Q&A溶接入門講座

FSW(摩擦撹拌溶接) 第1回

入門教室/Q&A

FSW(摩擦撹拌溶接) 第1回

 
Q1 FSWはいつ頃どこで開発されたのですか。
 
A1

 FSWは1990年代の初めに,英国の溶接研究機関であるTWIで開発された技術です。TWIは基本的な接合方法を発明後,世界から出資企業を募って実用化のための開発に着手しました。この開発には日本からもいくつかの企業が参画しています。

その後1990年代の中頃,Welding Journal誌他への発表1)2)によってこの新しい接合法は世界的に知られるようになりました。


図1 FSW用接合ツール


図2 接合プロセスの模式図

 
Q2 FSWは誰でも自由に使えるのですか
 
A2

いいえ,FSWは発明元のTWIがほぼ全世界の各国で特許を保有しており,生産や研究の目的でFSWを行う場合にはTWIからライセンスを購入する必要があります。

わが国では1992年と1995年にそれぞれ1件の特許が出願され3)4),いずれもすでに登録されています。ライセンスは産業分野と学術分野で価格や支払いの条件が異なっていますが,いずれにしてもFSWの装置を置いてこれを使用する限り,特許が有効な現時点ではTWIへの支払い義務が発生するとお考え下さい。


写真1 接合ツール先端形状の例


写真2 FSW継手の表裏面外観の例

 
Q3 FSWの基本的な接合原理を教えて下さい
 
A3

 FSWは接合ツールと呼ばれる特殊な工具を用います。この工具(図1)は円柱形状で,先端にピンまたはプローブ(以後ピン)と呼ばれる突起をもっています。被接合材料は接合する面同士を密着させた状態で固定し,裏側には裏当て金が置かれます。接合ではまず,接合ツールを所定の回転数で回転させながら接合線上の材料表面に押し付けます。これにより接合ツールと材料の間に摩擦熱が発生して,この熱で材料が軟化します。接合ツールは所定の加圧力で材料に押し付けられているため軟化した材料中に圧入されていき,最終的にはピンが完全に材料中に埋没した状態となります。この時,ピン周辺の材料は接合ツールの回転に引きずられる形で塑性流動を起こします(つまり接合ツールによってかき混ぜられるわけです)。その後接合ツールの回転と加圧を維持しながら接合線に沿ってツールを移動させると,接合ツールの後方には塑性流動によって一体化されたFSW継手ができます(図2)。これが基本的なFSWの接合原理です。

 
Q4 FSWはどのような材料の接合に適用されるのですか。
 
A4

 FSWでは摩擦熱による材料の軟化と塑性流動が接合の基本的な条件になるため,現在のところアルミニウム,マグネシウム,銅のように比較的低い温度で軟化する金属材料,あるいはその合金が主対象となっています。

 
Q5 接合中,材料は溶融するのですか。
 
A5

 いいえ,FSWでは接合過程で材料が融点にまで加熱されることはなく,例えばアルミニウムの場合到達温度は500℃程度あるいはそれ以下であることが報告されています5)6)。FSWでは材料を「かき混ぜて(Stir)」一体化しますが,これは固体状態での塑性流動現象を利用したものです。したがって接合法としてのFSWは固相接合法に分類されます。

 
Q6 接合ツールにはどのような材質が使われるのでしょうか。
 
A6

アルミニウム合金やマグネシウム合金を接合する場合には,所定の熱処理を施した工具鋼が一般に用いられます。また長時間の連続施工等,使用状況が厳しい場合や板厚が大きい場合には,高温強度が高いコバルト基合金等,特殊な材質が選択されることもあります。

 
Q7 接合ツールの形状はどのようにして決められるのでしょうか
 
A7

 接合ツールは先端のピン,およびその付根にあたるショルダーの形状を適正に設計する必要がありますが,とくに材料中に埋没しこれを攪拌するピンは接合品質に大きな影響を及ぼします。しかしその形状は重要な施工ノウハウの一つであることから詳細な情報が企業から公表されることは稀で,FSW施工者が自ら行なった試験や経験に基づいてそれぞれ個別に設計しているのが実情です。

写真1にはTWIが公表しているFSWツールの例を示します7)。Trifluteと呼ばれるこのツールはネジが切られたテーパ形のピン側面にその名の由来である3条の螺旋溝を設けた複雑な形状をしていますが,TWIによると厚板を高速で接合できるとされています。この例のように接合ツールのピンにはネジが切られているのが一般的です。

また,ピンの長さは,突合せ継手の場合,被接合材の板厚より僅かに短くされます。

 
Q8 FSW継手はどのような外観になるのでしょうか。
 
A8

 写真2に板厚4.5mmの6N01−T5材を突き合せてFSWで接合した継手の表裏面外観の例を示します。表面は接合ツールのショルダーによって僅かな窪みが生じますが,ほぼ平面状となり,裏面は裏当て金によって完全な平面が保たれます。裏面に見える斜めの筋状の模様は裏当て金表面の機械加工跡がそのまま転写されたものです。このように,アーク溶接等でみられる余盛が表裏面ともに形成されないことがFSW継手の特徴の一つです。

 
Q9 継手の断面組織について教えて下さい。
 
A9

 図3にFSW継手断面マクロ組織の例を示します。継手の中央部には融点近くの高温への加熱と大きな塑性変形によって形成されたFSW特有の領域が存在します。この領域は攪拌域(Stir Zone)と呼ばれ,方向性を持たず母材に比べても非常に微細な再結晶組織を呈しています。再結晶現象は接合方向に沿って連続的ではなく,溶融溶接におけるリップル形成のようにある程度断続的に起こると思われ,これによって攪拌域の断面には同心円状の濃淡模様(Onion Ring)がみられます。攪拌域の外側には再結晶を起こさない程度の加熱と塑性加工を受けた領域(TMAZ:Thermo-MechanicallyAffected Zone)が存在し,この領域では塑性変形による組織の流れの痕跡が明瞭にみとめられます。さらにその外側には通常の溶接と同様に熱影響部(HAZ:HeatAffected Zone)が形成され,最終的に母材原質部に至ります。


図3 FSW継手の断面マクロ組織の例

 
Q10 FSWはどの程度の板厚範囲に適用できるのですか。
 
A10

 アルミニウム合金の場合,合金の種類によっても異なりますが,1mm程度から数十mm程度の板厚範囲に適用できるとされています。写真3は6082-T6材厚板のFSWによる接合例(表裏面から各1パスずつ施工)を示します8)。6000系合金は高温での塑性流動性が高くFSWによる施工性の良好な合金で,このように70mmに達するような厚板の施工も可能です。


写真3 6082-T6材厚板のFSWの例

 
Q11 FSWを適用できる継手形式を教えて下さい。
 
A11

 FSWは突合せ継手に多く用いられますが,重ね継手に適用することも可能です。ただし,あまり小さな曲率の曲線継手や複雑な3次元形状の継手への適用は困難で,現状は直線あるいは緩曲線の継手,あるいは円周継手等に適用が限定されているようです。

 
Q12 FSWの施工パラメータにはどのようなものがあるのでしょうか。
 
A12

 FSWの施工パラメータとしては,接合ツールの回転数,押圧力,前進角,および接合速度があげられます(図4)。このうち,接合ツールの前進角は施工時の欠陥を防止するために与えるもので,経験的にその必要性が認識されています。角度は一般的に数℃以下に固定して設定されます。その他の3つのパラメータは,接合する材料の材質および板厚に応じ組合せて設定されます。とくに接合ツールの回転数と接合速度は,回転刃による機械切削での「送り」のように適切な相関関係をもたせて設定することが健全な継手を得るために重要になります。接合条件と欠陥の関係については次回により詳しく説明します。


図4 FSWにおける接合パラメータ

 
Q13 FSWの得失について,従来法であるアーク溶接と比較しながら教えて下さい。
 
A13

 アーク溶接と比較したFSWの特長と欠点について表にまとめました。若干の欠点もありますが,アルミニウム合金の溶接に関する限り,FSWはこれまでのアーク溶接に比べて数多くの優位点を持った魅力的な新接合法であると言えるでしょう。

参考文献
1) C.Dawes et al.; An introduction of friction stir welding and itsdevelopment, Welding & Metal Fabrication, Jan. 1995, P13−16
2) C.Dawes et al; Friction Stir Process Welds Aluminum Alloys,Welding Journal, Vol.75 (1996),No.3, P41−45
3) 特許第2712838号「摩擦溶接方法」
4) 特許第2792233号「摩擦攪拌溶接」
5) 篠田他:界面活性接合法によるアルミニウム板材の接合,摩擦圧接,Vol.2 (1995), No.4, P173−178
6) 榎本;アルミニウム合金への摩擦攪拌接合の適用,軽金属溶接,Vol.36 (1998),No.2,P25−29
7) S. Kallee et al;Friction stir in aerospace ? the industrial way,TWI Bulletin, Vol.43 (2002),No.3
8) W.Thomas et al.; Friction Stir ? Where we are, and where we’regoing, TWI Bulletin, Vol.39 (1998),No.3
9) 青田他;Friction Stir Welding法の入熱量及び接合部の特性,溶接学会全国大会講演概要,第64集(1999−4),156−157

表 アーク溶接と比較したFSWの特徴と欠点

 

古賀 信次
川崎重工業(株)神戸工場
出典:【溶接技術2004年9月号】

 

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