Q&A溶接入門講座

溶接ロボットの基礎知識 第2回

入門教室/Q&A

溶接ロボットの基礎知識 第2回

溶接ロボット導入時の留意点

 

 前回は,「溶接ロボットに関する基本的な知識」としてロボットの概要を説明いたしましたが,今回は少し具体的な溶接ロボットの解説を行います。

 
Q1 ロボットを工場内に設置する場合の設置場所等について配慮すべきことはどんなことですか?
 
A1

ロボットの設置スペースは,メーカーのカタログなどを参考にして広さを確保してください。その際,ロボットの後ろ側(作業者と反対側)にコンジットや溶接ケーブルが垂れ下がり,それらがロボットと一緒に動き回りますのでロボットの後ろ側にも空間が必要です。また,ロボットは図1のように旋回軸方向に300゚以上の可動範囲がありますが,安全のためにも必要最小限の可動範囲に制限して使用してください。


図1 ロボットの動作範囲

ロボットにはティーチペンダントで設定できる制御上の可動範囲と,ロボット本体に取り付けられているリミットスイッチで設定できる機械的な可動範囲があり,それぞれ必要に応じて変更が可能ですので,設置後は必ず使用目的に合った可動範囲に設定してください(図2)。


図2 動作範囲の制限

ロボット設置高さは,まず作業台の高さを決めます。作業者がワークの着脱に疲れない高さ,とくに手動クランプの場合はクランプしやすい高さと方向を配慮して作業台の位置を決めます。そこにワークを置いてロボットで十分溶接の姿勢が確保できるか確認してロボットの設置高さを決めていきます。

 
Q2 ロボットを設置する時の電気接続に関して注意することがあれば教えてください。
 
A2

溶接ロボットを工場に設置して使用する場合,電気の接続は溶接機とロボット制御装置について行います。両方とも三相200Vですが,配電盤は必ずそれぞれの電気容量にあったブレーカで別々に準備してください。これは,溶接機とロボットの電気容量が大きく異なることと,制御装置への電磁ノイズの侵入防止のためです。溶接機は瞬間的に高電流を発生させる大きなノイズ源です。一方,ロボット制御装置は良質な電気の供給が必要な機器です。そのために必ず配電盤は別にしてください。また,配電盤のブレーカは,それぞれの電気回路から発生する高周波漏れ電流がありますので,「インバータ用ブレーカ」を使用してください。

据付接続時のもう一つの注意事項は接地(アース)工事を必ず実施することです。これには二つの目的があって,一つは機器が漏電した場合の感電防止のために必要なことと,あと一つはロボット制御装置への電磁ノイズ侵入防止のためです。接地線はノイズによる誤動作を防止する大きな手段ですので必ず実施してください。その際,接地線と他の機器との共用は避けなければなりません。図3のように接地線はすべて独立分離して行ってください。


図3 設置線(アース)の取り方

 
Q3 1台のロボットで炭酸ガスアーク溶接とティグ溶接を行いたいのですが可能ですか?
 
A3

 ロボット自体はどのような施工方法にも対応できますが,複数の施工法で使用する場合には段取り変えとして次の作業を行う必要があります。ハード面では,溶接機・溶接トーチ・送給装置・シールドガス等溶接関係の機器・部品の交換です。ソフト面に関しては,ロボットの「溶接関係のパラメータ」を変更する必要があります。溶接関係のパラメータの変更とは,

➀トーチ交換にともなうロボットの原点(補正点)の設定を変更>

➁溶接機交換に伴う電流・電圧の特性データ(指令値)の変更

などのことを言います。以上の作業で複数の施工法に対して1台のロボットで対応は可能ですが,トーチや送給装置の交換にともなう時間のロスや機械のガタの発生,また,ティーチングデータの見直しなどを考えるとお薦めできる方法ではありません。

 
Q4 ロボットで用いる溶接機は,現在半自動アーク溶接で使っている溶接機も使用できますか?溶接機を選定する基準はどのようなことですか?
 
A4

 ロボットで使用する溶接機は,ロボット専用に作られた溶接機の他に一般の汎用溶接機も使用できます。ただ,汎用溶接機をロボットで使用するためには溶接トーチや送給装置の取り付けおよび電流電圧の入力方法などを別途設定する必要があります。ロボット専用の溶接機の場合は,トーチ・送給装置・電流電圧の設定値を含めてロボットで使いやすいようになっていて,また自動溶接のためのさまざまな機能(アークスタート性や高速溶接時のアーク安定性など)が作り込まれています。最近は溶接機自体もデジタル化になり,ますますロボットで使いやすく(ロボット側から溶接の各種設定が可能)なっていますので,ロボット専用溶接機をお薦めします。

溶接機の選定時に考慮しなければならない一つに,溶接機の使用率があります。一般の溶接機は人が溶接を行うことを前提にしているために,使用率60%程度のものが多いようです。しかし,ロボットでの溶接の場合にはアークが出ている時間が長く,高使用率の使い方となります。したがって,実際の使用電流と溶接機の使用率をしっかりと把握しておくことが必要です。例えば,270Aで溶接を行う場合は,定格350A・使用率60%の溶接機では許容使用率が100%ギリギリなので,余裕を見て500Aの溶接機を準備したほうがいいと思います(溶接機の使用率とは,溶接機を定格電流で使用した場合,10分間の中で何分間連続使用ができるかの割合をいいます)。

 
Q5 ロボット溶接システムの場合に外部軸を使用しているのをよく聞きますが,外部軸を使用する目的を教えてください。
 
A5

 外部軸はロボット単体では可動範囲が限られるために,可動範囲拡大のためと最適溶接姿勢の確保のために用いられ,代表的な外部軸は図4に示すようなスライダとポジショナがあります。スライダは大型の溶接物に対して広い溶接範囲を確保するため使用されます。ロボット自体をスライダで動かす場合と,溶接ワークを動かす場合があり,動きの方向は左右・前後または上下と,設備の規模やコストなど目的に沿った方向で使用されます。ポジショナはワークを回転・傾斜させるもので,作業者によるワーク反転作業の軽減や,溶接姿勢を最適化するために使用されます。


図4 ロボットの外部軸

これらの外部軸を動かす方法は,市販されているスライダやポジショナをロボットと組み合わせ,入出力信号のやり取りで特定の位置へ動かす方法と,あらかじめロボットの制御で動かすように設計された外部軸を使用する方法があります。市販品の外部軸を用いた場合は,外部軸は位置決めだけに使用して,外部軸を動かしながらの溶接はできません。なぜならば,外部軸とロボットに付いている溶接トーチの相対速度が任意に設定できないからです。

 
Q6 ロボットで制御できる外部軸を使用するメリットを教えてください。
 
A6

ロボットの制御で動かすことのできる外部軸は,ロボット本体に使用しているサーボモータと同種のサーボモータが使用されていて,ロボット本体6軸プラス外部軸1軸または2軸目としてティーチペンダントで動かすことができます。また,外部軸との協調動作の機能を盛り込んだソフトが組み込まれている場合は,溶接トーチ先端と外部軸の相対スピードが制御できるので,外部軸を動かしながら溶接を行うことが可能です。外部軸を動かしながら溶接ができたら,図5のような,いわゆる「鞍型」と言われる形状も溶接姿勢を下向にしたまま途中でアークを切らずに一筆書きで溶接ができます。このような使用方法は,次の理由でアーク溶接にとって非常に高品質の溶接を得ることができます。

➀溶接中は溶融プールが液体状態であるために,絶えず下向(溶接トーチが下を向く)で溶接を行ったほうが良い。横向や縦向溶接では溶融プールがたれ落ちる可能性がある。

➁アーク溶接は,スタート部と終了部に溶接欠陥を発生しやすいので,できるだけアークを切らずに溶接ビードを連続したほうが良い。

このような理由で,ロボットと外部軸を協調(シンクロ)させることは,溶接品質の向上に大きく寄与します。


図5 外部軸と協調(シンクロ)した「鞍型」構造物の連続溶接

 
Q7 抵抗スポット溶接をロボットで行う方法はどのような方法がありますか?
 
A7

 ロボットが溶接物を持って定置式のスポット溶接機へ運んで溶接を行う方法(図6)と,ロボットがスポットガンを持って溶接箇所へ行き溶接を行う方法(図7)の二通りがあります。


図6 ハンドリングロボットを用いる抵抗スポット溶接


図7 スポットガンを用いた溶接ロボット

ロボットがワークを持つ方法は,ハンドリング仕様のロボットにワークを固定する把持機構を付加し,定置式のスポット溶接機との間で信号のやり取りを行えば使用できます。この方法では,作業者の代わりにロボットが溶接物を運び,溶接を行うために仕組みが単純で,既設の定置式のスポット溶接機を生かした使い方ができますが,溶接物が変わるたびにワークを固定する把持機構を変更する必要があります。

一方,スポットガンを持つ方法は,ガン自体の重量が重いために,可搬質量の大きな大型ロボットを使用し,溶接ケーブルや水冷ホースなどをロボットへ配線し,使用しますが,ワークを置いた多様な溶接物に適用が可能です。また,スポットガンにはエアで加圧するエアガンタイプと,サーボモータで加圧力を調整できるサーボガンタイプがありますが,その違いを表1に示します。

表1 エアガンとサーボガンの比較

 
Q8 ワークを固定するジグを準備する上で注意することを教えて下さい(アーク溶接・抵抗スポット溶接に共通)。
 
A8

 ロボットは,±0.1mmの繰り返し精度で自動運転を行うので,ワークおよびそれを固定するジグが良くないと良い溶接結果は得られません。溶接ロボットを上手に使いこなすには,ジグの出来不出来が大きく影響しますので,次の内容を参考にしてジグを準備してください。

➀ ワーク固定ジグは,ワーク加工の基準面が位置決めの基準面になるような構造とする。
・反転など行う場合も同じ基準面を基にする。
・ジグ側基準面にスパッタが付着しないようにする。

➁スパッタ対策を十分に行う。
・可動部にスパッタが付着しないこと。
・可燃物は使用しない。
・ケーブルホース類の保護はよいか。
・スパッタが蓄積しても動作不良になるところはないか確認する。
・スパッタは定期的に掃除できる構造にしておくこと。
・ワークの支持方法は,「点」または「線」で受け,面では受けない。スパッタが付着したら,溶接位置がずれるから。

➂溶接歪みを配慮する。
・クランプの位置は溶接部の近くにとる。
・溶接歪みの力は非常に大きな力である。
・歪みが発生してもワークの脱着に支障がない構造にする。

➃一度のセットで多くの溶接ができる構造とする。
・クランプ位置及び溶接姿勢を考慮する。
・ポジショナを利用してワークを回転させる。

➄クランプ方法は,作業性を配慮する。
・手動クランプは,作業者が絶えず使用するものなので作業性・操作性を意識して作ること。
・大きさ,位置,操作方向に配慮が必要。

➅半自動溶接で使用しているジグの転用を考える。
・コストを安くできる。
・短時間でできる。
・ジグのくせがわかっている。

➆多品種生産時の対応。
・ジグの段取り変え作業時間の短縮を考慮する。
・位置決め基準はできるだけ共通にする。
・ワークに応じてジグ一式交換とする。

➇薄板のアーク溶接個所の裏側は,フリー(空間)が望ましい。バッキング材を用いると,バッキング材との接触の程度で溶接結果が大きく異なってくる。

➈作業の安全性を配慮した構造とする
・ロボットの可動範囲の外でワークを着脱できる構造とする。

ジグの構造は,シンプルイズベスト(Simple isBest)最後に次の質問に対してお答えしたいと思います。
 
Q9 溶接ロボットが普及していったら溶接工は不要になっていくのでしょうか?
 
A9

 ロボットは人が指示した通りの動きしかできません。とくに溶接作業は電流・電圧・速度の溶接三条件ほかにトーチ角度・ワイヤ突出し長さ・シールドガスの種類や量などパラメータが多く,その品質は作業者の技量が大きく影響します。したがって,ロボットで溶接を行う場合も溶接工の人の技量を必要とします。溶接工がティーチングした溶接技量がロボットでの溶接結果に大きく反映されます。ロボットはトーチを持って移動しているだけです。決して人が不要になることはありません。溶接の品質は人が作りこんでいきます。当然品質の責任は人にあります。ロボットは溶接工(オペレータ)の人が教え込んだ仕事を忠実に実施していく単なる機械です。オペレータは自分の溶接技能向上とロボットを使いこなして行く知識向上に努め,より品質の高い溶接を効率的に実施されることを望みます。

2回にわたって,溶接ロボットの基礎知識を紹介してきましたが,産業用ロボットの進化は日進月歩で大きく変化しています。とくに溶接ロボットの弱点であるティーチング時間と溶接位置の確認において今後,表2に示すような点で大きな進歩が期待できると思われます。

表2 大きな進歩が期待できる点

*期待できる内容
・ロボット稼動中に別のプログラムを事務所等で作成できるのでロボットの稼働率が上がる。
・ロボットから離れたところで教示作業ができ安全性が向上する。
・ワーク精度やワークセットのばらつきに対応ができる。
・溶接で発生する熱歪に追従ができる。
今後も最新の情報と技術を取得し,溶接ロボットを使いこなされることを期待します。

 

黒田 進
(株)ダイヘンテクノス
 
出典:【溶接技術2006年2月号】

 

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