速度を直接数値入力で設定でき,また,パルス溶接時にはパルス条件(ピーク電流値・パルス時間など)をティーチペンダントで設定できるなど,溶接関連の条件設定が簡単にいろいろとできるロボットが溶接にとっては有利といえます。最近では,プリフロー時間・ワイヤスローダウンスピード・初期電流などさまざまな溶接関連情報も入力できるようになっていますので,細かなところまでの設定と調整が可能です(これらの値は必要とする時のみ変更し,一般的にはデフォルト値・初期値で使用されます)。

➃の「溶接に必要な機能の装備・拡張性」とは,例えばウィービング溶接を行う時に,ウィービングのパターンや周期・振幅についてどのような使い方ができるか?,その使い勝手は簡単か?,などを検討しておく必要があります。また,ワイヤ送給に配慮したロボットか?,溶接消耗品の交換は簡単か?,など実際の溶接を考慮した問題点についても考えておく必要があると思われます。他には,大型構造物の場合や姿勢溶接が多いものに対しては,スライダやポジショナなどの外部軸が使用できるか?,などロボット機能の拡張性とその時の使い勝手なども検討していた方がいいと思われます。

 
Q6 ロボットの外部軸とはどのようなものですか?,またそれを使用する場合のメリットはどのようなことがありますか?
 
A6 外部軸とは,ロボット制御装置でコントロールできるロボット本体以外の動作軸のことです。一般的にはポジショナ(図4)とスライダ(図5)があります。これらの外部軸を用いるとロボット本体は6軸であっても,制御は7軸や8軸以上となりますが,一つのティーチペンダントで操作ができるようになっています。


図4 ロボットとポジショナ


図5 ロボットとスライダ

ポジショナの特徴は,この面盤上に溶接ワークを固定し,ワークを傾斜させたり,回転させたりすることができることです。溶接作業にこれを追うようすると,溶接トーチを絶えず下向きにして溶接を行うことができることになります。溶接個所は周知のように,溶融プール(液体の状態)ができているので,横向きや立向きにしたら溶融プールが垂れ落ちてきて溶接がうまく行きませんが,この時にポジショナを用いてワークを傾斜させたり回転させることができれば,溶融プールをフラットな状態にして溶接トーチを下向きにしたまま溶接ができ,ビード外観が均一な安定した溶接を行うことができます。また,この動きは溶接トーチ先端とワークの相対スピードを制御装置でコントロールし,溶接速度の設定通りに溶接位置を移動させることができる機能(シンクロモーション,図6)が使用できれば,溶接条件設定も容易で,溶接品質も絶えず下向きで溶接できるために,非常に優れた溶接結果が期待できます。


図6 ロボットとポジショナのシンクロモーション制御の動き

一方,スライダは,この上にロボットもしくは溶接物を乗せて,左右または上下・前後に移動させて使用するものです。したがって,大型構造物の溶接や長尺物の溶接時に使用します。この場合もスライダを動かしながらロボットの各軸を動かしても,溶接トーチ先端とワークの相対スピードが正確にコントロールできる機能(シンクロモーション)が付加されていれば,溶接速度の設定は容易に行うことができ,溶接を行いながら外部軸を動かすことができます。このスライダを複数個組み合わせてXYテーブルとして使用されている例もあります。
 
Q7 ロボット導入時に考えなければならない費用はどのようなものがありますか?
 
A7 導入時の費用は,➀ロボット自体の購入価格,➁ジグ・周辺機器に要する費用,などがあります。ロボット自体の価格は,過去に言われていた1軸:100万円の時代に比べると大幅に入手しやすい価格になっているようです。溶接機を含んだ価格でも,溶接工の人を1年間雇用した場合の経費に比べると1年以内で十分に採算が取れると言われています。
➁のジグ・周辺機器に要する費用は,いろいろなケースが考えられますが,一番簡単な使い方は,半自動溶接で使用していたジグがそのまま使用できる場合です。一部をロボット用に追加改造を行っても大きな金額にはならないと思います。ジグ・周辺機器をロボット導入時に合わせて新作する場合には,ロボットの特性を生かした使い方(ワークセットのばらつき・ワークの着脱の方法・溶接歪やスパッタへの対策方法など)にするために,ある程度の経費を要すると思われます。場合によっては,ロボットの価格以上のコストをかけてジグを作ることもあります(*ロボット用のジグについては別項で詳しく取り上げて説明します)。
 
Q8 ロボットの操作(ティーチング作業)は誰にでもできるものですか?
 
A8 ティーチング作業は,ティーチペンダントを持ってマニピュレータを遠隔操作で動かし,自動運転時に必要な位置やスピード・溶接順序・溶接条件などを制御装置へ入力していくものです。一般にはロボットメーカーで2日間程度の講習会を受講して操作技能を修得できます。
したがって,車の運転免許証を取得する程度の技量と知識を持つ人で,溶接経験のある人であればロボットのティーチング操作は充分にできると思われます。ただ,溶接現場経験の長いベテランの溶接工の人とパソコンや携帯電話の操作に慣れている若い人では明らかに修得のための時間に差があります。若い人が早いわけですが,ティーチング作業が早くできることと溶接がうまくいくことは別の問題です。
溶接をうまく行うには,溶接のノウハウを生かしたティーチングを行うことが必要です。そのためには,溶接を十分に理解している溶接経験のある人がティーチングを行うことが理想です。溶接熟練者のトーチ角度・スピード・狙い位置など細かなトーチの動きをティーチングに生かしたいものです。
また,ロボット教示作業者は,労働安全衛生法で「産業用ロボットに関する安全衛生特別教育」の受講が義務付けられていますので,この受講修了は必須条件です。ほとんどの場合,ロボットメーカーでの2日間の講習会を受講すれば「安全特別講習」の修了証を取得できます。
 

黒田 進
(株)ダイヘンテクノス
出典:【溶接技術2006年9月号】

 

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