Q&A溶接入門講座

FSW(摩擦撹拌溶接) 第2回

入門教室/Q&A

FSW(摩擦撹拌溶接) 第2回

 

 第2回の本稿では,FSW装置,施工条件および継手の械的特性についてとり上げたいと思います。

 
Q1 FSW装置はどのような構成でしょうか。
 
A1

 FSW装置には接合ツールを回転させて材料中に圧入し,そのまま接合線に沿って移動させる機能が要求されます。似た機能は,例えばフライス盤のような工作機械も持っていますが,接合ツールを強い力で被接合材料に押し付ける力がFSW装置には必要となります。写真1にもっともシンプルな構造を持つFSW装置の外観例を示します。


写真1 FSW装置の外観例

接合ツールはツールホルダで把持され,軸受け機構を介してツール回転用のモータに繋がっています。そしてこのユニットはエアや電動サーボ等によるツール軸方向の押圧機構に組み込まれます。写真の装置では被接合ワークはテーブル上に置かれ移動する方式ですが,接合ツールを含むFSWヘッドが走行する方式のものもあります。

生産用FSW装置の例として,写真2には米国ボーイング社でロケット燃料タンクの組立に用いられる大型FSW装置(ESAB社製)の外観を示します1)が,この装置では,円筒形ワークの長手方向接合線に沿ってFSWヘッドが立向に走行します。写真3には接合状況の例2)を示します(FSW装置は写真2のものとは異なりますが,接合はほぼ同じ方式です)。


写真2 ロケット燃料タンク用FSW装置の外観例


写真3 ロケット燃料タンクFSW状況

 
Q2 写真3(次ページ)では大掛かりなクランプを用いていますね。FSWではこのようなクランプが要るのですか。
 
A2

その通りです。FSWでは接合ツールを強い力で材料に圧入して接合が行なわれ,ツールの回転にともなって材料に作用する反力も相当なレベルに達します。このため,良好な接合品質を得るために,FSW装置にはワークをしっかりと位置決め・固定する機能が求められます。材料クランプにはボルト締め等の他,自動化のためエアシリンダや油圧シリンダも多く用いられます。

 
Q3 接合ツールの回転数や押圧力はどれくらいですか。
 
A3

 いずれも被接合材料の材質や板厚によって変化しますが,アルミ合金を対象とする場合,接合ツールの回転数は概ね500〜3,000rpm.程度,押圧力は数kN〜数十kN程度の範囲で設定されます。

 
Q4 FSWの施工条件の例を教えて下さい。適正条件は材料によって変わるのですか。
 
A4

 FSWの施工パラメータは前回説明の通り接合ツールの前進角,回転数,押圧力,および接合速度が主なものですが,このうち重要なものは接合ツール回転数と接合速度の組合せであり,他の二つのパラメータは被接合材料の材質や板厚によってだいたい一定に保たれます。

図1は代表的なアルミ合金である5083−O材と6N01−T5材(いずれも板厚5mm)について,ツール回転数と接合速度の適正範囲を比較した例です3)。これによるとまず,両材料とも接合速度とツール回転数が相関を持つある領域に適正条件域が存在することが分かります。次にそれぞれの領域の広さを比較すると,5083−O材では6N01−T5材に比べて適正条件域がはるかに小さくなっているのが分かります。これは接合が行われる400℃以上の高温における両材料の塑性流動性の差異に起因するものです。すなわち,5083−O材は6N01−T5材に比べて高温での流動性が乏しい,いわばかき混ぜ難いため,高回転では材料の塑性流動がツールの回転について来ず,低回転数/低速度でないと健全なFSW継手が得られません。

この点,高温で軟らかく押出し加工が可能な6000系合金はFSWによる施工性が非常に良好な材料です。この他の材料として2000系や7000系合金は,熱時効性を有するもののベースの強度が高いため,FSWでは適正接合領域が狭い材料と言えます。

 
Q5 FSWではどのような欠陥が発生するのですか。
 
A5

 FSWで発生する典型的な空孔状欠陥断面の例を写真4に示します4)。これらの欠陥は図1で示した適正接合域の外側,つまり攪拌過剰域や攪拌不足域でFSW施工した場合に発生します。不適切な接合条件で施工すると,図のような欠陥が多くの場合接合線全線にわたって連続的に発生し,断続的に,あるいはある部位のみ局所的に起こることは稀です。


図1 6N01-T5材および5083-O材における適正接合条件の比較例


写真4 FSWにおける接合欠陥の例

この他の接合欠陥として重要なものに,接合ツールのピン長さが接合する板厚に対して短すぎる場合に裏面側で未接合部が残るKissing Bondがあります5)。この未接合部は強攪拌によるStir Zoneの直下に位置し,オリジナルの接合界面同士が非常に強く密着しています。このため通常の放射線透過検査や液体浸透探傷検査では検出できない場合が多く,1パス突合せによるFSW施工における品質管理上の課題の一つです。これについては最近になって超音波探傷法の適用検討が開始されています6)

 
Q6 FSW継手の硬さ分布について教えて下さい。
 
A6

図27)および図38)に,6N01−T5材および5083−O材におけるFSW継手断面の硬さ分布の例をそれぞれ示します。加熱によって強化析出相の時効を伴う6N01−T5材ではStir Zoneで固溶化,熱影響部で過時効化がそれぞれ起こり,これらによる硬さ低下が起こります。ただFSWでは結晶粒微細化や加工硬化によってある程度相殺されるため,ミグ溶接等溶融溶接の場合に比べると硬さ低下の度合は軽微です。一方,熱時効性をもたない5083−O材では接合部における加熱による硬さ低下はみられず,図3のように母材と同レベルの硬さが継手全体にわたって維持されるか,あるいは結晶粒の微細化効果や加工硬化によってStir Zoneとその周辺部の硬さが上昇する場合もあります。この5083−O材FSW継手における硬さ分布は溶融溶接ではみられない特徴で,後述するようにFSW継手に良好な機械的性質を与える原因となっています。


図2 6N01-T5材FSW継手の硬さ分布例


図3 5083-O材FSW継手の硬さ分布例

 
Q7 FSW継手の強度は,母材や従来のアーク溶接継手に比べてどうなのでしょうか。
 
A7

 図4に6N01−T5材における母材,FSW継手,ミグ溶接継手(5000系ワイヤ使用)の引張強さの比較例を示します。これより,FSW継手は母材には劣るもののミグ溶接継手よりは高い引張強さを有しています。これは先述した硬さ低下の傾向と一致するもので,ミグ溶接からFSWへの施工法変更は少なくとも静的な強度の面で問題ないことが分かります。また,これに対して5000系合金では先述のように硬さ低下が起こらないため,FSW継手は母材にほぼ匹敵する引張強さを示すことが確認されています。アルミ合金の溶接継手において継手引張強さが母材と同等を示すことはきわめて例外的なことで,FSWの優位性を際立たせる例と言えます。写真5は5083−O材FSW継手の曲げ試験結果の例9)ですが,板厚の2倍という厳しい曲げ半径で試験を行なってもFSW継手は割れ等もなく母材とまったく変らない良好な曲げ特性を示しています。


図4 6N01-T5材母材,FSW継手,ミグ溶接継手の引張強さ比較例


写真5 5083-O材FSW継手の曲げ試験結果

 
Q8 疲労強度についてはどうでしょうか。
 
A8

 疲労強度に関しても,FSW継手はこれまでのアーク溶接継手を大きく凌駕する特性を有することが多くの報告により明らかになっています。図5はその一例を示すもので,5083−O材における母材,FSW継手,ミグ溶接継手の両振り引張疲労試験結果9)を示しています。図から分かるように,FSW継手の疲労強度は母材に近い値を示しており,ミグ溶接継手を大きく上回っています。これは継手の形状が大きく影響しています。つまりFSW継手は裏面がフラットで表面も接合ツールが前進角をもつ分わずかに凹面となっているだけで,ミグ溶接継手の余盛止端部のように疲労強度を低下させる応力集中箇所がありません。これによって,5083−O材のFSW継手は母材にほぼ匹敵する疲労強度を示すわけです。なお,6N01−T5材等の熱時効性合金ではFSW継手の疲労強度は当然母材を下回りますが,その程度はアーク溶接継手に比べると軽微であることが報告されています。

次回は,FSWの各種製品への適用事例や,アルミ合金以外の材料への適用動向について紹介します。


図5 5083-O材母材,FSW継手,ミグ溶接継手の疲労強度比較例

参考文献
1) ESAB社カタログ;ESAB Super Stir(1996)
2) M. Johnsen;Friction Stir Welding Takes Off at Boeing,Welding Journal, Vol.78(1999), No.2, 35-39
3) 岡村;アルミニウム合金の摩擦撹拌接合と構造物への適用,第168回溶接法研究委員会資料,SW−2659−99(1999年12月)
4) 古賀;摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding)の概要と当社におけるその適用について, 日本溶接協会特殊材料溶接研究委員会資料,SW−13−98(1998)
5) A. Oosterkamp et.al.;‘Kissing Bond’Phenomena in Solid-State Welds of Aluminum Alloys, Welding Journal, Vol.83(2004), No.8, 225S-231S
6) 例えばOikawa et al.;Studies on Characteristics of Friction StirWelded Joints in Structural Thin Aluminum Alloys Part 1 −Imperfections in Friction Stir Welded Zone and Their PrecisionNon-destructive Testing, Proceeding of IIW Pre-AssemblyMeeting on FSW(July 2004, Nagoya)
7) 熊谷;Friction Stir Weldingのアルミニウム合金溶接構造物への適用,摩擦圧接協会平成11年度第3回研究会資料
8) 犬塚ら;5083アルミニウム合金FSW継手の諸特性(第1報),平成14年度溶接学会春季全国大会後援概要集,317
9) 古賀ら;アルミ合金製構造物の新接合法,川崎重工技報,No.154(2004年1月),52−55

 

古賀 信次
川崎重工業(株)神戸工場
 
出典:【溶接技術2004年10月号】

 

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