Q&A溶接入門講座

FSW(摩擦撹拌溶接) 最終回

入門教室/Q&A

FSW(摩擦撹拌溶接) 最終回

 

 最終回の本稿では,国内外におけるFSWの実用化例に続き,アルミニウム合金以外へのFSWの適用検討の状況について紹介します。

 
Q1 製品適用や研究用にFSWを実施するには発明元であるTWIに対してライセンス料の支払いが必要ということですが(第1回),現在国内外のライセンシーの数はどれくらいでしょう。
 
A1

 現時点でのライセンシー数は企業,大学,中立研究機関等を併せて世界で100前後です。このうち日本のライセンシーは企業と大学等(中立研究機関含む)でそれぞれ10前後であり,FSWの名前が広く知られつつある割には,現在のところまだあまり多いとは言えません。特に企業ライセンシーはアルミ素材メーカーや自動車メーカー,重工を主とする大企業に限られています。これはTWIが企業での生産用途に課すFSWのライセンス料が年間数百万円と高額であることが最大の理由で,中小企業を含む多くの企業がFSWを使おうとする場合の障壁となっています。

 
Q2 FSWはすでに何らかのアルミ製品に対して実用化されているのでしょうか。
 
A2

FSWは1990年代中頃に発表されて以来約10年を経過したにすぎない新しい接合法ですが,欧米や日本ですでにいくつかの実用化例が報告され始めています。製品分野としては船舶,航空宇宙,鉄道車両,鉄構等多岐にわたりますが,先述のようにライセンシー企業のほとんどが大企業であるため,報告されている実用化例はそのほとんどが規模の大きな製品に対するものです。

 
Q3 船舶関係ではいつごろから,どのような部位に使われているのでしょうか。
 
A3

 アルミ合金製の船殻構造へのFSWの適用は,1990年代半ばに北欧で始まりました1)。北欧諸国はアルミ合金製高速フェリー(写真1(a))や大型客船を多く建造していますが,これらの船では積載量や速度等の性能に加えて外観の美しさが重要な製品価値となります。そこで,これまで用いられてきたミグ溶接に比べ接合にともなう熱変形が小さいFSWが外板やフロアのパネル製作に適用されました。主として上部構造に用いられるこれらのパネルは6000系合金の押出し型材を長手方向に繋いで作られますが,FSWの採用により波打ちのないフラットなパネルを,接合後に歪矯正の必要なく製作することができるようになりました(写真1(b))


写真1 船殻パネルへのFSW適用例

 
Q4 造船国であるわが国ではFSWの実用化は行なわれていないのですか。
 
A4

 近年のアルミ高速船市場冷え込みからアルミ船の建造案件そのものが少ないため,FSWの本格適用はこれまで報告されていませんでした。しかし2004年に建造された超高速貨客船テクノスーパーライナでは大型FSWパネルが本格的に実用化され,わが国の造船所におけるFSWの初適用が実現されました2)

 
Q5 溶接がいまだほとんど用いられない航空宇宙の分野でもFSWはすでに実用化されているのですか。
 
A5

 その通りです。世界でももっとも実用化が進んでいるのは米国です。ボーイング社は航空機と並んでロケットの製造メーカーですが,同社のデルタロケットの胴体にあたる燃料タンクは現在FSWによって組み立てられています。燃料タンクは高力アルミ合金(2000系)で作られますがその溶接は難度が非常に高く,ボーイング社でもこれまでのミグ溶接では溶接欠陥が多発し,多くの手直し工数が必要とされていました。これに対し固相接合でありブローホールや溶接割れが発生しないFSWを採用することで接合部の品質が飛躍的に向上し,大きな溶接コストの削減がなされたということです3)。写真2にはボーイング社Decator工場に設置された2台の大型FSW装置を示します4)。1台は円筒形タンクの長手継手,もう1台は円周継手の接合にそれぞれ用いられるということです。


写真2 ロケット燃料タンク用FSW装置(Boeing社)

航空機の分野では,Eclipse Aviation社における小型ジェット機への適用が大きな話題となっています。同社では6人乗りビジネスジェット機の機体製作において,外板と骨材の重ね接合にこれまでのリベットを廃しFSWを採用することで,大幅なコスト低減を実現したと発表しています5)。写真3に同社製Eclipse 500の初飛行とFSWで組み立てられた胴体の内面を示します6)。また同機は胴体のみならず翼部材にもFSWを採用しており,その施工は日本企業が担当する予定とされています。また欧州では次期大型旅客機の機体構造にFSWを適用するための検討が行われています。図1はエアバス社における胴体構造へのFSW適用構想図を示しますが7),現在開発中の次期超大型機A380の機体構造にもFSWが採用される可能性があります。


図1 旅客機胴体構造におけるFSW適用候補部位の例


写真2 ロケット燃料タンク用FSW装置(Boeing社)

航空機機体に用いられる2000系合金や7000系合金は溶接割れ等の問題からこれまで溶融溶接はほとんど適用されませんでした。ところが新しい固相接合法FSWの登場によって,機体製作法に関するこれまでの常識が覆される可能性が生まれており,上記の事例でもそれは立証されつつあります。

 
Q6 鉄道車両についてはどうでしょうか。
 
A6

鉄道車両へのFSWの適用については,日本の車両メーカーが世界をリードしているといえます。アルミニウム合金はステンレス鋼とならんで車両構体の主要材料であり,主に6000系押出し型材が用いられますが,従来用いられてきたミグ溶接やティグ溶接に代わって,特に外板周りの多くの部分にFSWが適用されるようになっています。通勤車両,特急車両の側構体に対するFSWの適用部位の例を図2に示します。FSW採用の最大の理由は接合に伴う変形が小さいことで,FSWによって製作された車両は外板面の波打ちが小さい美麗な外観が高い評価を得ています。鉄道車両の最先端である新幹線車両についても,今後JR各社で投入される次世代車両の構体にはFSW採用の可能性が高くなっています。


図2 鉄道車両構体におけるFSW適用部位の例

 
Q7 その他,FSWの適用対象製品としてはどのようなものがあるのでしょうか。
 
A7

 大型の構造物としては,歩道橋等のアルミ床版があげられます8)。近年歩道橋や道路橋歩道部分拡幅工事において軽量なアルミニウム合金(6000系)が用いられることが多くなっていますが,FSWの適用によって歪みの少ないフラットな床版が製作できるようになったとの報告がなされています。

その他,FSWは自動車,電気製品等における各種アルミ合金部材への適用が着実に進みつつあります。ただ先述の高額なライセンス料がネックとなり,実製品適用は今のところほぼ大企業に限られているのが現状です。

 
Q8 これまでアルミニウム合金へのFSW適用について聞いてきましたが,それ以外にはFSWはどのような材料に用いることができるのでしょうか。
 
A8

 アルミニウム合金以外の材料としては,マグネシウム合金9),銅合金10)については技術的にはすでに実用化域に入っていると言えます。マグネシウム合金(AZ31,AZ61,AZ91等)については具体的な製品適用対象が模索されている状況であり,また銅合金についてはすでに半導体製造装置の基盤等における実用化が始まっています。

また鉄鋼材料(炭素鋼,ステンレス鋼)に対してもFSWの施工性や接合部の特性に関する検討が開始されています。写真4にステンレス鋼(SUS304)のFSW施工状況と施工部(ビードオンプレート)の断面マクロ組織の例を示します。ただ鉄鋼材料に関しては,現状では基礎検討の域を出ておらず,実用化にはまだしばらくの時間が必要でしょう。


写真4 SUS304のFSW実験状況と接合部断面マクロの例

 
Q9 鉄鋼材料のFSWにおける問題点は何ですか。
 
A9

 アルミニウム合金やマグネシウム合金に比べて鉄鋼は高融点で,塑性流動を起こす温度も1000℃を超える高温になります。FSWにおける最大の問題点はこのような高温に耐える接合ツールが現時点では見出されていないことです。現在,窒化ボロン等のセラミックス系材料を中心としてツール材質の開発が進められていますが,耐久性に限界があり商業ベースでの実用化の域には達しておらず,今後の開発進展が待たれています。

参考文献
1) Marine Aluminium Aanensen & Co. A/S, FSW技術資料
2) 中村;アルミ合金製大型高速旅客船へのFSW適用,平成16年度溶接学会秋季全国大会技術セッション資料,P47
3) M. Johnsen;Friction Stir Welding Takes Off at Boeing,Welding Journal, Vol.78(1999),No.2,35−39
4) S. Kallee;Invention, Implementation and Industrialization ofFriction Stir Welding, First EuroStir Workshop, July 2002, GreatAbington, UK
5) A Velocci; Eclipse presses ahead amid wide skepticism;Aviation Week and Space Technology, 16 Oct. 2000, 62-63
6) Eclipse Aviation社ホームページ
7) D.Lohwasserら;Application of Friction Stir Welding forAircraft Industries, 2nd International Symposium on FSW,Sweden(2000, June)
8) 大隈ら;FSWのアルミ土木構造物への適用,平成16年度溶接学会秋季全国大会技術セッション資料,P54
9) 例えば,北原ら;AZ31マグネシウム合金FSW継手の諸性質,溶接学会全国大会講演概要集,第68集,(2001−4)132−133
10) 岡本ら;摩擦攪拌接合による銅バッキングプレートの製造,溶接学会全国大会講演概要集,第70集(2002−4),192−193

 

古賀 信次
川崎重工業(株)神戸工場
出典:【溶接技術2004年11月号】  

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